05-05 九人
3話投稿の2。
会話したついでに、上級迷宮の守りをユスティスに依頼した。
戦闘から離脱する際、緩衝地帯の初級迷宮の最下層に一旦跳び、その後ペッテルの上級迷宮に帰還した。転移の得意な奴の追跡を撒くためだが、確信を持てずにいたからだ。
『大丈夫だと思うよ。奴はペッテルを完全にこちらサイドだと思ってるからね。でもまぁ、それで君が安心して戦えるって言うなら任されたよ』
と、珍しく素直に言う事を聞いてくれた。
本当に珍しいよな。結構切羽詰まってるのか、もしかして?
ともかく、安心して俺は――それでもアリスだけは伴って――ヒデ達ザヴィアと合流するべく、ペッテルへと足を延ばした。
「不在?」
「はい。勇者さまは“陽の迷宮”を攻略するからと、お兄さまに会ったらそう伝えて欲しいと伝言を承りましたわ」
「そういや、そんな事も言ってたっけな」
王城でシーラに再会すると、そんな事を言われた。
「もう日本に帰る手段は必要なくなったって伝え忘れてたわ」
あの後、すぐに妖精の国へ向かったからなぁ。その暇がなかった訳だが。
「でも、好都合よね。そうでしょ、チロ?」
「まぁな」
そうなると唯一心配なのは、俺達と合流する前に奴とかち合ってしまう事だ。
「急いで合流しよう」
「うん」
「お兄さま…もう行ってしまうのですか?」
悲しそうな目でそう呟くシーラに心が締め付けられる。
「悪いな。全部終わったらいっぱい遊んでやるから、許してくれ」
「はい! わたくしはいい子にして待っていますわ」
ほんとに、この子は健気でいい子だよ。
「お兄さま、お姉さまも。ご武運をお祈りしています」
「ありがとう、シーラ」
「帰ってきたら遊ぼうね」
「はい!」
――――――
て事で、シュルヴィを飛ばしてやってきたのは“陽の迷宮”最寄りの街サンシベル。
ここは、首長国が“陽の迷宮”とセットで支配する街だ。
“陽の迷宮”を攻略するなら間違いなくヒデ達はここにいる。ついでに言えば、ウィルベルト王も少し前までここにいたらしい。今は帰国の途に就いているとか。完全にすれ違っちゃったな。
国王が、なぜここにいたかと言えば、俺のいない間にペッテルが首長国になっていたからだ。
緩衝地帯があんな状況だったので、もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に首長国になっていたとはね。やるな、国王。
面倒な手間――出入国とかが省けてよかったぜ。今や、ここはペッテル領だからな。
「これからどうするの、チロ?」
「まずは冒険者ギルドに行く」
俺の回答に、アリスを始め仲間たちが頷いた。ペッテルの時とは違い、ここはすぐに迷宮攻略できる体制を取れるように決戦メンバー(仮)を伴って来たのだ。
そんな彼らを横目に、今後の段取りを脳内で整えていく。
まずは“陽の迷宮”の状況確認とヒデ達の情報収集だ。
その上で、“陽の迷宮”の封鎖をギルドに指示。
余計な犠牲と邪魔者を排除した上で漸く“陽の迷宮”の攻略開始だ。
――正直に言えば、まだ決め手に欠けるんだけどな
現状、まだ俺にも勝ち筋が見えていない。幾つかの局面は描けるんだが、それらを繋ぐ絵が描けないでいる。
メンバーについてもそうだ。シャドウを入れるなら、誰を抜くか。それともシャドウを入れるのを止めるか。未だに俺は決められないでいた。
以前、アリスは優柔不断な俺が珍しいと言ったが、全然そんな事はない。
もし、そう見えたとしたら、これまではやるべき事がハッキリしていたからだ。
目標と、そのために必要なものが分かっていた。だから悩まなかった。即断できた。
いや、目標はハッキリしている。でも、そのために必要なピースが多すぎるのだ。
『必要なら全て揃えておくべきではないかしら?』
うおっ!?
「チロ?」
「カミ君?」
「どうしたの~?」
いきなり何もない所で仰け反った俺にアリスやサエ達が怪訝な顔をする。
「何でもない」
「そう?」
必死に何でもないフリをするが、一度飛び跳ねた心臓は、中々戻らない。
『失礼よ、ジェス。お姉ちゃんにびっくりするなんて』
セレ姉がいきなり話かけるからだろうがっ!
『つまらない事で悩んでいるようだから、アドバイスしてあげただけですよ』
つまらない事だと!?
『数に囚われすぎですよ。いつものあなたなら、必要なものは必要だと言って全て揃えてしまうでしょうに』
――う
そう言われれば、確かにそうだ。
今までは、必要な物どころか必要になるかもってだけで揃えてきた。例え使わなくても、使うかもしれないっていうだけで揃える意味があった。あると思っていた。
だけど――
だけど、それならなんでヘンリエッタは、わざわざあんな事を俺に告げたのだろう。
『あれもこれも、ではなくて、しっかり吟味して欲しかったのだと思いますよ』
吟味?
『今回ばかりは人を増やしすぎると、そのまま犠牲者になりかねませんから』
まさか。
俺は頭に浮かんだ考えを振り払う。そんな筈はない。
生き残るのが九人しかいないなんて、そんな事があって堪るものか。
『…ジェス、ひとつ話しておく事があります。それは――』
――――――――
ギルドに着くと、受付嬢にギルドカードを提出しつつ要件を告げる。
「ギルドマスターと会えるかな」
「はぁ…――っ!? とっ、特別顧問!? 上に伺ってきますので、少々お待ち下さいませ!」
なんか懐かしい肩書を聞いたな、おい。
そういや、俺って冒険者ギルドの特別顧問なんだったわ。あれ、でもペッテル支部だけじゃなかったっけ?
受付嬢に案内されて二階に行くと応接室に通された。テーブルにはお茶と茶菓子が用意されている。ああ、あとギルマスらしきおっさんも。
別に会話ができれば執務室でもどこでもよかったんだけどな。
「単刀直入に聞きたい。現状の“陽の迷宮”の事なんだが」
「は、はい。ウィルベルト王と勇者ショージの依頼で封鎖しております、はい」
「あれ?」
二人から? それは手間が省けていいけど。――あれ?
「二人からの依頼で?」
「はい。特別顧問が来れば、きっとそうするだろうからと。確か勇者様のパーティザヴィアは特別顧問もメンバーでは?」
「うん。いやまぁ、二人のいう事は全くその通りなんだけど」
ウィルベルト王はともかく、ヒデまで俺の行動を読んだのか? あいつ、いつの間にそこまでレベルアップしたんだ? 相変わらずの完璧超人か。
「もっとも」
「ん?」
「元より、そのつもりでおりました」
なんか急に雰囲気が変わったな、こいつ。もしかしたら、とは思っていたが、本当にそうだったか。
「パウラインの手の者か」
「御意」
まったく、どいつもこいつも。
きっちり俺の行動を読みやがって、やりづれぇな。まぁ、そこは頼りになると評価してやるよ。
「なら、次にやるべき事も分かっているな」
「住民の退去はすでに始めております」
「ならいい」
他人の安否を気遣いながら戦っていられる相手じゃないからな。ここまでは既定路線だ。
「その後の事は勇者と会ってから決める。指示を待て」
「御意」
何の問題もなく、ギルドでの用事が済んでしまった。部下が優秀だと楽でいい。
――――――
ギルドが用意した拠点――住人を退去させるので宿は使えない――で待っていると、迷宮探索を終えたザヴィアがやって来た。
「「「ゼン!」」」
そして、三人揃って俺を呼ぶ。
「…息が合ってんなぁ」
もしかして、結構苦労してるのか?
早速、再会を喜び合い、連れてきた新たな仲間達を紹介し、懇親会を含めた情報交換を行う。
「こっちから勇者率いるザヴィアのメンバー、アルフリーダとドロテア、それに勇者のショージ・ヒデオだ」
「よろしくお願いします。アルフと呼んで下さい」
「テアでいい。よろしく」
「俺はヒデでもヒデオでもいいよ。よろしくな」
「で、こっちは獣人の戦士ダグラスと巫女のラウだ」
「白虎族のダグラスで、槍を使うよ。よろしく」
「は、白虎族の巫女でラウです。よろしくお願いしますっ!」
「で、こっちの怪しいのがドワーフの芸術家に仕えるエルフの狙撃手シャドウ」
こうして言葉にするとほんとに怪しいな。
「縁があり、参加する事になった。よろしく頼む」
自己紹介が済むと情報の摺り合わせが始まる。
「それで“陽の迷宮”攻略の度合いはどうなんだ」
「ああ、まず十階で足止めされたんだが、アークランド王家が隠し持っていた鍵を王様が手に入れてくれてさ」
「おかげで先に進めはしたのですが、十階床毎に鍵の掛かった扉が立ちはだかるのに辟易しました」
そこは“月の迷宮”と同じだな。
「ほんと、ゼンのありがたみが身に染みたよ」
「それでも三十三階まで進んだ。褒めて」
「正攻法で鍵を見付けていったのか」
こくり、と三人の動作が重なった。
「ま、ここからは俺に任せろ。最短で攻略する。で、こっちの情報だが――」
俺は“陽の迷宮”攻略の目的が変わった事や、そこまでの経緯をヒデ達ザヴィアだけでなく、星の種族三人にも再度言い聞かせるつもりで説明していく。
「俺達を召喚した邪神との決戦か」
「…それで、九人と言うのは誰と誰になるんですか?」
ヒデが気合いを入れる横でアルフが不安げに尋ねる。心配しなくても、アルフが外れる事はないよ。
迷宮に連れて行くメンバーに関しては、もう決めていた。
昼にセレ姉から聞かされた情報によって、俺のシナリオは最後まで描かれた。
“陽の迷宮”に連れて行くのは――
「シャドウ、悪いがお前には地上に残ってもらいたい」