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05-04 神をも殺す槍

 



3話投稿の1。




 今、俺達がいる場所。それはペッテルにある上級迷宮の深奥だ。

 緩衝地帯の初級迷宮――同じ迷宮内では、ヤツの索敵に引っかかってしまうかもしれない。


 ――しかし、ここまで一方的になるとは思わなかった


 誤算だった。ヒデたちと合流したとして、本当に九人で勝てるのだろうか…


「先生ぇ…助けて……」


「ラウ?」


「わたしじゃワイルドを治せないの……ううん、兄さんも、バイウー様も、治せないのぉ!」


 ラウは取り乱している。泣きじゃくり、眼を真っ赤にしながら――服もワイルドとバイウーの血で真っ赤だ――俺に縋る。


「心配するな、俺が治すよ。ラウは、まだまだ精進が必要だな」


 実力が足りないというだけでなく、冷静さを失った事が最大の要因だ。

 普段のラウの実力なら、腕を繋げる事はできなくとも、傷を塞ぐくらいならできたはずだ。


「うぅ…」


 中々泣き止まないラウを宥めながら治療に入る。


「ラウはワイルドとダグラスの腕と脚を傷口に合わせてくれ。そう、それでいい」


 俺自身はバイウーの腕を持って繋げながら指示を出す。

 泣きながらも指示に従って動くラウ。この辺りは信頼関係が物を言うのかもしれない。


「“再生陣リジェネレイションサークル”」


 新しいのを生やしてもいいが、せっかく元の手足があるのだ。それを利用した方が回復も早いし、使わない手はない。







 二人と一体―― 一柱とは呼びたくない――を治したあと、警戒をシュルヴィと初級迷宮から呼び寄せたクルーガンに任せて俺達は休息を取った。


 皆が身体を休める中、俺は食事を作りながら考えていた。

 考えるのはもちろん決戦のメンバーである。

 候補の十六人から、今回実際に戦って分かったレニアの実力を参考にしながら決めていく。


 まずは、俺。それにヒデ。と言うかザヴィアは全員参加決定だ。ザヴィアの実力はズバ抜けている。これを外す手は無い。

 これで六人。問題は残る三人をどうするか、だ。


 ダグラスは外せない。そしてアリスも。

 理由はヘンリエッタの予言――太陽と月、そして星の種族が全て揃わなければならないからだ。

 仮定として、もし異世界から来たヒデ達と神の化身である俺がその対象にならない場合を考えると、


 太陽の種族からはアルフとテア。

 月の種族からはアリス。

 星々の種族からはダグラス。


 となり、条件をクリアするのだ。


 問題は、あと一人をどうするか、なのだが。

 ルダイバーが思いの外成長していて目を見張った。それもありかもしれない。と思う反面、俺の中にはもう一人候補者がいるのだが、そいつが素直に協力してくれるか判断できない。







 食事を終えた後、この場にいる皆に事情を説明して相談する。

 六人はすでに決定している事を告げ、この中から残る三人を選ぶつもりであると。


「まず、アリスは参加だ。いいな?」


「当然よ。外すなんて言ったら怒るからね」


 はい、そうですね。そう言うだろう事は分かっていたよ。


「次にダグラス。お前の力は必須だと考えている。どうだ、やれるか?」


 さっきの戦いで戦意を失っていないか? という問いだ。


「もちろんだよ。自分はまだ全てを出し切っていない。まだまだ、やれるさ」


 そうだな。俺はまだダグラスの“獣化ビーストメイクオーバー”を見た事がない。

 そして、いよいよ三人目なのだが…


「どうだ、ルダイバー。やってくれるか?」


 カーティスとフォルダンが悔しそうに下を向いた。

 二人には悪いが、今回は我慢して貰おう。純粋に火力を考えると見劣りしてしまうのだ。

 必要なのは前線を支えるための力よりも、窮地を跳ね返す思考の柔軟さや意外性なのだ。


 また、レニアの潜伏先が“陽の迷宮”である事もハッキリしている。

 先ほどは、飽くまで自身の脅威であるダグラスを事前に片付けておくために出張ってきただけなのだろう。本来なら転生の準備が整う前に行動を起こしたくは無かったはずだ。


「先生!」


 ルダイバーが返事をする前にラウが声を上げた。


「どうした、ラウ?」


 この手の話し合いの時にラウが口を挟むとは珍しい。


「わたしも参加させて下さい!」


「はい?」


 余りに予想に反した言葉に耳を疑ってしまう。


「あと一人を、わたしにして欲しいんです!」


「えーと、もの凄く危険な戦いになるんだが…」


 先ほどより、ずっとキツイ戦いになるはずなのだ。


「さっきは、凄く怖かったです」


「だよな。だから――」


「でも!」


 おっと、ラウが俺のセリフに被せてくるとは珍しい。


「でも先生、あれが本当に本当の戦い、なんですよね?」


「…ああ、そうだ。アイツを倒さないと、この世界に未来はない」


「なら、わたしやります! やらせて下さい!」


 うーん、どうやって説得するか…

 そう思いながらも、もうこうなったらテコでも動かないんだろうな、と心のどこかで諦めてもいた。


「ゼン、自分からもお願いする。この子を連れて行って欲しい」


「ダグラス、お前まで…」


『虎族の巫女は、戦場で畏れを識り、それでも戦場から逃げる事はせぬ』


「…てめぇ、この死にぞこないが口出しするつもりか」


 瀕死だったバイウーまでがラウの参加を後押ししはじめやがった。


『然り。これで逃げるようなら、初めから加護など与えん』


「見誤っているのは俺だって言いたいのか」


『小童とて、もう気付いているのだろうが』


 ちっ、そこまでお見通しか。仕方ないな。


「分かった。最後の一人はラウだ。――済まないな、ルダイバー」


「いえ、ゼン様に従う、ます」


 これで、最終決戦のメンバーが揃ったな。

 多少、予想と違ったが悪くない。後は戦法を詰めるだけだ。


 ま、その戦法を決めるのが厄介なんだけどな。




 ――――――




 一通りの治癒と休憩を済ませ、夜になると俺は世界樹へと転移した。


「カミ君!」


「カミくぅん!」


 俺の姿を認めた途端、サエとクミが抱き着いてきた。よほど心配かけたらしい。

 そりゃそうか。


「悪い悪い、夜になるのを待ってたら遅くなった」


「もう、私が守るって言ったでしょ、二人とも」


 アリスが冗談めかして言うが、二人とも離れようとしない。これはもしかして…


「すみません、戦いの状況を説明してしまいました」


 ヘンリエッタが申し訳なさそうに告げた。


「やっぱりか」


 めっちゃ苦戦――というか勝ち目のない戦いだったからな。心配にもなるか。


「それなんだけどねぇ――」


 更にレディパンサーまでが会話に加わってきた。なんなんだ?


「シャドウを連れてお行きよ。きっと役に立つからさ」


 シャドウを?

 “陽の迷宮”を攻略しなければならない以上、いつまでかかるか分からない。

 だというのに、こいつがレディパンサーの傍から離れるとは思えないのだが。

 チラとそっちを見ると、白髪ソバージュのエルフは予想に反して力強く頷いた。

 ――どこかで見た小箱を手にしながら。


 こうなると困ってしまう。

 せっかくメンバーを決めたというのに、立候補者が増えてしまった。

 しかも内心有りだと思っていた――俺自身、決戦メンバーの有力候補と考えていたやつなのだ、このシャドウは。


 こりゃ困ったぞ。あっちでメンバー決めたのは先走ったか。

 もっとハッキリ言えば、やっちまったかもしれん…




 ――――――




 やっちまった――そうは思いつつも、頭の隅に引っかかるものがある。

 “魔力相滅ペアリッシュ・ウィズ・イーチアザー”が奴に効かなかった事もそうだし、覚悟を持って放った“精神破壊(マインド・バースト)”が奴に効かなかった事もそうだ。

 “魔力相滅”は、まだいい。いや、よくはないが、あれは俺の創作した魔法だ。俺の知らない欠陥があっただけなのかもしれない。

 しかし、“精神破壊”はユスティスの――魔神の能力だ。いくら対策されていたからって、全く効果がないなんて、そんな事あり得るのか?

 俺の考えでは、魔力の面ではユスティスの方が格上なのだ。


『それは格の違いだね』


 俺が薄々気付きつつも目を背けていた答えをハッキリ口にしながら、本人が現れやがった。


「…………」


『どうしたの?』


 分かっちゃいたけど、聞きたくなかったわ。要は神の化身と神自身との差って訳だろ!?

 ユスティスの“精神破壊”なら奴を倒せていたって事だろ!


『“魔力相滅”もそうだよ。君が真に月の神になっていたなら結果は違っていたさ』


 どういう事だよ。


『“魔力相滅”も効果は発揮していた。ただお互いの絶対値に差がありすぎたんだ』


「絶対値?」


『器と言い換えてもいい』


 器?


『人間の魔力の器がお椀だとすれば、魔族のそれは丼だ。魔王ともなると洗面器どころかお風呂くらいあるね』


 くそっ、そういう事かよ。


『それでいくと、君は池か湖ってところかな』


 随分な差があるな。それなら奴は――本当の神はどれほどなんだ。


『神と言っても様々だけどね。魔力を司る神ともなると海と例えるしかないね』


 なっ!?


『分ったかい? 君の魔法は効果を発揮していた。ただ、戦局を左右するほどではなかったんだ』


 そりゃあ、蚊に刺されたほども感じないだろうよ! そんなに差があったらな!

 この世界に馴染む前なら連打するって手もあったろうが、回復力を手に入れた奴には効果が無い。くそっ、どうすればいい。どうすれば奴を倒せる。


『君も、もう気付いているだろう? キーマンはダグラスだ』


 ――やっぱりか。でも、なぜだ? 戦力で言えばヒデだって結構なものだ。


『削るのは彼でも構わない。でも、奴に止めを刺すのは、ダグラスでなければダメだよ』


 だから、それはなぜだ?


『君には残念かもしれないけどね。彼の聖剣――姉さんの剣では奴を殺せない』


 武器の差なのか。


『それに付随する能力もだよ。彼の――ダグラスの槍には彼の能力と存在の全てが込められている。その結果、あれは神をも殺せる槍になってしまっているんだ。しかも、その力を十全に引き出せるのも彼だけなんだ』


 ――――そこまでなのか、アレは


『皮肉な事にね。奴が彼に与えた異界の能力、その力を込めた状態で奴の急所を穿つんだ。アレがこちらの世界の肉体を得た事で、彼にも奴を殺す手段が出来たんだよ』


 なるほどね。で、急所ってどこだよ。異界の、しかも神の急所なんて知らないぞ、俺。


『頭か心臓だね。他はダメだよ』


 意外と普通だったな。こっちの肉体だから急所もこっちに準拠してるのか?


『忘れないで。必ず頭か心臓を穿つんだ』


 あいつ相手にか。……随分な難問だな、おい。

 獣人を軽く上回る運動能力を見せつけられた俺は、溜息を吐きたくなった。







 

お久しぶりです。

再開を望む熱いメッセージを頂いたので、GWかけて執筆していました。

読んでいて違和感があったら、それは長く離れていたせいです。ごめんなさい。


一応、完結までの道筋は出来ているのですが、リアルが(主に人事のせいで)忙しく、執筆時間が中々取れないのが現状です。

出来るだけこの話を優先して完結まで持って行きたいと思いますが、気長に待っていて貰えると助かります。


って事で、今回は3話投稿します。


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