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 ――少しだけ、喉が渇いたわ。

 少女は誰に言うでもなく呟くと、ペロリと唇を舐めた。白くひび割れていた唇が微かに潤され、ふんわりと血の気と柔らかさを取り戻す。青年は背中のバッグパックに左手を伸ばすと、指先で探り当てたまだ封の切られていないボトルを少女に差し出した。にこりと少女が微笑む。


 ――ねぇ、大人になって振り返ると、学校って箱庭だったと思う?

 どうだろう。青年はしばし目を閉じて考える。箱庭というか、でもまぁ、確かに小さい王国だったかもしれないな。同じ年齢、かぎりなく近い属性の集まりのはずなのに、ヒエラルキーがあって、遵守しなければいけない暗黙のルールがあって、自分たちだけが盛り上がれるブームがあった。社会に出ると、これまで常識だと疑っていなかったことが、実は自分たちのなかだけの符号だったことって、確かにあったな。そういう意味では、壁に囲まれた……確かに、それは箱庭だったのかもしれない。

 そうなのね、と呟きながら少女は、ぼんやりと校舎の外を眺めた。いつ夜が明けたのか、初夏の明るい日差しを透かす柏の葉を見つめる。


 ――すべてが終わって、一人で考えてみたら、如月先輩の言葉はきっと正しかったんだろうって思うようになったの。きっと、私たちがあの頃必死に守っていたルールって、卒業したら笑い飛ばせてしまうような些細なもので、もしかしたら私たちは皆、集団ヒステリーに浮かされていたのかもしれないわ。

 たとえば、四門巡りを無効にしてしまうような方法を考えるとか、それでなくても四門巡りを禁止する打とか、少なくとも誰か大人に相談することはできたはずなのに、おそらく誰も、そういうことは思いつかなかった。みんな示し合わせたかのように口を噤んで、むしろ、裏切者が出ないように目を見張って。


 ――ねぇ、誰かに酷いことを言ったことはある? 傷つけるつもりじゃなかったとしても、言葉にすると残酷な、そんな言葉を誰かにぶつけたことは?

「そうだね。……馬鹿だとかブスだとかハゲだとか、たわいもない悪口のつもりで言ったことはあるな。うるさいとか黙れとか死ねとか。もちろん、本気じゃなかったさ」

 ――それなら、私たちの罪も、そう責められたものではないかもしれないわ。

 紅い唇をペロリと舐め、少女は語り始めた。

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