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2時間目

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 夏といえば怪談。夏休みには、落語同好会と地域文化研究部が合同による怪談落語の会が開催される。今年の演目は『柳川の飴売』。今年で四年目となるこの催しは、地元柳川町に古くから伝わる民話を基にした創作落語が楽しめるとあって、生徒はもちろん、地域の方々にも好評を博している。

 怪談といえば、わが校で最近密かに囁かれ始めた『四門巡り』というおまじないをご存じだろうか。承知の通り、わが校には東の正門、西の裏門、南門の三つの門しかないが、東・南・西の三門を、門の下に供えてある塩を一つまみずつ足しながら巡ると、幻の北門が出現するという噂話だ。噂によると、北門は教室棟一階の突き当たりに出現し、詣でた人間の願いを叶えてくれるという。真偽のほどは不明だが、実際に、一年七組の前のロッカー上には、少しだけ塩の盛られた小皿が置いてあった。『四門巡り』がこの夏、西高に新たな旋風を巻き起こすのだろうか。(森口)

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 ――それが、当時の記事の内容よ。おまじないの詳細も、塩を持った小皿も、私と如月先輩が仕込んだもの。とんだ茶番だった。何度もこれでいいのかって思った。

「そもそも、君たちは学校という箱庭に囚われすぎているんだよ。だからいじめで自殺者が出たりするんだ。確かに僕たちは朝から晩まで学校にいるけれど、学校が世界のすべてじゃない。学校で負けたり否定されたり、そんなヒエラルキーやレッテルは、社会に出たら無意味だよ。学校の色に馴染めなければ、無理に染まる必要はない。外に楽しい世界があるなら、学校なんて行かなくていいと僕は思っているんだ」

 世の中には馬鹿げたルールが多すぎる、新聞部の担当分けみたいにさ。そういって、先輩は笑った。「森口さんが本職の新聞記者なら、捏造とかはアレだけど……たかが校内新聞の、たったこれだけのコラムのために、遅くまで残ったり、悩んだり、ましてやバスケ部を恨むなんておかしいよ。苦しまないで、適当にこなせばいい。それでもし四門巡りが流行れば、自分が流行の発信者だって、ほくそ笑めばいいのさ」

 恐れていた他の先輩方からの叱責も、同級生からの陰口も、なかった。四門巡りは、あたかも私たちが記事にする前から流行っていたかのように、密かに浸透し始めていた。


 第一志望の大学に合格した。憧れの人に、デートの約束をしてもらえた。10年ぶりに県大会へ出場できた。気がついたら四門巡りのご利益が、いろいろなところで囁かれていた。運動部の取材に赴くと、マネージャーの四門巡りのご利益だと言われることが増えた。一年生のクラスの前に置かれた塩の小皿は、常に小山を築いていた。

 なんだか多くの人をペテンにかけてしまった気がして相談すると、如月先輩は笑って「鰯の頭も信心から、ってね」と言った。

「受験にしろ、恋愛にしろ、部活動にしろ、思春期の僕たちの悩みはつきないわけだよ。ましてや学校という箱庭のなか。一度生みだされた熱が、集団ヒステリーみたいに蔓延していく。きっと一過性のブームだし、気にしなければいい」


 冬が近づくころには、四門巡りはあたかも何年も前から存在していたかのように、気軽な習慣となっていた。試験の前や大会の前、デートの前、あるいは毎日の習慣としてすっかり四門巡りが定着してしまった頃、とある事件が起こったのだ。

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