隠居な私と主人な旦那様
阿野根の作者は16RTされたら隠居しがちな龍人で奴隷にする話を書きます。 #獣人小説書くったー http://t.co/0diVzSHyX1
で書かせていただきました♥
今日も空が狭いねぇ。
そんなことを思いながら白本家主人部屋の窓から薄目で天窓を見た。
ベッドサイドの時計が朝だと告げている。
「みゅーん、いい加減隠居したいんですけどねぇ」
ブツブツ言いながら起き上がってベッドから這い出した。
起き上がるついでに旦那様の長い髪を思い切りよく踏んづけてやった。
「う、う」
旦那様がうめいた。
歩くときよろよろするのはもう仕方ない。
「さてと動ける範囲で準備運動するかねぇ」
そういいながら人界ではやりのレディオ体操の派生のみなさんの体操の録画をつけた。
これは座りながら体操できるので私みたいな隠居もんにピッタリだ。
しばらく指を曲げたり伸ばしたり手を振ったり首の運動をしているとこの体操一番の見せ場がやってくる。
『突き上げ運動です』
ウエストに片手を当てて片手を上に拳を握って突き上げる。
『えいえいおー』
「えいえいおー」
当然のごとくこの掛け声が当たり前だ。
主人がベッドで身じろぎした。
かまわず続ける。
左右二回ずつだ。
『えいえいおー』
「えいえいおー」
最後の突き上げ運動で主人がガバッと起きた。
「ウルヒフェルシア、うるさいぞ!」
とたん私はみ動きが取れなくなる。
隷属の呪文が私を縛ったのだ。
「旦那様、体操ができない」
口は動いたので抗議した。
「ウルヒ、そんなに運動したければもっと可愛がってやろう」
旦那様が寝起きの顔でみ動き出来ない私をベッドに引きずり込んだ。
「そういう運動は遠慮したいなぁ」
「かまって欲しくて起こしたんだろう? 」
どこか狂った目で旦那様が私のパジャマに手をかけた。
「うんにゃ、朝、少し動かさないと元々動かない身体が動かなくなるから」
「……私が起こすまで寝てればいいだろう」
旦那様が私の耳たぶを二股に別れた舌で舐めた。
みゅーん、そうしたら盆栽の世話する時間がなくなるねぇ。
趣味なのにねぇ。
「そこまで世話していただかなくていいですよ」
「遠慮するな、お前のすべては私のもの」
甘く微笑んで巻き付いてきたやる気満々の蛇族の旦那様に私は完璧諦めた。
まあ、私はこのお方に生かされてるんだし……少しくらい好きにしてもいいや。
「まあ、朝から仲がおよろしいことでございますね」
侍女長のおばちゃんが旦那様に抱き上げられてぐったり出てきた私を見て呆れた顔をした。
あのあと貪り尽くされたからもう、今日は終わりだねぇ。
龍珠に決定的なヒビの入ってる私は若くても体力無いし旦那様の白家の若様のライノエリ様が隷属契約をしてくれなければ生きていられないんで余生な隠居ものなんだよねぇ。
「旦那様、やりすぎです」
「私のものだからな」
「みゅーん」
うんざりして声を出したらくちづけされた。
「まあ、仲が良ろしいですこと」
「私はヘルスチア兄上と違って一人に尽くすからな」
白家の若様は嬉しそうに笑って私を膝に乗せて席についた。
ヘルスチア様は相手をとっかえひっかえらしいからねぇ。
旦那様は浮いた話を聞かないねぇ……
「みゅーん、お粥にしてください、梅干しと海苔つくで」
食卓がクロワッサンにチーズオムレツにカリカリベーコンにフレッシュサラダだったので注文をつけた。
「……もう少ししっかり食え」
「私は隠居なので」
武門本家のエリカスーシャちゃんみたいに元気があればもっと食べられるんだろうけどねぇ。
あの子の龍珠は若々しく不可思議な色合いで光ってた。
あの戦のダメージで龍珠がひび割れて濁った私のものとは大違いだねぇ。
龍型ももう取れないくらい弱ってるし。
龍人型で過ごすしか余生はおくれないしねぇ。
いつかまた、大空を泳げたら最高だけど……どうにもなんないしねぇ。
「いい加減、主人も嫁を取らないとかねぇ」
私は海苔つくを白粥に沈めながらつぶやいた。
「ウルヒは私の嫁だろう」
旦那様の声がして上を向かされたのでとっさにスプーンで白粥を主人の口に突っ込んだ。
「私は旦那様と結婚したつもりはないんだよねぇ」
「……私に粥を食事介助しなくていい、お前は私の正妻だ」
旦那様が妄想めいたことを言った。
「単なる隷属者ですよ」
白本家の跡取りの主人の正妻は名門の令嬢だろうし白家の形状を保つための下級人型魔族の妻も持たないとだろうし……単なる奴隷みたいな隠居の私に入る隙間はないねぇ。
龍珠が割れる前ならいざ知らず。
せいぜい愛人チックな奴隷なのでは?
「お前を嫁に取ることは両親にも言ってある」
「どうせ反対されてるんじゃないですか? 」
私の両親ももうあの戦でいないしねぇ。
祖父母は両親の親ともに残ってるけどねぇ……武門本家の先代夫妻は父方だしねぇ。
本当なら武門の本家の方に死ぬまで世話になるんだろうけど……すぐに余生はつきて逝っちゃうしねぇ。
白本家で旦那様に隷属させてもらえるだけで充分ですよ。
奴隷として役に立ってるのは床の中だけだしねぇ。
それも旦那様くらいモテればお役御免にすぐなれると思うんだけどねぇ。
「いや、逆にお前が弱ってるから間違いなく白本家の形状の孫が産まれると喜ばれた、下級人型魔族は妊娠から出産まで力を繊細につぎ込まないとだしな」
「……まあ、産めるもんなら産みたいですけどねぇ」
旦那様の説明につぶやいた。
産むまでに体力が持つかどうか。
「下級人型魔族をサポートするよりは楽だ」
甘く微笑んで旦那様が私を抱き上げようとしたところで秘書のミノラさんがはいってきた。
「おはようございます、仕事をお願いいたします」
「ミノラ、私はこれから愛の語らいを……」
「さあ、参りましょう」
ミノラさんは抵抗する旦那様をしっぽで巻き込んで引きずっていった。
「さすが、白分家のお嬢様だねぇ」
「ウルヒ様はもう少しお休みくださいませ」
侍女長が心配そうによろけた私を支えた。
「盆栽でも見に行くかねぇ」
ぼーっと出るのが許されてる中庭を見る。
建物の真ん中のその庭から見ても空は狭い。
飛べない龍に空はとおい。
「昼寝でもするかねぇ」
ため息をついて寝床に戻った。
毛布にくるまると旦那様の匂いがしない……
仕事が早いねぇ……もうベットメイキングしたんだねぇ。
みゅーん寂しいねぇ。
そんなことを思いながら目を閉じた。
ああ、もう昼だねぇ。
おひるなんだわでもみようかねぇ。
人界の奥様番組をつけると紳士が行きづらいこんな店をあえて行くツアーだった。
可愛いなまけ犬のコンセプトのレストランでアフタヌーンティーねぇ。
あのスモークサーモンサンドなんて美味しそうだねぇ。
宣伝にかわって大空から人間が飛び込む映像になった清涼飲料水の宣伝らしく爽快感を煽っている。
青い……青い……青い空に引き込まれる。
ああ、死ぬまでに空を駆け抜けたいねぇ……
それで死んだら……本望なんだけどねぇ……
あの戦の時……私はまだまだ小娘だった……
青い空を飛んで敵に水渦巻きをぶつけて喜ぶ小娘だった。
そこにあの男が……戦に現れた。
大罪人オストロフィス……その男の巨大雷撃で私も仲間の龍たちも両親も落とされた。
『小娘……かろうじて生きてるみたいだな』
オストロフィスに龍型が保てなくなってとった龍人型の頼りない顎を掴まれた時、私は自分の血で目が霞んでいた。
『は……なせ……』
『ふーん箱入りの龍人か……』
かばわれて助かったくせにとオストロフィスが嘲笑った。
霞んだ目であたりを見ると父親の龍体と幼なじみ竜体がすぐそばで私を守るように倒れているのがみえた。
『どうせすぐ死ぬなら俺が遊んでもいいよな』
オストロフィスが嘲笑を貼り付けたまま私の首筋をかじった。
激痛が走る。
雷虎魔人のオストロフィスの牙が深々と体内に入った。
もう……滅するのだ……そう思って意識を手放そうとした時今度は耳に激痛が走った。
『気絶してる間はねぇぜ』
オストロフィスが何故か甘やかに囁いた。
ああ、このままなぶり殺しにされるのが私の運命なのか……絶望が心覆った。
何時間か……本当は何分……何秒だったのかもしれない……後続の軍隊がきて助け出された時。
私は全身血まみれの虫の息だったらしい……
オストロフィスは……嘲笑を浮かべて美味しかったぜと言い捨てて転移したらしいねぇ。
まだ捕まってないとか、恐ろしいねぇ。
『ウルヒ、ウルヒフェルシア、死にたくなくば隷属せよ』
白本家のライノエリ様の初めて聞く焦った声に私は意識をかすかに取り戻した。
『ウルヒフェルシア、私に隷属せよ! 』
ライノエリ様の綺麗な青い瞳にうっとりとした。
『ウルヒフェルシア! うなづけ! 』
ライノエリ様の声がかすかに聞こえたのでうないて目を閉じた。
最後に大好きなライノエリ様の顔が見られてよかったと思いながら……
随分悲観的だったねぇ。
「次に目が覚めたらもうこの檻屋敷に閉じ込められてて旦那様の腕の中だったんだよねぇ」
うん、ここは檻屋敷だ……外部からも内部からも最上級の結界がはられていて鉄格子さえハマっている。
基本的に旦那様が許可した魔族しか出入りできない。
「昔の二号さんでも囲うところだったんかねぇ」
「違いますわ、もともと旦那様がウルヒ様をお迎えするために作ってた新居ですわ」
私のつぶやきに侍女長のおばちゃんが反応した。
今日のおやつはあんみつらしい。
「……新居かい? 」
ヤンデレ屋敷とか言うんじゃ無いのかいと人界のテレビで覚えた言葉をつぶやきながらスプーンを手にとった。
「旦那様は白本家にしては囲いすぎないと思いますよ」
侍女長のおばちゃんが黒蜜を追加した。
みゅーん、あんまり甘過ぎないほうが好きなんだけどねぇ。
旅長老と言う神樹の民の長老がお供を連れて世直し旅に出る時代劇を見ながらソファーにもたれて夜食のツナおにぎりを食べてると後ろから抱きしめられた。
「お帰り旦那様」
「ただいま」
耳をアマガミされたのでビクッとなった。
お酒の匂いがした。
また仕事の付き合いで飲まされたのかねぇ?
「お腹が空いたのならおにぎり食べますか? 」
「それよりウルヒが食べたい」
甘く耳元で囁かれた。
「長老様が神樹の杖をだして終わってからにしてくださいよ」
ちょうど悪徳役人がくるくるくると娘さんのウエストのリボンをといてあれ〜なところなんだよね。
「断る、それよりあれはいいな」
今度リボンをくるくるするかと旦那様がつぶやいた。
「……ではしっかり体操でもしときますかねぇ……足腰よわってますので」
テレビでお年寄りむけに放送するいきいきお達者体操を録画予約を宣伝の時にしておいた。
年寄りむけのこんなのがあるんだなと旦那様がつぶやいた。
今は介護予防していつまでも元気にのじだいですからねぇ……私よりテレビのお年寄りは元気ですよ。
「無理はしなくていい」
いつの間にか隣に来ていた旦那様が私を抱き上げた。
控えなさいこの神樹の杖が目に入らぬか〜。
とやってるテレビの画面が消された。
そのままベッドに運ばれる。
みゅーん……お疲れ様じゃないんかねぇ?
旦那様、私はもう少しテレビ見たいんだけどねぇ。
この後の迷宮捜査員ゆり子も見たいんだよねぇ……
まあ、録画はしてあるけどねぇ……居眠り対策で。
今日も空が狭いねぇ。
旦那様の腕の中で朝日を浴びた。
「起きて体操でもしようかねぇ」
私がもぞもぞすると何故か抱き込まれた。
「ウルヒ……寝てろ」
旦那様の甘い声に動けなくなったのでそのまま寝てることにした。
なんだかんだ言って旦那様の事愛してるしねぇ。
だから……旦那様が他の女性とお見合いと聞いてけっこうショックだったらしいねぇ。
「橙家の令嬢アールセイル様とライノエリ様お似合いですわ……」
「やはり力ある方はうるわしいですわ」
こちらの檻屋敷にも来るらしく本宅の侍女が配置されていて何故か聞こえよがしに今日の盆栽をテレビで見ていた私をちらっと見た。
正妻は有力貴族の御令嬢ってわかりきってたことじゃないか……なんとか平気なふりして全然内容が入ってこない番組を見終わって盆栽のある中庭に出た。
狭い中庭から空を見あげた。
夏らしい金の空に涙が出た。
「ウルヒ? 」
「まあ、あの方が……可愛らしい」
旦那様とオレンジ色の綺麗な女性が中庭に面した廊下からこちらを見ている。
みゅーん……お似合いだねぇ……
そう思いながら後ずさった。
「なんでお前がここに……」
「旦那様、お幸せに」
私は精一杯の笑みを浮かべて庭の端に逃げ出した。
「ウルヒ」
「来ないで」
近づく旦那様と未来の奥様に私は混乱した。
そしてにげようと無意識に龍体を取ろうとして力を使った。
空へ……広い空へ。
一瞬取れた龍体で空を飛んだ。
意外にも結界がなかった。
ああ、このまま……空に溶け込みたい……
旦那様の元にいられないなら……
龍体を保てず次の瞬間落下した。
盆栽棚と旦那様が逆に見えた。
ああ、あそこで散れるのならば本望だねぇ。
私はそっと目を閉じた。
「このバカ! 」
衝撃はいつまでも来ず気がつくと旦那様の腕の高さで浮いていた。
「ご無事でよかったですわ」
未来の奥様が微笑んだ。
なんて綺麗なんだろう。
どうやら未来の奥様のアールセイル様が受け止めてくれたらしい。
「みゅーん……」
もう諦めるかねぇ。
「お前は私の寿命を縮めるきか? 」
「素敵な奥様もらうのにそれは困るねぇ……」
「そうですわ」
アールセイル様がそういいながら私をそっと力のハンモックから降ろした。
途端旦那様に抱き上げられた。
「そうだ未来の妻をもらうために来てもらった」
「だったらアールセイル様を抱き上げたらいいのにねぇ」
もう最後だからと旦那様に擦り寄って涙を隠した。
旦那様と未来の奥様が見つめあった。
ああ、やっぱりお似合いだよ。
アールセイル様が笑いだした。
旦那様がため息をついた。
「ウルヒ様誤解ですわ」
私は結界の補修と強化に参りましたのライノエリ様とは魔界学校での腐れ縁ですのとアールセイル様がコロコロと笑った。
「それじゃお見合いは? もらう奥様は? 」
「あら、ウルヒフェルシア様でありませんの? ご当主様と伴侶様たちに嫁のためによろしくお願いしますと言われましたわ」
きょとんとした顔でアールセイル様が小首を傾げた。
やっぱりきれいだねぇ……
一瞬見とれた。
「ウルヒフェルシア……お前、本当にとぼけてるのか? 」
低い声で旦那様の声がして顔をあげた。
え……ボケてる? 認知症の前兆?
「認知症予防にエゴマオイルみたいだから取り寄せましょうかねぇ? 」
「変な知識を人界のテレビで仕入れすぎだ」
「お役立ち情報満載ですよ」
「見るなら違うものを見ろ」
「ええ〜隠居なんだから良いじゃないですか〜娯楽と健康番組で〜」
うふふと忍び笑いが聞こえて言い争ってた私と旦那様が放置してしまっていたアールセイル様に注目した。
「本当に仲がおよろしいのね、ぜひお二人の結婚式にはウェディングケーキを贈らせていただきたいですわ」
結界の点検とはり直しをして来ますのでごゆっくりと微笑んでアールセイル様は中庭から足取り軽く出ていった。
「ウェディングケーキ? 」
「いい加減さっせ、私の妻になるのはお前だ」
旦那様の言葉を聞いたとたん現実感がなくなった。
「ほんとうに? 」
「ああ」
「本宅の侍女さんがアールセイル様とお見合いって」
「なるほど……おば上の差し金か……処分だな」
旦那様が視線を廊下に向けた。
秘書のミノラさんが静かにうなづいて立ち去った。
「ほんとうに旦那様の奥様になれるの? 」
「ウルヒフェルシアは未来永劫、私の妻だ」
旦那様の言葉にうれしくてうれしくて抱きついた。
涙がこぼれ落ちる。
旦那様、ライノエリ様、未来永劫、私はあなたのものです。
そうつぶやきながら旦那様に自分からくちづけた。
金の夏空が祝福してくれてるみたいだった。
「みゅーん、温泉に新婚旅行行きたいねぇ」
わーいじゃーにーのグンマ特集を見ながらつぶやいた。
「それはいいな」
私を膝の上に抱き込んで一緒にソファーに座って見ていた旦那様……私のもうすぐ結婚する婚約者が同意した。
「やっぱりクサツかなぁイカホもサルガキョウもタカラガワもいいなぁ」
「……今日のところは一緒に風呂で妥協しろ」
旦那様が私を抱き上げて動き出した。
テレビがグンマ名物タカサキパスタ祭りも映し出した。
ウィローシーの生うにトマトパスタ美味しそう……
もう少し見たいけどイチャイチャしたそうだから諦めるかねぇ。
明日も早起きして旦那様と末永くイチャイチャするためにもレディオ体操第一をしっかりやらないとねぇ。
旦那様、お手柔らかにお願い致しますねぇ。
本当に体力作りがかだいだねぇ。
私は未来永劫旦那様のものだから頑張ろうかねぇ。
旦那様も未来永劫私のものだしねぇ。
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