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祭りが終わり、火精霊とグレイブレストの関係性も、表向きは元に戻ったと感じられて、金星達はフロスベルへと帰ってきた。ウンリュウが守ってくれているとはいえ、不在の時間は短い方が良い。
フロスベルでアルベルト、エコーと別れ、金星、レイン、リネット、フィアの三人と一妖精が辺境のフロスベル保護区の保護官の仕事場でもある建物に戻ってきた。
中に入ると、ウンリュウが胡散臭い笑顔で迎えてくれた。
「よう、お帰り諸君! 今日はご馳走を用意したからじゃんじゃん食え。俺様のおごりだ」
食事場のテーブルには、果物やらパンやらグラタンやらが所狭しと並べている。
帰還を労ってくれるためにわざわざ用意してくれたのかと金星がありがたく思っていると、フィアがみずみずしいリンゴを手に取ってから、冷たい視線をウンリュウに向けた。
「貴様は、泡銭をくだらん物に使うから大成できんのだ」
それだけ告げると、部屋を後にする。
「……文句言いながら、取って行きやがった」
ウンリュウは小さくツッコミながらその背中を見送っていた。
リネットは驚いたようにテーブルのご馳走を見つめている。
「意外と、羽振りが良いのですね」
「まあな」
「その資金がどこから出ているのか謎ですわ」
何となく察した金星は、誤魔化すために助け船を出す。
「ウ、ウンリュウさんは意外と倹約家ですから!」
「意外とってってなんだ。おっ、それよりグレイブレストの件は解決したんだろ? お嬢ちゃんも、これで納得して中央に帰れるってもんよ」
ウンリュウが期待の眼差しをリネットに向けている。
リネットは考え込むようにしてから、不承不承、頷いた。
「そうですわね。すぐにどうこうするほど、フロスベル保護官を危険とは感じませんでしたわ。でも、まだ半分ほど観察時間は残っていますのよ?」
グレイブレストの件は解決したとはいえ、フロスベルの保護区について、まだまだ見てみないと、わからないのかもしれない。
金星は別に構わなかったが、ウンリュウは表情を曇らせた。
「倹約生活かぁ」
堂々とサボるのかと思いきや、真面目にするつもりなのかもしれない。
リネットは金星、ウンリュウ、レインを眺めてから、口を開く。
「とはいえ、判断がついた時点で切り上げられますし、もう良いでしょう。フロスベルは問題ない、と報告することになりますわね」
「おおっ!」
「そう嬉しそうな顔をされると居座りたくなりますわ」
「残りの期間も観察して貰って、構わないが?」
「おいレイン! 余計なことを言うな!」
結局、リネットは二日を報告書作成のために使ってから、中央に帰ることになった。
フロスベルまでチャコールに二人乗りして移動すると、リネットは乗合馬車でフロスベルに向かうことになった。ということは、ここでお別れだ。
リネットと並んで馬車を待っていた金星は、突然あることに気づいて声を上げた。
「ああっ!」
「何ですの?」
怪訝そうに聞くリネットに、金星が慌てて言う。
「リネットさんが帰るまでに、フロスベルと良いところを見つけて貰うつもりだったのに、すっかり忘れていました。今から保護区へ行きませんか?」
「行くわけないでしょう!」
ほとんどグレイブレストで過ごしたから仕方ないとはいえ、金星としてはもっとこの地域の良さを知ってもらいたい。
しかしリネットは懐かしむようにフロスベル保護区がある方角を眺める。
「それに、良いところならなくはないですわ。リーダーはともかく、フロスベルの保護官も悪くなかったですわね。料理は美味しかったですし」
何だかんだで、良いところも見つけてくれていたみたいで、金星は嬉しくなった。
「うふふっ」
「何か聞こえまして? そ、空耳ですわよ」
やがて乗合馬車が到着した。
フロンフルバニアに向かうのは、リネットだけのようだ。
短い間でも一緒にいたから、別れるのは寂しかった。金星は、リネットの背中へと声を投げかける。
「手紙、書きますね!」
馬車に乗り込みかけたリネットは、じっと金星へと目をやって、ふいと顔を背けた。
「まあ、付き合ってあげてもよろしくてよ?」
良く聞こえるように言われた言葉は、空耳ではなかった。




