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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第二章 見習い保護官と鍛冶職人
62/82

2-9

 二人の杞憂が分かったのは翌日。

 夜のうちに雨は去って、ところどころにぬかるみがあるものの、晴天日和となっている、グレイブレストの街。

「ちょっと君たち!」

 街を歩いていた金星とレインに声をかける者がいた。

 立ち止まって振り返った金星は、息を切らしながらこちらへ向かう青年を見つける。藍色の帽子と水色の制服は、役所関係の仕事を連想させる。

 金星とレインが口を開くよりも先に、追いついた青年が話しかけてきた。

「最近、この辺りで聞き込みをしている幻獣保護官って、君たちで間違いないか?」

 思わずレインと目を見合わせる。

 彼はいったい何者だろうか。

 一歩前に進み出て、レインが固い声で問いかける。

「何か、用でも?」

 怪訝さと警戒心を感じ取ったらしく、青年ははっとした表情になって、それから軽く服装を整えて、柔和な笑みを浮かべる。

「ああ、ぼくはこの町の自警団のレオポート。子供たちがいなくなった事件について調査しているんだ。それで、どうして君たちが我々自警団が調べるべき事件について聞いて回っているのか知りたくてね」

 金星とレインも、手短に自己紹介する。

 自警団ならば、話しても大丈夫だろう。上手くいけば、協力し合えるかもしれない。

 ほっとした金星だったが、レインは警戒をにじませたまま。

「知ってどうするつもりだ?」

 冷たい口調に、青年はひるんだように眉を下げた。

 それから姿勢を正し、問いかけるようにレインを見据えた瞳には、探るような光が見え隠れしていた。

「どうするもなにも、単刀直入に言うよ。幻獣保護官が事件に関わっているということは、子供たちの事件は、幻獣と何か関係でもあるのかと思ってね。……例えば、同じように町から姿を消した火精霊とかね」

 金星は目を瞬かせる。

 この青年は火精霊が子供たちの事件に何らかの形でかかわっていると、疑っているのだろうか。自分たちの行いのせいで火精霊が疑われるのはまずいように思う。事件について嗅ぎまわるのをやめたほうがいいのだろうか。

 迷うようにレインを見た金星だが、彼はゆるぎない佇まいで青年を見据えていた。

「火精霊が子供に手を出したとでも?」

 火精霊はグレイブレストの守り神といっても過言でもないほど、町の歴史と密接にかかわってきた。今でこそ、姿を消しているが、それだけで疑うほど不確かな信頼関係ではない。

 つまり青年が疑いを口にこそすれ、内心では信じたいに違いない。

 青年も迷うように目を泳がせた。

「まさか。そんなことは、ないだろうけど……」

 状況が状況であるし、信じきれないのかもしれない。保護官としては火精霊は関係ないと断言したいところだが、納得してもらえる自信はなかった。

 とにかく、状況を打破したい気持ちは同じだろうと思って、金星は提案する。

「あの、自警団の方はどれくらい事件について知っていますか? よければ、情報交換をしたいのですけど」

 余計な提案だっただろうか、と気になって、ちらりとレインの様子をうかがってみる。レインはかすかにうなずいた。大丈夫らしい。

 青年のほうもほっとしたように言葉を口にする。

「ああ、助かるよ。同じ事件を調べる者同士、協力しよう」

「はい! よろしくお願いします」

「協力する上で一つ頼みがあるんだが」

 問われた青年は、問うたレインを見て身構える。

「なんだい?」

「確信もなくあやふやな情報を広げるのはやめてくれ」

 意味が分からなかったのかきょとんとする青年に、レインは再度口を開く。

「火精霊と子供が姿を消した事件に関連性があるとは限らない。無駄に対立を招くような発言はやめてくれ」

「ああ、うん」

 素直にうなずいた青年は、レインと金星を広場の休憩所に誘った。

 二言三言、言葉を交えて互いの情報を交換する。

 話を聞き終わった青年が、納得したように深くうなずいた。

「なるほど。だから君たちには危機感が足りなかったんだね」

 どういうことだろう、と金星は目を瞬かせてレインを見た。レインは、静かに青年へと目をやっている。

 青年は幻獣保護官を前にして、はっきりとした口調で告げる。

「また二人、子供が姿を消したんだ。そして、姿を消したと思しき場所に、赤い羽が落ちていた」

 彼が取り出した透明な袋の中に入っていた羽は、この町に来てから幾度か目にしたもの。

 ――まぎれもなく、火精霊のものであった。

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