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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第二章 見習い保護官と鍛冶職人
60/82

2-7

 約束の時間に鍛冶屋の前で合流し、四人は中に入って話をすることになった。

 リネットとゼノの話を聞いてまとめたところ、どうやら子供たちは北へ向かったらしい。北の山は、火精霊が閉じこもっている洞窟がある山だ。

「なんか、火精霊のやつらと関係あるんじゃねえのか?」

 ぽつりと呟かれたゼノの言葉を聞きとめて、金星とレインは顔を見合わせた。

 四人は、今は使われていない鍛冶場の隅に、椅子を置いて向かい合って座っている。作業場であろう長机が二つ、寂しそうに寄り添い、鍛冶場の炉は熱を失って冷たく佇んでいた。

 ゼノの言うとおり、火精霊の行動と子供たちの失踪には、何か関連性があるのだろうか。と金星は首をかしげる。わからない。

 リネットもお手上げのようだった。彼女は当事者ではないので、意見を聞くのは勝手かもしれないが、この場にいるならと協力してもらっている。

「で、どうしますの?」

 リネットが冷ややかに告げてレインと金星へ目をやる。

 子供たちと火精霊、二つの問題を抱えてどうすべきなのか、先輩の意見を聞こうと、金星はレインへ顔を向けた。

 レインは冷静な表情のまま、静かに言葉を紡ぐ。

「明後日、フィアとエコーと合流する予定だ。二者の意見もいれて、作戦を練ろう。明日一日は休みだ。好きに時間を潰してくれ」

 エコーとフィアには、レインが何かを頼んでいた。彼らの姿を最近見ないが、裏で何か探っているのだろう。

 とりあえず報告を待つとなって、金星は頷く。

「わかりました。それじゃあ、アルベルトさんに手紙でも出そうかな」

「保護官が休みということは、観察官の仕事もありませんわね」

 リネットがぽつりと呟く。

 ゼノが身を乗り出した。

「それじゃ、街を案内してやろうか?」

「はあ? いりませんわ」

 すげなく断られてしょんぼりと肩を落とすゼノを見て、金星は苦笑した。リネットはなんだかんだで街の探索が嫌でもなかっただろうし、ゼノのことも嫌いではないだろう。

「そう言わずに、行ってみるといいですよ? 楽しそうな街ですし。わたしも、途中までご一緒します」

「おう! じゃ、そうしようぜ」

 二人の後押しに、リネットはきょとんとしてから、呆れ気味に息をついた。

「まったく。何を勝手に決めてるんですの。仕方ありませんわね」

 なんだかんだで、彼女も出かけるのが嫌ではないらしい。



 翌日はよく晴れ渡った日だった。

 青い空は平和を予感させる澄みきった空気を広げていて、太陽の光は明るく地上を照らしている。複雑な事件があっても、空は変わらず見上げるとあって、地を歩く人も今日という日を謳歌している。

「じゃ、さっそく商店街へ行こうぜ」

 ゼノの先導で、金星とリネットは街を歩く。

 前を行く少年はこころなしか弾んだ足取りだった。

 少し離れた位置を歩きながら、リネットが金星へ声をかける。

「彼、父親を亡くしたんですよね。そのわりに、能天気じゃありませんこと?」

 金星はそっと首を振った。それから微笑ましく思いながら、ゼノの背中を見る。ゼノは、歩きながら知り合いに声をかけたり、街の人から声をかけられたりしている。

「ゼノさんは、きっと祭りを成功させたいって思っています。だから、一生懸命なんです」

「親と同じ仕事を継ぐなんて、理解できないわ」

 声には困惑と毒が混じっており、発したリネット自体も複雑そうだった。

 金星は何気なく問いかける。

「リネットさんのご両親も、観察官なんですか?」

「そうよっ! ついでにおじい様もね。で、それが?」

「リネットさんは、将来何になりたいのかな、と思いまして」

 にっこりと笑いかけると、リネットは嫌そうな表情になってから、複雑そうに息をつく。

「嫌味がないのが、逆に不思議ね」

「どういう意味ですか?」

「何でもないわよ。で、将来だっけ」

 顔をあげたリネットは前を向いた。

 彼女の視線を追うと、そこには真っ青な空が広がっている。

「どうかしらね」

 将来は空のように遠く果てしなく、まだまだ想像がつかないのだった。

 適当なところでリネットとゼノと別れ、金星は手紙を出すために郵便屋を訪れた。神やら封筒やらは、街の探索の休憩時に買っておいたのだ。

 手紙の内容は昨日書いた。電報を打つほどではないが、アルベルトに色々と報告したかった。

 手紙を郵便屋の人に預け、建物を出たところで、金星は人ごみに見知った後姿を見つけて駆け寄った。

 だけと途中で違和感を感じて、足を止める。

「レイン先輩?」

 声を聞きとめたのか怪訝そうに振り返った人物は、想定していた先輩とは少し違う面差しをしていた。

 おそらく二十代を少し過ぎたくらいだろうか。レインを少し大人びさせて柔らかくしたような印象だった。

 黒い髪の青年は、レインとは違う真っ青な空の瞳を金星に向けた。

「やあ、どうかしたの、お嬢さん?」

 金星は慌てて両手を振って、一歩下がった。

「あ、いえ……知っている人に似ていたので」

 そのまま、すみませんといって去ろうとしたのだが、その前に青年が面白そうに目を細めて、口を開く。

「僕に似た人、ねえ。そっか。そんなに似ている?」

 よく見ると、それほど似ていない気もする。勘違いだったようだ。

「あ、えっと……いえ、そこままでは。変なこと言って、すみませんでした」

「そっか」

「すみませんでした」

 もう一度謝って、金星は慌てて背を向けた。恥ずかしい気持ちもある。

「ねえ、君は幻獣が好きなの? 嫌いなの?」

 ぽつんと背中にそんな声が届いて、金星が振り向く。

 先ほどの青年の姿は、人ごみに交えて見えなかった。

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