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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第二章 見習い保護官と鍛冶職人
57/82

2-4

 グレイブレストに滞在して四日が経った。最初はレインと一緒に鍛冶場を回っていた金星だが、効率が悪いということで、二人別々に街を調べることにする。

 昨日はレインについていったリネットは、今日は金星のほうを見張ることにしたようだ。金星は、彼女と連れ立って街を歩いていく。

 グレイブレストには細い道が多かった。表通りの真っ直ぐとした道とは裏腹に、一度中に入ると入り組んでいて、土地勘のない人間には優しくない。

 馬車が通行できないような狭い道には民家が密集しており、時折、住民の賑やかな声が聞こえてくる。

 道には鍛冶職人らしい男性達が目立った。火精霊なしでは仕事に支障がでる彼らは、代わりとなる炎を探すのに奔走しているようだ。

 とはいえ、火精霊の炎と比べると、燃料を燃やして作った火は酷く見劣りするだろう。

 鍛冶職人としては、さっさと保護官に解決してもらいたい事案だ。

「で、何か進展はありましたの?」

 歩きながら、リネットが気のない口調で話しかけてくる。

 彼女も監察官であるからには、きちんと進展を記録する必要があるのだろう。

 金星はここ四日の聞き取りを思い返す。

「まず、火精霊が山へと姿を消したのは、一週間前のことらしいです。初めは、すぐ帰ってくるだろうとあまり気にしなかったみたいですが、街中の鍛冶屋で同じ現象が起こっていることと、探しに行って説得しても、頑として聞かないのがあって、それでフロスベルの幻獣保護官に緊急要請を出す事にしたらしいです」

「そう、これまでの経緯はわかったわ。それで進展は?」

 金星はにっこりと微笑んだ。

「おそらく、火精霊さんが山に行った理由がわかれば、鍛冶職人の方とも和解できると思います」

「理由は分かったの?」

「それはまだです」

「つまり進展はないのね」

 リネットははあとため息をついた。

「ご期待に添えずにすみません……」

「別に期待はしてないわ」

「あ、そうですか」

 とはいえ、グレイブレストの街の人や鍛冶職人たち、他の街の人たちも祭りを楽しみにしている。無事に祭りを開催させるためにも、火精霊との和解が必要だ。

 レインは今も街で調べを続けてくれているし、フィアとエコーも行動してくれている。きっと、自分たちならやれると思いたい。

 前向きな思考を新たに足を進めたところで、前方から顔見知りが歩いてくるのに気づいた。

 鍛冶職人のゼノだ。

 半袖に軽い上着をひっかけた彼は、こちらへ駆け寄ってくる。

「なあ、あんたら、何かわかったのか?」

 開口一番に、リネットと同じような質問だ。

 金星は申し訳なく思いながら首を振るう。

「ええっと……まだ、です」

 ゼノもやはり落胆したような顔になった。鍛冶屋の人たちは、火精霊との和解を切望しているのだ。

 リネットが二人のやりとりを横目に見ながら口を開く。

「そんなに気になるなら、貴方も手伝ってみてはどうかしら?」

 皮肉気な言葉に、ゼノは表情を明るくする。

「おっ、そうだな! おれも手伝うぜ。で、何をすればいいんだ?」

「今は鍛冶屋を周って、話を聞いているところです」

 ゼノが協力してくれるなら、街の人からもっとつっこんだ情報を聞けるかもしれない。それに、土地勘のある人の協力はうれしかった。

「まさか本気で手伝うとは思わなかったわ」

 リネットが小さくため息をついていた。

 ゼノは全く気づかずに明るい表情で口を開く。

「今はどこもぴりぴりしてるだろ?」

「ですね。大変そうです」

 「この街では毎年、有名な祭りが開催されるんだ。各鍛冶屋の代表が渾身の一作を打って、どれが一番すぐれているか審査する。優勝者には、一年間、鍛冶職人の名誉が与えられるぜ」

 街を歩きながら、ゼノの説明にふんふんと頷く。町おこしの一環でもある祭りは、グレイブレストの特色である鍛冶とも密接にかかわっているようだ。

 ゼノは懐かしそうに目を虚空へやる。

「親父は去年の優勝者だった。だから今年はおれが……」

 決意に満ちた声。リネットが首をかしげる。

「あら、親父さんは引退されたのかしら?」

 鍛冶屋の人はゼノを若頭、と呼んでいた。

 父親がいるなら、この呼称はおかしくないだろうか、と金星も疑問に思う。

 ゼノはあっけらかんと笑った。

「んー、達者な親父だったけど、流行病に倒れてあっという間だった。だから今年の祭りには、鎮魂のためにも、なんとしてでも勝ちたいんだ」

 リネットが気まずそうに目をそらした。ゼノは全く気にしていないようだ。

 金星はなおさら、なんとしても火精霊たちと和解しなければと決意を新たにする。

「みんなでがんばりましょう! 今日は鍛冶屋の見回りの後は、市場の人にも話を聞いてみますよ!」

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