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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第二章 見習い保護官と鍛冶職人
56/82

2-3

 山を下りて鍛冶場が見えてきたところで、赤髪の少年が立ち止った。不思議に思いながら金星が足を止めて振り向くと、彼は不満げな瞳でレインを見た。

「あんたも保護官なんだろ。なんで、帰るなんて言い出したんだよ」

 彼としては、保護官に火精霊を説得して貰いたかったのだろう。

 リネットもあっさりと引き下がったのを疑問に思っていたのか、興味津々に二人の様子を見つめている。

 金星は、特に心配も不満もなかった。レインのことだから、何かしらの考えがあるはずだ。だけど少年とリネットは、そう思えるほど深くレインと係わっていない。

 不平や疑問が出るのは当然だった。

 レインは静かに少年を見つめた。

「火精霊たちは理由を言いたくないんだろう。あれ以上話していても、進展はない」

 落ち着いた声は、諭すだとか説得だとかの響きはなく、たんたんと事実を語る。

 少年がぐっと言葉に詰まり、それから視線を彷徨わせた。

「じゃ、どうするって……いうんだよ?」

「しばらくは街を探る。火精霊が突然、協力できないと言ったんだ。何か理由がある。それがわかるかもしれない」

 少年はそっぽを向いた。

「あいつらに聞けば早いだろ」

 突き放す声に、レインはじっと彼を見つめる。

「本当に、そう思うのか?」

 しばしの沈黙。少年は顔を下げた。いくらあの場所でねばって話を聞こうとしたところで、一度、心を閉ざした精霊たちが簡単に話してくれるとは思えない。

 おそらく少年があの場所へいくのは、初めてではないだろう。それほど彼の足取りは迷いがなかった。だからこそ、レインに言葉に返せないのだ。

 なんとなく妙な空気になってしまったので、話題を変えようと金星は口を開いた。

 少年へ視線を向けて、にっこりと問いかける。

「ええっと、あの、お名前を伺ってもいいでしょうか? わたしは幻獣保護官見習いの金星と言います。こちらがレイン先輩で、彼女が――」

「わたくしは保護観察官協会のリネットですわ。わたくしの仕事は、幻獣保護官の観察ですから、あしからず」

 涼しげな口調で言って、リネットは顔をそむけた。

 とのことです、という感じに少年を見れば、やや戸惑ったような表情と共に返答がきた。

「ああ、おれはゼノ。あそこの鍛冶場のリーダーだ」

 ゼノが指で鍛冶場を示す。

「とにかく、あんたらを歓迎するよ。部屋もいくつか用意している」

 彼の先導で、鍛冶場へと入っていく。外装は一階建ての広い建物で、作業場らしき部分と、生活する部分との二つにわかれている。作業場は、今は扉が閉まっており、煙突からも煙の一つもあがっていない。

 ゼノが入口を開けるのを眺めながら、リネットが眉をひそめた。

「街を探索して、進展があるのかしら?」

 先ほどのレインのことばを、言っているのだろう。

 金星は街を見てから、微笑む。

「やってみなきゃ、わかりませんよ」

 グレイブレストは広い街だ。人も多く、探索にも時間がかかりそうだ。だけど、寂しげな煙突を見ていたら、やる気がわいてくる。

 なんとしても、祭りまでにこの街を元の姿にしようと、金星は思った。

 建物の中は台所や食堂、寝室にわかれていた。食堂に集まっていた男たちが、入ってきた金星たちに目を向けてくるが、ゼスの表情から進展のないことを悟ったのか、声をかけてはこなかった。

 あらためて幻獣保護官だと紹介してから、レインは男たちに問いかける。

「念のために聞きたいが、あなた達には心当たりがないのか?」

 火精霊がどうして山へ籠ってしまったのか、だ。彼らは自身の能力を鍛冶職人に貸して、二種族で共存して、生活していたはずだ。

 男たちは、理由を問われて首をかしげる。

「わけわかんねえんだ、昨日まで何ともなかったのに……あ、昨日って言うのは、出ていく前の日ってことな。別に、普通だったんだ」

 なあ、と隣の男を見て、その男も困惑気味に頷いた。

「今までは拗ねて力を貸してくれない時はあっても、街の全部の火精霊がっていうのはなかったな」

「ああ。それに祭りはあいつらも楽しみにしていたし……」

 広場のざわめきは、誰もが心あたりがないと言っているものだった。

 火精霊が急に力を貸さなくなる、という大事態にもかかわらず、理由に心当たりがないというのが不思議だ。

 金星は困惑を隠せないでいるが、レインは冷静だった。

「なるほど。まずは、火精霊が鍛冶職人に力を貸さなくなった理由から探ってみよう」

 男たちが諸々に頷く。

「よろしく頼む」

 それからゼノの案内で、食堂から出た所にある通路の奥に向かった。

「解決できるまで、あんたらは俺の客だ。ここと隣の部屋、あとは向かいの倉庫を好きに使ってくれ」

 彼の後を追って、奥からの二部屋と、向かいの倉庫を確認する。ゼノが食堂へ戻っていくのを見送って、レインは倉庫の扉を開けた。

「遅かったな」

 倉庫の椅子に腰を変えて、金髪の少女がふふんと笑った。彼女の傍には樹精霊がいる。

「フィアさんとエコーさんも、到着したんですね」

 しかし、彼女らが馬で移動したとは思えず、不思議だ。

 金星の疑問を悟ったのか、レインが教えてくれる。

「フィアとエコーは、精霊の扉を使ってきた。昨日、ここに案内された時に、陣を仕込んでおいた」

「あれ? ということは、ゼノさんとはお知り合いだったんですか?」

 そこはリネットが首を振った。

「あんな騒がしそうな少年は、いませんでしたわ」

「ああ。どこかに出かけていたらしい」

 レインは、フィアとエコーへ視線を向けた。

「フィア、エコー。二人に火精霊の観察を頼めるか?」

 フィアが少し感心したように、面白そうな顔になった。

「ほう、そうくるか」

「ど、どうくるんだ?」

 エコーが目を白黒させている。

 金星の内心も似たようなものだ。

 しかし補足もなく、レインが言葉を続ける。

「エコーならば同じ精霊だから、怪しまれずに彼らにまぎれ込んで探れるだろう」

「内部に潜り込んで、様子を探れって言うのか?」

「ああ」

 難しそうな任務だ。エコーは白黒させていた目を、ぱっと輝かせた。

「かっこいいな……おぅ、いいぜ!」

 エコーの役目はそれで、フィアもなにかしら協力するのだろう。

 金星はわくわくとレインを見つめる。

「レイン先輩、わたしは何をすればいいですか?」

「とりあえず、明日、街を歩いてみよう」

「了解しました!」

 はりきる保護官たちを尻目に、リネットは難しい表情を崩さない。

「そんなに、上手くいくのかしら」

 皮肉気に笑って、彼女は小さくため息をついた。

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