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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第二章 見習い保護官と鍛冶職人
54/82

2-1

 グレイブレストは幻獣保護区を沿って西に向かったところにそびえる山の麓にあった。大きな山の下に広がる町並みは石でできた家が多く、駆け回る子供や市に出る品物を眺める女性といった光景が見えた。

 街へ入った金星たちは、上手から降りて手綱を引きながら、グレイブレストの街をゆっくりと眺める。旅人は別段珍しくないのか、こちらに注目する人間は少なかった。

「ここがグレイブレストなんですね。賑やかそうな町でいいですね」

 金星が街を眺めながら呟くと、リネットが眉をひそめた。

「グレイブレストは山の近くにあり、地理的にはフロスベルの果てというよりも、隣の港町アクアニドルに属する街という印象がありますわ。フロスベルの街と違って、なんにもない田舎ではないですわね」

 金星が目を瞬く。

「でも、所属はフロスベルなんですよね?」

 レインが頷いた。

「ああ。同じフロンフルバニアだ」

「地理的にアクアニドルに近いと行っただけで、そちらの所属だとは言ってませんわ」

 道を歩きながら街を眺める金星に、レインが静かに尋ねてきた。

「いつもは違う景色だが、それが何かわかるか?」

 土の道には語りながら歩く女性達や、早足で駆けていく配達人らしき少年がおり、昼のひと時を過ごしている。石の建物は静かにたたずみ、賑やかな喧騒が聞こえてくる。

 だけど金星は、どこか寂しさを感じた。

 何本もある煙突は、ただそこにあるだけ。

「煙が上がってない、ですね」

 鍛冶場は今、機能していないようだった。

 金星が指摘すると、レインは頷いた。

「ああ。鍛冶が活発な街にも関わらず、今は閉まっている鍛冶場が多い」

 レインとリネットは、昨日のうちにある鍛冶場に行って、そこの人間に現状を聞いたらしい。火精霊と揉めた彼らは、解決するために幻獣保護官を頼ってきた。

 解決できるまで、その鍛冶場を拠点にするらしい。

 街はずれの山にほど近い場所で、レインとリネットは足を止めた。どうやら、ここが拠点となる場所のようだ。

 一階建ての建物は広く、鍛冶場と住居にわかれているようだ。いつもは騒がしいであろうそこは、今は厳粛なまでの静けさに包まれている。

 金星たちが建物に近づいた時、住居の扉が開いて、一人の少年が飛び出してきた。

「若旦那! どこへ行く気ですか?」

「ちょっと山に行ってくる。やっぱアイツがいないと、打てねえよ」

 燃えるように赤い髪を後ろで束ねた少年は、止める男性に叫んで駆け出す。彼はレインとリネットを見つけて、小さく頭を下げてから、慌てて山のほうへ走って行った。

 彼の背中を見つめて、金星は軽く首をかしげる。

「山に何かあるんですか?」

「ああ。火精霊たちは、街から引き揚げて、今は山の洞穴に引き籠っているらしい」

 らしいと言う事は、まだレインは火精霊と会っていないのだろう。

 金星は思ったままの言葉を口にした。

「わたしたちも行ってみましょう、レイン先輩」

 レインは少しだけ驚いたようだったが、ややあって頷く。馬は鍛冶場の男性たちに任せておけば大丈夫だろう。

 リネットも、もちろんついていくと言った。

 山へと移動する直前、ぽつりと小さな声が聞こえてくる。

「余計なことに首を突っ込んで、いいのかしら」

 少年の邪魔になるかもしれない。確かにそうかもしれないが、まずは火精霊に会わなければ話が始まらない。

 昼の陽射しを受けた山は、どことなく三人を歓迎しているようにも思えた。

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