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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第一章 見習い保護官と成り上がり観察官
53/82

1-6

 玄関が開く音がして、金星は目を開けた。窓からは光が差し込んでくる。眠っているうちに夜が明けたらしい。

 金星が慌てて服装を整えて台所から出ると、入口にレインとリネットが立っていた。疲れは見えるものの、元気そうだ。

「レイン先輩! おはようございます!」

「ああ。おはよう」

「緊急要請はどうでした!? 大変なことじゃなかったですか?」

 急き込んで尋ねる金星に、レインは真面目な表情で言葉を返してくる。

「鍛冶職人と火精霊との間に問題が起きているようだ」

 グレイブレストは鉱山の街で、鍛冶が盛んだというのはアルベルトに聞いた、そして街の鍛冶の火を熾しているのは火精霊なのだ。

 火精霊と鍛冶職人は、互いに助け合いながら作業をしていくという噂で、良好な関係を築いているはずだった。

「火精霊と、鍛冶職人の人との間に、ですか」

 金星が問うと、レインが頷き、リネットが薄く笑う。

「そう。そしてあなた達には両者の仲を取り持つ役目がある。それで、フロスベル保護官が保護官たる資格を持ち備えているのか、計らせていただきますわ」

 そう言ってリネットは満足げに微笑んだ。

「グレイブレストの問題を解決しなさいな。そうすれば合格ですわ」

 彼女の言葉に、金星はきょとんとする。

「え? ……まだ解決してないんですか?」

「ああ」

 レインを見ると、彼は静かに肯定する。

「ここはウンリュウに任せて、しばらく拠点をグレイブレストに移す。話はそれからだ。アルはいるか?」

 階段からアルベルトが姿を見せた。

「いるよ。なんだか忙しくなりそうだな」

「ああ。おまえにも頼みたいことがある。それとフィアは?」

 フィアは部屋から顔を出すと、レインを面白げに眺めた。

「私にもついてこいと言いたいのか?」

「精霊の扉が必要になるかもしれない」

「ふん。なるほどな。……まあ、ここはウンリュウだけで十分だろう。村の連中もいるし。私は先にグレイブレストへ行って待っていよう」

 金髪の妖精はそれだけ告げると、ばたんと扉を閉めて部屋の中へ消えた。

 レインは金星へと向き直る。青灰色の瞳が真っ直ぐに金星を見つめ、金星は知らず姿勢を正していた。

「金星」

「はい!」

「早速今日から移動する。必要な荷物をまとめてくれ」

「わかりました」

 問題が解決できるまでどれくらいかかるかわからないが、二、三日というわけにはいかなさそうだ。一週間以上を視野に入れたほうがいいだろう。

 金星は頷いて、二階の自分の部屋へ移動する。

 金星が準備をしている間、一階ではアルベルトがレインに問いかける。

「で、頼みって?」

「村に行って、エコーを呼んできてくれ。それからフロンフルバニアに移動してほしい。調べてもらいたいことがある」

 アルベルトは驚いたように目を丸くしたが、はっきりと頷く。

「調べる内容については、後で電報を打つ」

「了解。じゃ、またな」

 短く答えて、アルベルトは外へと出ていく。

「よう、緊急要請だってな。フィアから聞いたぜ」

 入れ替わりにウンリュウが入ってきた、それを見たリネットは眉をひそめてから、冷ややかにレインを見つめる。

「まるで貴方がリーダーみたいね」

 レインは表情を変えなかった。

「護り手は保護区から離れないほうがいい。俺が指揮をとるのが自然だと思うが」

 あっさりとした答えにリネットは含み笑いを漏らして、ウンリュウへと目をやる。

「そちらのリーダーさんは、文句ありませんの?」

「お嬢ちゃん、あんまこっちの事情に首を突っ込まないほうがいいぜ」

 ウンリュウはおどけたように言いながら、肩をすくめた。しかし瞳だけは刺すようにリネットを見つめている。視線を受けたリネットは後ずさりながら、しかし顔をあげたままだった。

 険悪ともいえるかもしれない空気が流れ始めた時、割って入る声があった。

「準備完了しました! レイン先輩」

 肩にかけるバッグを持った金星が階段から降りてきて、廊下に立ち尽くす三人を見て、きょとんと首をかしげる。

「どうか、しましたか?」

 レインがかすかに表情を緩めた。

「いや」

 リネットはすっと廊下を抜けて、二階へと上がっていく。レインも準備のために後へ続いた。ウンリュウは台所で食べ物を物色するようだ。

 金星はとりあえず、馬の準備をする事にした。チャコールとブラウン、それからウンリュウがのってきた馬にも干し草をわたす。

 そうして半時間余り経過した後、準備が整った。

 見送りに来たウンリュウに、金星は小さく敬礼する。

「いってきますね」

「気をつけていけよ。こっちのことはオレ様に任せておけ」

 ウンリュウに見送られて、金星とリネット、レインがそれぞれのった馬たちはフロスベルを後にした。

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