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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第五章 幻獣保護官に大切なこと
39/84

5-2

 レインたち三人が拠点へつくと、幻獣保護地区の柵の前に、フロスベル村の人間たちが集まっているのが見えた。

「いっちょ上がりだよ」

「こっちもこっちも。やつら、落とし穴にまんまとはまってくれたぜ!」

「んじゃ、ここまで運んでくれ。俺らがまとめて詰め込んでやるぜ~」

 老若男女が軽快な動作で、簀巻きにした密猟者たちを馬車へ押し入れている。密猟した生き物たちは檻に入れられたまま一か所に置かれ、アンナが見張りに立っていた。星くずの影響が残っているから解放できないそうだ。

「アル、金星ちゃんが、密猟者を追って保護区へ入っていったらしいの」

 息子を前にしたアンナは戸惑ったように告げた。

 フロスベル村の人間たちがここへ来たのはエコーが密猟者の事を知らせたからで、アンナは事情を説明せざるを得なかった。曰く、アルベルトとデニムは密猟者の親玉をおびき出すために相手側に下った演技をしたと。

「つまり、俺が鷹の目だってことは、みんなにばれてる……って、そんなことより金星ちゃんだ。金星ちゃんは、フロスベルなんだな?」

 親玉が捕まり、密猟者に派手な動きはないだろうとはいえ、保護区内には危険が多い。事の真相を教えるためにも、迎えに行った方がいいだろう。

「俺が行く。アルはここを頼む」

 捕えた密猟者に聞くと、彼らは虹の森の岩山付近から逃げてきたと言った。

 密猟者たちはドラゴンの卵の事を嗅ぎつけて狙ったのだ。だとすると事態は深刻だ。卵を奪われたドラゴンがどんな行動をとるのか想像に難くない。

 レインは、「あいつら、日の気配がするから草と水を用意しろ、って言っていたぞ!」と高々に叫ぶ樹精霊の横を通り抜けて保護区へ入った。



 森の半ばあたりで、ドラゴンの卵を抱えた高原を見つけた。東洋人の青年が彼の近くで、早く逃げるように言っている。

 レインが近づくのに気づいたのか、二人が振り向く。レインの持つ剣を見て、青年は高原の前へ出る。双剣の構えに隙は見当たらない。かなりの手練れだろう。出来れば闘いたくない相手だが、ドラゴンの卵が相手の手中にある以上、そうは言っていられない。

「それをこちらに渡せ」

 高原が持つ卵へ目を向けたレインは、ふいに小さな違和感を懐く。

「嫌だと言ったら?」

「お前たちの親玉である密猟者は捕まった。抵抗するだけ無駄だ」

 逆らっても罪が重くなるだけだと警告するが、降伏する様子は見られない。青年はじっと立ったまま、斬りかかるタイミングを探っているようだ。

「君にはわからないと思うけどね、僕たちにはこれがどうしても必要なんだよ」

「若っ、不用意な発言はお控えください」

「うるさいなあ。これくらい、別にいいじゃないか」

 軽口を返しながらも、高原は冷たい瞳でレインをねめつける。彼らが引かないのにも理由があるらしい。

「それにしても、僕を見ても驚かないなんて。僕がこちら側だって、とっくに気づいていたのかい?」

「……アルから聞いた」

 密猟者たちは東方の人間だと言っていた。手練れの密猟者なら、悪名高いフロスベルに下調べもなしに入らないだろう。金星があちら側ではない以上、高原がそうだと考えるのが自然だ。

「アルベルト……ふうん、なるほどねえ、大体何があったかわかったよ。鷹の目が裏切るなんて、いくらあの人でも予想できないわけだ」

 高原は少しだけ天を仰ぐ仕草をした。

「それにしても、君たちが考えたのはずいぶん危ない作戦だね。僕たちが保護区内の生き物に危害を加えたらどうするつもりだったの? まっ、それくらいしなきゃ、あの人を捕まえられは、しなかったんだろうけどね」

 密猟者の首領が捕えられたのを知っても引く気はないようだ。ならば、実力行使にでるしかない。レインは最後の忠告をする。

「どうしても返すつもりはないのか?」

「言ったじゃないか。僕たちにはどうしてもこれが必要なんだった。あの人の妻がね、不治の病に侵されているんだ。……ドラゴンの卵は二つあっただろ。だったら、一つくらい人間のために使ったっていいんじゃないか? 保護してやってるんだし」

「ドラゴンの卵が、不治の病に効くと言うのはでたらめだ。宝石に目がくらんだ貴族が、自身の狩りを正当化するために流した噂だ」

 青年は驚いた顔になるが、高原は嘲笑した。

「ユニコーンの角は汚れた水を清め、フェニックスの涙は傷を癒す。だったら、同じ幻獣であるドラゴンの卵に不思議な力があってもおかしくないよね」

 レインはドラゴンの卵へ視線をやる。違和感が大きくなっていた。ほんの少しずつ、宝石の色が変化している。

「完全なでたらめだ。それに……そいつはもう、卵じゃない」

 レインの言葉に答えるかのように、卵が音を立ててひび割れた。ぽろりぽろりと大粒の宝石が地面へ転がり、木漏れ日の下で煌めいた。

 それよりもなお気高い真紅の輝きが、卵の下から現れる。丸い双眸は驚くほど落ち着いて周囲を見回す。ドラゴンは卵にいる間も外の事を感じているから、生まれたばかりでも多くの知識を持っている。彼はレインへ味方かと問いかける視線を送った。

(こちらへこい)

 星くずに念じると、ドラゴンが真紅の羽を広げた。小さな翼を器用に動かして、まるっころい体型を宙へ浮かび上がらせる。青年が驚いたように背後を顧みて、レインはその隙を逃さず剣の柄を彼の脇腹にたたき込んだ。

 青年が崩れ落ちるのと、ドラゴンが肩へ着地するのは同時だった。

「金星は奥だな?」

 黙ったままの高原を一瞥して、レインは森の奥へ向かった。

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