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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第三章 見習い保護官と準保護官
25/82

3-5

 虹の森の切株に座って、二人の男が話している。

「金星ちゃんって、なんか高原のことが嫌い? ってか苦手みたいだけど、何かあったのかな。レインも気になるよね?」

「そんなことはどうでもいい」

 無駄話はやめろと非難する視線に、アルベルトは軽く肩をすくめた。それから急に真面目な顔になる。

「わかってるって。レインが気になってるのは、例の……薬を盛った奴のことだろ」

 精霊祭で、林檎酒に薬を混ぜた人物。状況的に、フロスベル村の人間としか思えないから、アルベルトにそれとなく調べておくように頼んだのだ。

「アル、怪しいやつがいたのか?」

「あ、ああ。それなら……」

 アルベルトは開きかけた口を閉じる。同じ村の人間を売ろうとしているようで後ろめたいのだろう。

「……まだ、確信は持てないんだけど、精霊祭の前日に、デニムさんが頻繁に街へ出かけていたそうなんだ」

「デニム……というと、酒蔵の主か」

 アルベルトの家の向かいにある酒蔵は普段はほとんど使われない。酒場の主人であるデニムが酒を造るために入るくらいだ。そんなわけで、あの蔵の鍵はデニムが管理している。彼なら自由に、酒へ薬を仕込めるわけだ。

「とはいえ、薬草酒を作る時に男は誰でも入れたし、林檎酒を用意したのは女性たちだから、彼女らにも可能だ」

 怪しい人がいても、証拠がない。全ては推測だった。

「結局、これといった進展はないわけだな」

「うん、ごめん。でもさ、もう精霊祭は終わったんだし大丈夫だろ。犯人がいたとしても、きっと今頃、反省してるって」

 アルベルトには密猟者が逃亡したことを話していない。だからか平和ボケした国民のように気楽そうだ。

「だといいんだが……」

「レインは考えすぎだって。そんなことより金星ちゃんの話をしようぜ。レインから見て、彼女ってどう?」

「どうって……」

 なぜ急に金星? と思いつつも、アルベルトはきちんと薬の件を教えてくれたので、こちらも真面目に答えようと考える。

 しかし、考えれば考えるほどわからない。軽率かと思えば鋭いところがあるし、落ち着きなく見えて、きちんと細部を観察しているし。そもそも、彼女とは仕事以外でほとんど話したことがない。

「とりあえず、とらえどころのない風みたいなやつだ」

 適当に言うと、アルベルトは手を叩いて頷いた。

「やっぱり! 金星ちゃんって、ちょっと先代に似ているよね」

「先代に?」

 レインは空を見上げた。抜けるような青は、清々しいまでに美しくて、少しの不安を含んでいる。

「確かに、あの人のように、何をするかわらないところがあるな」

 今はいない人を思い出して、そっけない声に少しの寂しさが混じる。アルベルトはそんなレインに心配そうな視線をよこし、それから空を見上げた。

「あれは、レインのせいじゃないさ」

 空はどこまでも青く、雨が降る気配はなかった。

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