表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第三章 見習い保護官と準保護官
24/82

3-4

『マジありえないんだけど、なんなの? ここ』

 午後からはレインが一人で見回りをするので、金星は拠点の裏で畑を耕したり、夕食の準備をしたりと雑用に精を出す。いつもは歌を口ずさみながら楽しく作業するのだが、今日は後ろから雑音が邪魔してくる。

『全く、君が首にならない理由がわかったよ。ここって、どうしようもない土地なんだね。リーダーがさぼっているなんて、考えられないよ』

「わたしだって、高原が準保護官として来るなんて、考えられませんよ」

 あの後、軽く互いに自己紹介し、レインはアルベルトを連れて保護区へ、高原は金星の手伝いをすることになった。エコーは先ほどまで興味津々に高原を観察していたが、腹が減ったのか拠点へと姿を消した。

『それに、保護官でもない村の人間まで手伝わせているみたいだし』

「アルベルトさんは、わたしよりもアンクタリアのことに詳しいですよ」

『悪魔の土地、ねえ。どうせくだらない噂だと思ったけど、どうやら本当みたいだね。全く、父上もなんでこんなところ……』

 金星が鍬を振るっていた手を止める。高原の父は楔国でも有数の大貴族だ。

「高原のお父さんが、ここへ赴任しろと言ったんですか?」

 眼鏡の奥の瞳がつまらなさそうに見据えてくる。

『……そうだよ。てか、二人なんだから、そんな下手くそな西方語より、東方語を使いなよ? もしかして、忘れちゃったの?』

『覚えているわ! 高原ってば、どうしていちいちそんな言い方するの?』

 この幼馴染の少年は、普段は当たり障りない丁寧な態度のくせに、金星の前では喧嘩を売ってくる言葉ばかりなのだ。気に入らないのか知らないが、やめてもらいたい。

 不満を隠さず抗議するが、幼馴染は面白がるようにますます笑みを深めた。

『ふうん、一応、覚えているようで安心したよ。ところでさあ、君は知っている? 筆記試験の成績、君が一番下だったんだって。僕にはとてもまねできないね。逆にすごくて尊敬するよ~』

 嫌みたらしい口調にカチンとする。しかし筆記試験が苦手なのは事実なので言い返せない。一番下というのも事実だろう。

(本当のことでも、言い方があるじゃない。どうしていつも、意地悪言うのかしら。それに、高原ってば、わたしの手伝いをするように言われたのに、話かけてくるだけだし)

 畑の隅に立つ彼は当たり前のように手ぶらだった。言い争っても時間の無駄なので、金星は黙って畑を耕すことにする。

 高原は手伝う気なんて、さらさらないのだろう。相変わらず邪魔してくる。

『力仕事ばかりなんだね。君の哀れな胸がますます薄くなっているじゃないか、可哀想にねえ……。で、金星って、普段からこんなことばかりしているわけ? 畑仕事に水汲みに料理に雑用。君は本当に幻獣保護官なの? あ、見習いだっけ? それでもこれはないよね』

 無視を決め込むとうるさそうなので、当たり障りのない程度に答える。

「そうですよ。幻獣になんてほとんど会いません。でも、保護区内で植物を採集して調べたり、動物の生態系が変わっていないか、見回ったりもします。あとは資料をまとめる、机の上での作業もあります。わたしはしませんけど」

 保護官の仕事には、保護区内を見回って採取したデータを記録するデスクワークもあった。金星は、アルベルトのおかげで西方語を読めるようになってきたが、記録となると時間が掛かるのでまだ任されていない。

『ってことは、僕はその作業に割り当てられる可能性が高いってわけだね』

 当たり前のように言う幼馴染をしげしげと眺める。

「本当に、ここで働く気なんですね。どうして高原のお父さんは、ここで勤務するように言ったんですか?」

『どうも、君がそんな丁寧な口調じゃ、調子狂うなあ』

「西方語は、しゃべる方もまだ苦手なんですよ」

『わかってるけどさ。あっ、そだ。僕が勤務することになった理由だけど……』

 唐突に高原はにやりと酷薄な笑みを浮かべて、金星の束ねられた髪の一部をそっとつかんだ。そうして王子のように恭しく口づけする。

『僕がここへ来たのは、君にどうしても会いたいと父上に頼んだからだよ』

 急に真面目な口調。片膝をついた幼馴染は、上目遣いに金星を見た。眼鏡の奥の鳶色の瞳が、かすかに愁いを帯びた。

『って言ったらどうする? ねえ、金星?』

 さながら恋い焦がれた姫に会いにきた誠実な王子だが、話の流れで胡散臭さ全開だ。金星は動揺もためらいもなく王子を切り捨てた。

「もちろん嘘だと思いますよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ