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辺境の村の幻獣保護官  作者: 和花
第二章 見習い保護官と精霊祭
19/82

2-11

 満天の星が草原を半球状に包み込む。

 その下を、金星は精霊たちが眠る袋を持って、黙ってレインを追う。

 あの後、フロスベル近郊フロル市の自警団が駆けつけて、男たちは縄で縛られて馬車へ乗せられた。簡単に事情を説明したレインは、後を自警団に任せて帰路についた。

「あの、レイン先輩……」

 訝しげに振り向いた彼に、力いっぱい頭を下げる。

「軽率な行動、申し訳ありませんでした!」

 ザリッ、とレインが動く音が聞こえた。金星は殴られる覚悟で目を閉じた。

「本当にお前は軽率だ。いくら精霊を助けるためとはいえ、新人が一人で行動するのは無茶だ。東方語も……あの男が意味を知っていたらどうした?」

「あれは……あの人は西方訛りがきつかったので、大丈夫かと……」

 とはいえ、声に驚いた男が反射的に金星を刺す可能性もあるので、今思うと結構な綱渡りだったのかもしれない

「……反省しているか?」

「はい」

「そうか」レインは小さくため息をついた。「ならいい」

「え? いいんですか?」

 正直、怒られて首にされてもおかしくない失態だけに、驚きを隠せない。

「ああ。だが二度はないと思え。今回は仕方のない部分もあるから見逃す」

 村の人間が眠っていたことを言ってるのだ。いくら夜とはいえ、何回も体を揺すっても起きないのは不自然だった。

「あの、密猟者の人が薬を盛ったみたいなことを言っていたんですが……」

 思い出して口にするが、その先は言葉に出来なかった。村であの男を見たことがないので、必然的に村の誰かが薬を盛ったことになる。

 レインは悩む金星に釘をさすように言葉を告げた。

「犯人捜しをしようとは思わないことだ。この辺は内密にしておけ」

「あー、たぶんそれ、むりだとおもうぞ?」

 答えたのはチャコールの鞍の上に座っていたエコーだ。樹精霊はふわふわと飛んできて、なんとも言えない表情で言葉を続ける。

「おれたち精霊は人間のみたいな夢を見ない。起きている仲間の目を通した映像を夢として見られるんだ。だから、これも含めて寝てるやつらにただ漏れな。で、あいつらが内密になんて、するとは思えないぜ」



 エコーの言葉の通り、翌日に目を覚ました精霊たちは自身の誘拐未遂事件について、酒の肴にフロスベル中へ話し出した。

 金星役の精霊などを決めて、即興の劇まで始める始末だ。

 当然、村の人間たちは自身の中に内通者がいることに気づいたが、表だってそれを指摘する者はいなかった。

 二日があっという間に過ぎ、精霊祭の終わりがやってきた。

 精霊はこれから封印される。

 でも、それは人間の都合であまりにも勝手だとの印象が抜けなかった。精霊祭の形ではなく、少しずつ歩み寄っていきたい。

 正午を回ったころ、フィアが陣を描いて儀式を始める。最初と模様が少し違った。書き終わるのを待って、金星は彼女へ声をかけた。

「フィアさん、それに皆さんにも提案があるんですけど、精霊の一人をこのままここへ残すことは可能でしょうか?」

 フィアはしばらく思案する表情で黙り込んだ。

 精霊の特性を知ってからひそかに考えてきたことだが、やはり無茶なのだろうか。平静を装いながら内心ではらはらする金星に、陣の中にいた花精霊が助け船を出す。

「管理者妖精の許可さえあれば可能だわ。陣の外へ出ていればいいんだもの」

「本当ですか! だったらですね、精霊祭が終わっても、一年ごとに交代で、一人の精霊をこちら側に残すというのはどうでしょうか?」

 精霊が封印された原因は、勝手に雨を降らしたり虹をかけたりと迷惑な所業だ。しかし、一人なら大した被害もない。

 それに、眠る精霊たちは、起きる一人の目を通して人間界の出来事を知ることが出来るという。もしかすると、双方が歩み寄るきっかけになるかもしれない。

 輪になった人々は戸惑いを隠しきれないでいる。その中で赤ら顔のデニムだけがやけに晴れ晴れとしていた。

「いいんじゃねえか? 何事も挑戦だぜ」

「ふん。お前たち人間はいつも勝手な事ばかり言うな。……エコー、お前は新人と親しかったようだが、どうだ? ここへ残りたいと思うのか?」

 美しい妖精に話しかけられて、樹精霊は少し戸惑ったように答えた。

「そりゃあ、興味はあるけど……いいのか?」

「反対が出なければな。他の精霊どもはどうだ?」

 花精霊がにこにこと頷いた。他の精霊たちも祭りで飲んだ酒が残っているのか、珍しい余興が楽しいのか、陽気に飛び回りながら口々に賛同する。雨精霊と虹精霊がエコーを両側からはさんで、軽い鼻歌とともに陣の外へ出した。

「いいんじゃね? 樹精霊のちびっこいの。おれらの分も楽しめよ」

「お前を夢で見るからな。俺はセバ月の水精霊が見たいんだ。よろしくな!」

「うふふ。来年は、私が外へ出ていいかしら?」

 精霊たちは雑談しながら、輪の中を飛び回る。フィアは彼らを前にして三日前と同じく杖を掲げた。

「宴の終わりだ。精霊どもよ、またの機会までしばし眠るがよい!」

 そうして精霊たちは吸い込まれるようにして姿を消してしまった。

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