002
「うっ・・・・・・」
最近、環境ががらっと変わってしまったせいか、身体の調子が悪い。毎日繰り返す、眩暈と吐き気。気分が優れない。
「風にでもあたろう・・・」
少しでも気分を落ち着かせようと、鯉の見える池の近くの縁側に座る。時刻は深夜二時。辺りは当たり前のように暗い。そんな中、一際目立つ白い光。
「・・・、誰かいるのかな・・・?」
そこは、けっして入ってはいけないと言われていた、赤い橋の向こう側。単なる、高価なものがおいてある、物置小屋かなんかかと思っていたが、なんだか、人の気配を感じる。普段はそんなこともないから、お局さまたちが、何かしているのかと思っていた時だった。
しゃっという音がしたと同時に、開かれた襖。そういえば、いつもは雨が降っているわけでもないのに、雨戸がしめられていて不思議に思っていたが、今日は、いや、今は、雨戸がしまっていない。蓮の花が綺麗で上品な襖。と、ここで一人の人と目があった。
「・・・・・・」
突然のことすぎてどうしたらいいのか分からない。完全に目はあっているが、場所が離れているため、挨拶しようにもどうともいかない。
「・・・・・・」
しばらくすると、向こうから目をそらし、襖を閉めて部屋の中へと戻っていってしまった。なんて言えばいいのだろう、着物の似合うかっこいい、そんな感じの男の人。離れていたため、はっきりとは分からないが、綺麗な顔立ちの人なのだろう。
「誰、だったんだろう・・・」
勿論、この家に住んでいるということは、この家の人なんだろう。でも、父にもお局さまにも、息子さんがいるということは聞いていない
「へっくしゅっ、」
さすがに冷えすぎたのだろう。そろそろ寝ようと自分の部屋へ戻ることにした。
毎日が窮屈な学校も今日は休み。だからといって、家にいるのも楽しくはなかった。今日は、最悪なことに、何だかお局さまの期限が悪い。「お局」というには、家を仕切っている人のことで、名前は、村境しずね(むらさかい しずね)さんという、六十くらいのおばあさん。と、いうのも、今朝の一本の電話からだった。
◆登場人物紹介◆
・麻萌鈴子(16)...旧姓、高橋。旧旧姓、森山。母の再婚により、金持ちの家で暮らしている。私立鈴蘭華高等学校一年生。
・村境しずね(66)...朝萌家を仕切る、お局さん。