プロローグ&第1章 小鳥姫
『瑠璃色の小鳥姫』
~プロローグ~
あなたは小鳥
哀れな小鳥
カゴのなかで生きていた
想像の空でしか飛ばず
本当の空を知らない
その魂 美しく
穢れを知らず 自分を知らず
その魂 乗り移り
小鳥になりて 自由になりて
いつしか小鳥は死に堕ちて
あなたは小鳥を失った
されどあなたは愛求め
愛と共に消え去った
(瑠璃色の小鳥の唄)
第一章 小鳥姫
空がうっすらと虹色に染まる黄昏時のこと…
とある豊かな国の、最も中心に、貴婦人のように優雅にたたずむ城があった。薄紅の国旗が、女の振るハンカチのように…太陽という名の眩しい男に別れを告げているのだ。女の脚のごとくの真っ白な二つの高楼。その南側に、この国の姫君の居室があった。
――そこに姫君はいた。忘れな草色の瞳に、愛しい太陽が映って揺れている。
それはまるで、窓越しに囁かれる彼の秘密を探そうとする内気な少女。
いや、少女というほど、姫君は若くはない。隣国の姫が11歳で婚約したような時代、22の姫君は少々行き遅れ…。
しかし、姫君はうら若く見えた。小柄な身体に小さな顔。編み込みの跡がついて波打つ髪は黄金で、きめ細やかな肌には化粧はされていない。
突き出された唇が可愛らしく、笑うとえくぼが出来た。
だからといって、皆が想像するような、絶世の美姫では決してなかった。薄紅のドレスを、村娘の使い込まれたエプロンと交換しても何の違和感もないだろう。
「綺麗ね。ルリリ。」
姫君は目を細めた。
「どうして空はあんなにめまぐるしく変われるのかしら。私も、恋人の前ならば、微笑んだり泣いたり…怒ったり出来るのかな。」
窓枠に肘をついて、うっとりと想像にふける。
(空は、恋人の太陽が消えてしまっても泣かないのだろうか。)
(それとも、太陽の愛しい相手はお月さま?だったら空は何故あんなにも美しく輝けるの?永遠に会えない2人を見守り続けるなんて…あぁ、私には出来ないわ。)
『キョロキョロキョロリ』
鳥のさえずりが、夢見心地の姫君を現実に呼び戻す。
「あら、ルリリ。貴女、彼女に聞いてきてくれるの?」
姫君は振り返り、華奢な意匠の鳥籠に手を伸ばした。
鳥籠の中には青い小鳥。
名をルリリ。
それは、姫君の名付けの儀式の際に、遠国の若き商人が奉った祝いの品である。
伝え聞いたことには、商人はわざわざ東方から、巨大な幌馬車を率いて馳せ参じたそうで、そのくせ持ってきたのはたった1羽の小鳥だったから、たいそう笑い物にされたとか。
「陛下の御息女は、瑠璃の瞳の麗しい姫君だと伺いました。」
商人は独特の発音のある言葉で、王に申し上げたそうな。
「こちらは、我が国の至る所にいる小鳥でございますが、少々変わり種でありまする。」
「ご存知かと存じますが、鳥というものはオスの方が美しくあるもの。…メスはといえば目立たぬ地味なもの。こちらも例外ではごさいませぬが、この瑠璃色の、世にも美しき小鳥はなんと…メスでございます。」
「ほぉ。実に美しい小鳥ではないか。わが愛娘の瞳と同じ色とは…なかなか口が巧いの、おぬし。」
王は、商人の利発そうな様子を気に入り、小鳥を手ずから受け取った。
明朗な王は、若き商人に、将来娘を嫁にやろうかなど冗談を口にしながら、天鵞絨の揺りかごの中の愛娘に青き小鳥を見せてやった。
すると、今までおとなしかった小鳥が、急に翼を瞬いて王の手から抜け出し、揺りかごに降り立ったではないか!
…そしてえもいわれぬ音色で歌い始めたのだ。
幼き姫は忘れな草色の瞳を見開いて、小鳥をみて愛らしく笑った。
王と、その場にいた者たちはみな非常に驚き、その光景…小さな小鳥と小さな姫が向かい合って笑っている…を、遠い昔の魂が巡り合わせたように感じたのだった。
よって、姫君に名がついた。
…ミオソティア。
ミオソティア・エル・アズレード。
…天に星が輝き始めた時、窓辺で眠りに落ちた娘は、今もなお「小鳥姫」の愛称で親しまれているのだった。




