2. 調達
部屋の外を水夫たちの悲鳴と怒号が飛び交い、高波が船窓を粉々に粉砕する。船内に侵入した冷たい海水はその勢いを保って猛威を振るい、逃げ惑う乗船者たちを容赦なく床に押し倒した。
激しい揺れが影響して自力で立てなくなり、すぐ近くて侍女のミラーナが横転するのを、カトレアは混乱する頭でどうにか認識していた。何か叫んでいた気もするが、それすらも落雷のような破裂音に邪魔されてちゃんと伝わったのかもわからない。
気がつけばカトレアも床に身体を打ち付けられ、回転する視界のなか必死に支えになるものを手探りで探していた。
しかしその行為も虚しく、重力に従って床を滑っていく彼女の身体はそのまま海水に飲まれ、そして――
「ミラーナッ!」
そこでカトレアの意識は覚醒した。
彼女の視界いっぱいを埋め尽くしていたのは漆黒の海中ではなく、雲ひとつない快晴の青空。普段見慣れた寝台の天蓋はそこにはない。
「ゆめ……?」
柔らかい羽毛のベッドはどこだろう。鼻腔くすぐる紅茶の香りは? ミラーナの起床を促す優しい声も聞こえない。まるで別世界に迷い込んだような感覚だった。まさか自分はまだ目覚めていなくて、未だ夢の世界に居座っているとでもいうのだろうか。
寝ぼけ眼で空の蒼を見つめながら、カトレアは最近自身に起こったことを思い出そうと頭を捻らせる。
そういえばここしばらく、我が家の自室で寝食をした記憶がない。最後に自宅で就寝したのは三日前だったか。そう……名残惜しそうな表情を浮かべた母親が、カトレアに励ましの言葉を掛けてくれた。それがどんな内容であったか、その後起きた“衝撃的な出来事”によって記憶の奥底に押しやられて思い出せそうにない。
では、“衝撃的な出来事”とは何か?
それは船に乗って東の海洋を航行中、突如船を襲った大嵐が原因であった。不運にも、唯一の乗船客であった候爵家令嬢カトレアとその侍女ミラーナはその嵐に巻き込まれ、船は転覆。大混乱の中、ミラーナの姿を見失ったカトレアは船内に浸入した海水に引きずり込まれ、そのまま真っ暗闇の海に放り込まれたのである。
混濁する意識のなかで、カトレアは自分に降りかかった災難の記憶をひとつひとつ整理していった。全てを思い出すのも時間の問題だろう。常人であるならば気がおかしくなるような辛い体験をしたにも関わらず、彼女の心は驚くほど冷徹に現実を受け止めている。思い込みの激しい一面もあれど、さすが軍人貴族の女子といったところか。性根の強さと臨機応変な心の切り替えは騎士としての素質をしっかり兼ね備えていた。
――――私は船から海に投げ出され、そしてこの砂浜に流れ着いた。乗っていた船も漂流したけれど、他のみんなは、きっと……。
そこまで考えて、カトレアはその先の推測を頭の隅に押しやった。
これ以上暗い感情に浸っていてもどうにもなるまい。今は何より、自分の生命に気を配らなければならないのだから。
沈鬱な気持ちを振り払うように、カトレアは勢いよく上体を起こした。全身にまとわりつく砂粒が気持ち悪く、不快に表情を歪めたカトレアであったが、こんな時に身なりを気に掛けている場合ではないと思い至ってすぐに表情を引き締める。
――――誇り高きシュマイザー侯爵家の娘が、こんなことで根を上げれば末代までの恥。
家名に傷をつけてはいけないと強きの態度を示すカトレアだったが、その本心にはとてつもない孤独に懸命に絶えようとする少女の健気な強がりが窺えた。ドレスや髪の砂を落とす仕草は十代後半の女性にしては拙く、稚児が親を必死に真似ているように見えなくもない。今まで散々侍女に着替えの手伝いを任せていたのがここにきて仇になったのだろう。仕舞いには砂を払う行為事態が面倒になり、頭を激しく振って砂を振るい落とす始末。彼女の母親が見たら行儀が悪いと一喝したかもしれないが、生憎と周辺には人っ子一人いず、他人の目をはばかる心配もない。ならばと、半ば自暴自棄になったこの侯爵令嬢は一番手っ取り早い方法を選んだのである。
カトレアは毛布代わりに使用していた船旗から抜け出すと、その場でゆっくりと立ち上がった。砂浜の上は石畳の硬い地面より柔らかいとはいえ、人体への影響を考慮してあるわけではない。途端にカトレアの身体の節々が悲鳴を上げ、今まで感じたことのない鈍い痛みに思わず呻き声を漏らす。できることならこのまま何もせず、全身を労わることに専念したい。だが人手不足という楔が必然的に彼女の行動範囲を制限していたため、好き勝手にできないのがカトレアの現状であった。
――――お腹が…空いたわ……。
何より優先すべきなのが食料の調達。
腹の虫が止まない腹部を押さえながら、カトレアは胸中でひとりごちる。昨日は泉の水を飲んだだけで、食べ物は何一つとして口にしていないのだ。食欲はまったく沸かなくても、必要最低限の栄養摂取を身体が望んでいるのには違いなかった。
護身用の鞘付きナイフを腰にぶら下げ、念を入れてオイルランプも手に引っさげる。一種の決意を滲ませたカトレアの視線の先にあるのは、砂浜に打ち上げられ無惨な姿をさらす難破船。つい二日前まで、あの中型船に三十二名の乗船者が各々の役目をこなして生活していたはずである。だが今はその面影はまったく見受けられず、船すら原型をとどめていないまでに激しく破損していた。中型船を襲ったあの嵐がそれだけ大規模な威力を伴っていたことは明確。同時に、そんな強烈な嵐に巻き込まれても尚怪我ひとつ負うことなく生存していたカトレアにとって、奇跡以上に偉大な神の加護が働いたと思わざるを得ない。自分はただ運が良かっただけじゃない、こんなところで死すべきではないと神がお告げだからだ、と。
それは確信にもほど遠い彼女の現実逃避の一部であったが、この思い込みがカトレアに少なからず生への執着と行動する勇気を与えるきっかけとなった。
ナイフの柄に手を添えながらカトレアは一歩ずつ、ゆっくりと座礁する船に近づいていく。
引き潮のおかげで今のところ船内の浸水は免れているものの、船自体が横倒しになっているので思うように先へは進めない。不幸中の幸いと言うべきか、偶然にも船の舳先に位置する場所に直径六十cm大の穴が空いており、そこから船内に潜入できそうであった。
昨日は船の外回りしか探索しておらず、目ぼしいものはあまり見つけられなかったが、内部は外よりもっと必需品が詰っているに違いない。最も、海水にやられて使い物にならなくなった備品もあるだろうが、全てがそうと決まったわけではないのだ。厳重に管理されていたであろう船底の備蓄庫ならあるいは、小さな被害だけで済んでいるかもしれない。どちらにせよ、このまま何もしないままなら空腹で動けなくなってしまう。ならば、少しばかり危険を冒してでも船内を探索する方が有益というもの。食料が見つかれば良し、替えの洋服や香水も無事であれば尚のこと良し。
カトレアは胸元で拳を握って雑念や迷いを振り切ると、勇気を振り絞って舳先の破損部分――大人が身を屈めてようやく通り抜けられる穴に頭を入れた。
当然、陽の光を受けつけない内部は漆黒の闇に包まれており、月明かりの降り注ぐ闇夜よりも真っ暗である。
「さすがにこのままじゃ無理よね……」
一旦頭を引っ込めたカトレアは、念のために持ってきたオイルランプに火を灯した。燃料の残りも考えて火力は抑えてある。照明範囲はあまり期待できないかもしれない。
カトレアはもう一度穴の前に立って、その暗闇の中にじっと視線を注いだ。とても強い力が働いて出来たであろうそれは、木製の船装を砕いてジグザグの淵を形作っている。その原因が何であるかは、航海に関しては無知であるカトレアにはわからなかったが……。
とにかく彼女には、その穴が肉食動物の大口に見えて仕方がなかった。巨大な海洋生物が自分を飲み込もうとしている絵図を想像して、身体の芯から震えが沸き起こる。
「た、ただの船だわ……」
そう言いつつも、彼女の利き手はナイフの柄をがっちり掴んで放さない。一度思い込んだら歯止めが効かなくなってしまうカトレアの悪い癖が、ここにきて予期せぬ停滞を招きかねていた。
これが単なる遊戯紛いの冒険ごっこであるなら、カトレアは目前の恐怖に耐えられず直ちに逃げ出していたことだろう。しかしそれを思いとどまらせたのは、空腹という苦しみが足枷として彼女をその場に縛り付けていたからに他ならない。ここで逃げ出しては肝心の食料は一生手に入らないままだろう、と。
「わ、私はシュマイザー家の長女。こんなことで恐れ慄いていてはいけないわ……ええ、そうよ。大丈夫……大丈夫……」
意を決し、怪物の大口に身体を滑り込ませる。
連れが誰もいないこの状況下で頼れるのは己の理性のみ。それと足元をほのかに照らすランプの明かりくらいなものだろうか。口元でぶつぶつと自分を慰めながら、カトレアは及び腰のまま慎重に船内へ潜入した。
暗闇の中、できるだけ安全な足場を探しながら前進するのは至難のわざである。ましてや探索場所は横転した船内で、本来壁であったはずの床にはガラスの破片や小物類が散乱しているのだから、裸足のままのカトレアにとって歩きづらいことこの上ない。四苦八苦して何とか船倉にたどり着いたはいいものの、その時にはすでに彼女の露出した白い肌は無数の擦り傷が刻まれていた。
「…………」
もう喋る気力もない。
ばさばさにほつれた前髪が顔を覆い隠し、ドレスも以前にも増して擦り切れている。だらしなく開いたカトレアの口から漏れる荒い息は、そのまま彼女の心身とも多大な苦労を物語っていた。
――どうして私が、こんなこと……。
恐怖と屈辱に堪えながらの船内探索は、カトレアの空腹による苛立ちを余計に逆撫でするものだった。裸足という無防備な危険性に、つい足元ばかりを気にしてしまった不注意がいけなかったのである。前方を横切る柱の存在に気づけずそのまま額をぶつけて仰け反り、かと思えば床を濡らす魚油に足を滑らせて転倒。その際角材に腕が掠り、出血したのではないかと半狂乱になって来た道を戻る最中、縄梯子に足を取られてまた転倒。悲鳴を上げている間はまだ元気が有り余っていたが、何度か同じ失態を繰り返すうち、惨めに叫び声を上げる自分が馬鹿らしく思えてきた。喉もカラカラになり、声を発するのも辛い。
「ここで収穫がなかったら、ただじゃおかないんだから……」
傷だらけの腕をさすりながら、カトレアは恨めしい表情を浮かべる。
ここまでの苦労は彼女の自業自得であるはずだが、だからといってわざわざそれを咎める付き人は傍にいない。いかにも不愉快だと言いたげな態度で、カトレアは辺りに転がった積荷の物色作業に取り掛かった。
厳重にロープで固定された木箱や樽はナイフで枷を断ち切り、ランプをかざして中身を確認する。大した物でなかったり今すぐ必要でないものはとりあえずそのままにして、逆に一番目当ての食料や必需品などを見つけたら、入れ物をひっくり返して中身を床にぶちまけていった。
中でも干し肉や乾パンなどの即席の食べ物を発見した時はカトレアも素直に喜んだ。普段口にしてる高級料理に比べたら粗末極まりない食料であるに違いないが、彼女自身料理はさっぱりなので大いに助かる。ついでに上着代わりの衣服と清潔な下着を数着と、底の厚いブーツも二足頂戴した。
数日間分の食料とその他必需品を適当な大きさの麻袋に詰め、カトレアはそのパンパンに膨れた袋を見つめて満足そうに頷く。見た目は随分と重そうであったが、持ち上げてみると意外にそうでもない。非力な貴族の少女でも持ち歩くことは十分可能だろう。ランプで片手が塞がり、少々煩わしく感じることもあったが、そこは彼女の意地で乗り切ることができた。ブーツを入手したお陰で足元の注意ばかり気にしなくて済むのが良かったのだろう。結果的に彼女の心身への負担を軽減し、忍耐力を補っていた。
カトレアが船を脱出したのも、それから十数分後のことである。
船から出た瞬間、カトレアの視界は真っ白に染まった。
もちろん暗い所から急に明るい場所へ移動すれば、強烈な日差しに眩しいと感じてしまうもの。暗闇に目が慣れてしまったカトレアの両目は突然降り注いだ日光に驚いたのである。
「うっ……」
反射的に目を瞑り、手で日傘を作って光を遮る。
明るさに目が慣れてから空を見上げてみれば、太陽はすでに真上に昇っていた。船内の探索を始めたのが早朝だから、あれから数時間以上経過していることになる。
正午を回っても飲食ひとつしていないのはさすがにまずいのではないだろうか。カトレアは内心、ふとそんなことを思った。昔ミラーナに言われたことがある、水分補給もせず日中陽に当たり続けると身体が干からびて死んでしまうと。彼女はその話を全て信じていたわけではなかったが、いざ窮地に立たされると、それもあながち嘘じゃないかもしれないと疑ってしまう。
ミイラのように骨と皮だけになって砂浜に横たわる自分を想像し、カトレアはぶるっと身を震わせた。冗談じゃない。病気や不慮の事故で命を落とすのならばともかく、最後まで生に縋って苦しみながら餓死するなんてまっぴらだ。
「生き残るんだから……絶対に、家に、帰るのよ!」
ここで死んだら、自分はさらに惨めな存在になってしまうだろう。父や兄たちは清々するかもしれない。妹のいなくなった邸宅で、肩の荷が下りたように安堵した表情を浮かべる彼らを想像するだけで、たまらなく悔しくなる。
――――だったら……。
無事に生還して、父たちの驚愕した顔を拝んでやろうではないか。そして、言葉を失った彼らを傲慢に睨みつけてやればいい。お前たちの目障りな妹は、海に落ちても生き残る強運の持ち主だと。
「駄目。それじゃ駄目よ」
そこまで考えて、カトレアは途端に嫌そうな顔になった。
「運に頼ったら、それは私の手柄じゃないですもの。違うわ、実力よ! 私は自力で生き残って、自力で家に帰るの……」
難破船から野宿場所までの帰り道、カトレアは帰還してからの自分の成り行きを頭の中で思い描いた。時に砂浜に足を取られて転倒することもあったが、上機嫌に未来予想図を仕込む彼女は気にしていない。ここまで生き残ってきた奇跡は己の実力で、これからもその隠れた才能が発揮されて良い結果を生むことになるだろう。証拠もないそんな確信を抱かせるほどに、この時のカトレアは自惚れていた。
カトレアが毛布代わりにしていた船旗には、盾を背景に二本の剣が交差する絵が大々的に刺繍されている。これはシュマイザー家を証明する家紋で、大昔の先祖が王国に騎士として忠誠を誓ったことに由来するらしい。「らしい」というのは、父の口伝であって確証はないからだ。書斎の歴史書を漁れば、シュマイザー家の史実はいくらでも知ることができるだろうが、生憎と女性であるカトレアには書斎への出入りが許されていない。幼い頃は何度か潜入を試みたものの、警備兵や使用人に捕まって全て失敗に終わっている。後で父親にこっぴどく叱られたのが苦い思い出だった。
「…………」
地面に敷かれた旗をじっと見下ろすカトレア。その端整な顔に表情はない。
本来は人前にあってシュマイザー侯爵家の象徴となる光栄な旗も、今は砂と海水に汚れて見る影もなかった。かつてはマストの頂上に高々と掲げられていたのだろう。出港の際は、その立派な船体に惹かれて人々の視線が釘付けになったに違いない。そしてマストの旗を仰ぎ見てこう言うのだ、『なんと…王国の誉れ高き名門家の人間が、海に何用であるか』と。
しかし彼らが見ているのはあくまで侯爵家という名声にまみれた外見であって、その内にいる乗客ではなかったはずだ。貴族として相応しい立場にある偉大な父や兄とは違い、部屋に篭って怠慢な生活を送ってきた末っ子のカトレアは名誉の一欠けらにも恵まれていない。唯一自慢できるものといえば、世の男たちを虜にしたこの美貌だけであろうか。いや、それすらも結局は上辺だけに過ぎないのだから、現状何の役にも立っていない。
――――私が生きているのは、運が良かった……だけ?
カトレアは無言のまま船旗を丸めて持ちやすくすると、それを脇に担いだ。焚き火の跡に砂を振りかけて痕跡を消し、他の荷物も一緒に抱えてそそくさとその場を後にする。彼女の向かう先には、鬱蒼と生い茂る密林があった。舗装された道もなく、その上昼間であるというのに薄暗いその森林は、常人であれば絶対に近づきたいなんて思わないだろう。だが一度足を踏み入れ、そればかりか泉の水で喉を潤した少女に躊躇いはない。水のお陰で今のカトレアがあるようなものなのだ、むしろ躊躇しろという方が難しいだろう。
泉の畔までやってきたカトレアは、まず木陰に荷物を置いて一息吐いた。
こんなに重い物を長時間一人で持ち歩いたのは初めてかもしれない。騎士の家系であることから、木刀を使った護身用剣術を少なからず学んでいるために多少の無理には堪えられるものの、空腹の状態ではそれもままならないのである。
何度目かもわからない腹の虫が鳴って、カトレアはようやく泉の水に手をつけた。
ひんやりとした感触が手に心地よい。自宅の庭に置かれた噴水もなかなかのものだが、所詮は人工物。ありのままの自然で生まれた湧き水の方が、ずっと神秘的でくたびれた心身を癒してくれるものである。水を掬って一口飲んだときは、思わず大きなため息を吐いてしまった程だ。
――――家に帰ったら、この地に私の別荘を建ててもらえるようお母様にお願いしてみようかしら?
都会の賑やかな雰囲気より、自然に恵まれた静かな場所の方がずっと落ち着ける気がする。人騒がせな娘がいなくなるのである、父もきっと承諾してくれるだろう。
浮かれ気分で想像を膨らますカトレアであったが、その楽しい暮らしの中に欠けた一人の侍女を思い出した。
そうだ、あの人がいないではないか。いつも親身になってくれた、どんな我が侭も聞いてくれる面倒見の良いカトレアの世話係が……。
「ミラーナ……」
瞬間、カトレアの表情に暗い影が差した。
彼女は生きているだろうか。生き残って、血眼になって自分を探してくれているだろうか。右も左もわからない土地で、怪我をしながらも必死に主の名を叫ぶミラーナを想像したカトレアは、さっきまで有頂天になっていた自分が嫌になった。同時に、少しの間といえどミラーナの存在を忘れていた自分自身を呪ってやりたくなる。
――――お願いミラーナ。どうか無事でいて……。
カトレアは胸元で腕を組み、『家族』の無事を心から祈った。
それだけが、無力な彼女にできる精一杯の思いやりだったのである。
※主人公は漂流した地が無人島であることをまだ知りません