第一話
『星座占い12位は……ごめんなさい、かに座のアナタ!!今日は1日注意が必要な日!!』
……まじかよ。よりによって最下位!?
今日はこの世でいちばん大事な、SMTのライブの日なんですけど!?!?!?!?
『特に頭上はより一層注意を心がけてくださいね☆ 上を向いて歩こう!ラッキーアイテムはリモコンです!1日頑張っていきましょう〜』
「ぬぁーにが“上を向いて歩こう☆”だよ。なんだよ“頭上”って…てか、なんなんだよリモコンて。」
テレビに軽快なツッコミを入れながら、私はバチバチにメイク中。
私は一ノ瀬 怜奈、29歳。
人生をSMT――"Sirius More Than"という男性アイドルグループに捧げてる会社員です。
「ああ…カナタ……今日もかっこいいなぁ……今日ホンモノ見れるとかヤバすぎるってばよ…」
ポスターに頬をすりつける。ああ、変態だよ、The変態。
しかも!!なんと!!!!
サブステージ最前列っていう神席を引いてしまったんですわ!!!
そりゃもう、かに座最下位でも文句ない。むしろ全国のかに座の皆様、本当に申し訳ありません。
私が運を使いすぎたのかもしれません。
カナタきゅん、待ってろよ!!!見つめまくってやるからな!!!
SMTは、今や世界を代表する5人組の男性アイドル。
中でも私は、KANATA推し。
ダンスはキレッキレ、歌声は誰もを魅了する美声。顔はもう、芸術。
彼の歌で、私は何度も救われてきた。
生きる意味をくれた人。自分の命よりも大事な、尊い存在。
今日は彼のメンバーカラー、赤のシャツに身を包み、気合を入れたメイクでいざライブ会場へ。
人混みを軽やかにすり抜け、会場の階段を上がろうとした――その瞬間。
「うぎゃっ!!」
不意に背中からドンッと衝撃。
我ながら可愛くない叫びを上げながら、地面に転んだ。
「す、すみません、慌ててたもので…」
――人にぶつかられた?声の感じから、たぶん男性。
帽子深くかぶってて顔は見えなかったけど、やけに慌てた様子だった。
「いえいえ!大丈夫ですっ!」
痛くないし、謝ってるし、浮かれて走っちゃう気持ちはわかる。
なにせ今日はカナタ様のライブだ。今の私なら、世界中に優しくできる気がする。
その人はバッグを拾い上げて、そそくさと立ち去った。
「男性ファンも多いなんて、さすがSMTだよね~……ん?」
ふと足元に、ぽつんと転がる黒い物体。
……リモコン?
――あっ!!!!!!!
朝の占い……ラッキーアイテム“リモコン”……!?
そういや私、忠実に家のすぐ目の前に転がってたエアコンのリモコンをバッグに突っ込んでたわ!?!?
「……恥ずかしい。でも、うん、念のため……ねっ。」
それだけは、なぜか絶対に忘れちゃいけない気がした。
私は無意識に、落ちてたリモコンをそっとバッグにしまった。
そしてライブが始まった。
歓声。光。振動。音の洪水。
――カナタが……あんなに近くでっ!!
「輝いてるぅぅぅカナターーーーー!!!!」
私の全声量・全感情・全エネルギーをカナタにぶつけながら叫んでた。
この人が生きててくれてよかったって、何度も何度も思った。
だけど――この時の私はまだ知らない。
この日、このステージで、運命がとんでもない方向に動き出すことを。
~♪
流れてきた。これ、カナタのソロ曲だ。
……え、ちょっと待って。
サブステで披露って、まさか近くで見れるやつ?
今日……死んでもいいかも。
そんなことを考えてたら、カナタがゆっくり登場した。
メインステージから、まっすぐ、私の方へ。
このソロ曲は、カナタが作詞したもの。
彼の言葉、彼の想いが、そのまま歌になってる。
♪間違ってない。君が選んだこと、間違いじゃないから。
だから笑って、笑えばいいんだ。
「……やばい、泣ける。いつ聞いても、本当にいい歌。」
カナタのきれいな横顔。
その優しくて、でもどこか儚くて、今にも消えてしまいそうな声。
とてつもない幸せだった。
♪空には星たちが瞬いて、君を包み込んでる
――そのとき、今朝のことをふいに思い出した。
『特に頭上は、より一層注意を心がけてくださいね☆』
……頭上。
まさか、ね?
ふと見上げたステージの照明。
……カナタを照らすスポットライトが、チカチカと瞬いている。
き、気のせいかな、なんか、揺れが大きいんじゃないかな。
スポットライトってあんなに揺れてたっけ…。 しかも、ちょうどカナタの真上のものだけ。そういう仕様なのか…?
気のせいだと思いつつも、とんでもなく嫌な予感がする。
今日だけは、自分のこの感を信じろと言ってる気がする。 さらに揺れが激しくなった時、私は、なぜか観客席を飛び出していた。
警備員が私に気づき、追いかけてくる。
「「君っ!なにしてるんだ!!!」」
すみません。警備員さん。ほんとはこんなこと絶対しないし、私はファンの要なんです。もう金輪際、こんなことはしないと誓います。
でもね。
-----わたしが選んだこと、きっと間違ってない。
「カナタ!!!!」
私の叫びに、カナタがハッとこちらを振り向く。
うわ……めっちゃ、かっこいい。
――と、我ながら最後までアホなこと思いつつ、手はちゃんと動いていた。
私はカナタを――全力で突き飛ばした。
ドッシャーーーーーーーン!!!!!!!!
…
………
よく、漫画とかで、死んだときに目の前が真っ暗になるとかいうじゃん。
めっちゃ真っ白。
こんな白い?ってくらい白いんですけど。
「あーーー天国って本当にあるんですね。」
「残念ながらここは天国ではないのじゃ。」
!?
真っ白な空間から、急に声がした。目の前には、白いひげのおじさんが立っていた。
「びっくりしたーーーー!……えっと……どちら様でしょうか?」
「私は……神様じゃよ。君の世界を創った神様じゃ。」
「は、はあ。」
「その顔は疑っとるね?」
いや確かに、「なに言ってんだジジイ」って思いましたけど。
でも……。
「私、死んだんですよね?」
「そうじゃな。君は確かに、ライトにつぶされて死んだ。」
「やっぱり、そうなんだ……。」
それなら、この人が神様でもおかしくない。信じられないけど、私、本当に死んだんだ。
「あの、死んだのは私一人ですか?か、カナタはどうなりました!?」
「あの場で死んだのは君一人じゃ。突き飛ばした彼は下敷きにはなっておらん。」
「よ、よかったーーーーー!!!!!!!!
神様、私やりましたよ!!!!
カナタを救いました!!!!
カナタ死ななくて良かったああああああああ!」
カナタを守れて、一生の悔いなし。いや、もう一生終わったけど。
「で、神様は何してるんですか?ここが天国じゃないなら、これから神様に天国か地獄か選択してもらったりするんですかね?」
「残念ながら、君は死んだが、天国にも地獄にもいかないのじゃ。」
「はい」
「君は生き返る。」
「はい?」
「わしの創った、別の世界で」
「は?」
今度こそ何言ってんだこのジジイーーーー????
私の顔を見て、神様と名乗る人物は微笑んで話を続けた。
「実は、あの日、あの場所で6万人が死ぬ運命だったのじゃ。じゃがな、おかしなことに、あの場で死んだのは君一人だったんじゃよ。」
「ろ、ろくまん……!?」
6万て、もしかして――
「ドームの収容人数……。」
「そうじゃ。あの場にいた6万人、みんな死ぬ予定だったんじゃ。君も、君が突き飛ばした彼も含めてな。」
「で、でも私一人だけだって……。」
「君が運命を変えたんじゃよ。」
運命? 私が?
「それって、どういうことですか……。カナタの運命を変えたならわかるけど。」
「君は何か、特殊なものを持っていなかったかね?」
「特殊?」
あの日持ってたもの?
「ライブ行くんだから、普段は持ち歩かないものばかりだけど……ペンラ(ペンライト)とか?」
神様は首を横に振る。
神、かみ、かに……かに座……あ!
「リモコン!?」
「正解じゃ。実はな、あの会場には爆弾が仕掛けられていて、本来ライブ中に爆弾が爆破され、全員その被害にあうという運命だったのじゃ。
しかし、君がその爆弾犯となんらかで接触し、君のリモコンと爆破スイッチが入れ替わったんじゃよ。」
「ええっ!?でも、リモコンしか持ってなかったし……スイッチみたいなもの拾ってなんか……あっ。」
私は、会場に入る前、誰かとぶつかったことを思い出す。確かにあの時、リモコンを落とした。
えっ、それ!?
「どうやら爆弾犯は、リモコンを改造してそれをスイッチにしてたんじゃな。」
「そんなうまい話あります?」
「おかしな話じゃが、あったんじゃよ。」
「じゃあ、犯人が爆破しようとしても、できなかったのは……」
「君のリモコンと入れ替わったから、犯人は爆破できなかったんじゃ。」
私が慌てて拾ったのは、爆破スイッチだったのか……。
考えるとめっちゃ怖い!! 私が押してたかもしれないし!!!
「しかも君は、爆破スイッチの中の電池を抜いたね?」
「あ!!そういえば、ハンディファンの電池切れて、『ラッキー、リモコンの単三電池使っちゃえ』って抜いたんだった……。」
じゃあ、誤爆みたいなことも防げたんだ……。
「ちょっと待って、でもなんで爆弾が?犯人はどうしてこのライブでそんなことしようとしたの?」
「犯人の狙いは、君が救った彼じゃな。何らかの恨みを持ち、彼を殺すと同時に、6万人を巻き込もうとしたのじゃ。」
「カナタを?じゃあ、カナタの上のライトを落としたのも……」
「そうじゃ。じゃが、それも君によって阻止された。運命を二度も変えた。――これには、わしも非常に驚かされた。」
「……神様は、運命を変えることはできないの? ほら、よくさぁ神様が救ってくれたとか言うじゃん。」
神頼みとかもあるし。実際、私が今回神席引いたのもそのおかげだったりして。
「わしには、世界を創ることはできても――運命を変えることはできんのじゃ。
救うことも、破壊することもできぬ。ただ……起こりうる運命を、見届けることしかできんのじゃ。
災害や戦争が起きるのも、運命。止めることはできん。
そして、人間の“感情”から生まれる事件――それもまた、運命なのじゃ。」
感情から起きるもの……。犯人のカナタへの憎しみも、運命……。
「じゃが、時に――その運命が“変わる”こともある。今回のようにな。
わしにはできんことでも、君たち――その世界に生きる者たちは、運命を変えることができる。」
「えっと……じゃあ私、とんでもないことしたってことですかね。6万人の運命を変えて、カナタの運命も……。
え、でもそれで!?さっき、なんか言ってませんでしたっけ!?」
「うむ、君にはそのご褒美として、わしの創った別の世界で生き返るのじゃ。」
「それそれそれ、どういうことですか!!別の世界ってなに!?」
私は神様とやらの胸ぐらをつかむ。
「やめんか!聞くのじゃ!話を!」
神様はコホンと手を添え、話し始めた。
「わしはいくつかの世界を創った。君がいた世界も、その一つ。そして君が新しくいく世界は、すこしだけ君が元居たところとは違う。君のいた世界でいうと、魔法や超能力などがある世界なのじゃ。」
「えっとーーー、それってゲームとか漫画みたいな?結構信じてないんですけど。」
とはいうものの、実際にいま神様を目の前にしていると、信じざるを得ないんだけどね。
うんうんと神様はうなずいてるけど……。
「でも、それご褒美じゃなくないですか。だって、そういうのがあると絶対バトルとかあるじゃないですか。ノーマル世界で生きてた私にとったら生き抜けないと思うんですけど。しかも、カナタがいない世界なんて、ご褒美どころか罰ゲームです。地獄はそこにあります。」
「ほっほっ。そんなことを言われるとは思わなんだ。ふつう魔法とかはあこがれるものじゃろう。君のいた世界では。」
「わたしは、そういうものより推しのほうがよっぽど憧れですので。」
「まあ、そこでじゃ。わしの能力の3分の1を君に授けよう。新しく生きる世界で、きっと何の不便なく過ごせるじゃろう。」
人の話聞いてないな、この神様。
生き返るの確定なんですね……。
「神様の力って?世界を創る?」
「“創造”という力じゃ。君はほぼすべての魔法、あるいは超能力、あるいは物質、あるいは現象を創ることができるのじゃ。」
急に言われるもんだからよくわかんないんですけど、でもなんかすごそう。
「おっと、さすがに話をしすぎて時間がないのう。さてレイナ、使い方は身をもって体験するほうが早い。第二の人生、満喫するのじゃ。ご褒美じゃからな。」
「え、え、え、ちょっとまって神様、聞きたいことがたくさんあるんだけど!急に突き放すじゃん!神様!?」
「行くのじゃ、レイナ。また会おう。」
か、神様――――――――!!!
今度こそ目の前が急に真っ暗になった。
そんなこんなで、望んでもない、ご褒美異世界ライフとやらが始まることに----。
「人とはおもしろいものじゃ。わしの見る運命をこうも大きく変えてしまう。レイナ、特に君には驚かされたよ……。楽しませておくれ。
……、おや、運命を変えた人が他にもいたようじゃな。」
END




