星のカケラ
息を吐くと、たちまち白の蒸気となり空へ昇る。
満月の光に照らされて私はただ歩き続ける。周りに街頭はない。家の光もない。ただあるのは、バケツからぶちまけたような星空と、それを包み込むような穏やかな光の満月だけ。
はっ、はっ、と白い息を吐きながら、月明かりに導かれるように山を登った。山といっても階段もあって歩きやすいように整備されているハイキング用の山だ。それでも普段運動をしない私にとって真夜中の山というのはエベレストに登っている気分だ。
ピィーっと、どこかからなにかの鳴き声がする。
両手を組んで目を瞑る。じわじわと暖かい形を持たないものが私の手から溢れ出しそうになり目を開けた。手の中には溢れんばかりの淡い光を放つそれが遠慮がちに、でもそこに存在を主張していた。私の体温をゆっくりと吸い込んでどんどん光を増していく。そこに一度ふっと息をふきかけて、淡い光をその声の元へと投げた。一瞬だけきらりと光った。鳴き声は、ピタリと止んだ。
階段をひたすら登り続ける。空が私を呼んでいるのだ。
少しでも近くに行くために足を上げて、呼吸を乱す。
そうすれば、階段の終わりが見えてくる。
山頂に着く頃には身体中から白いモヤのようなものが出るのではないかと思うほど汗をかき、寒さを感じなかった。
少し息を整えて目を瞑る。
風が木の葉を揺らし、自分の足元にある石が転がる音しかしない。
もう一度目を開けて空を見上げると、先程よりも近くなった空が私を見ていた。手を伸ばし、星をつかむ。
キラキラと眩い光を放つそれを口に含んだ。
冷たくて、甘酸っぱい。リンゴと桃の中間のような味がする。シャリシャリとした食感に歯がキンと傷んだ。私は知覚過敏なのだ。
飲み込んで、また一つ空から星をとって口に含む。シャリシャリ、シャリシャリと咀嚼して飲み込む。飲み込む度に喉がぼんやりと淡い光を放つ。それを胃に落とし、また喉を光らせる。
星をいくつか食べたあと、また空に手を伸ばした。
月をパキンと少し折って口に含む。
バターと砂糖の優しい甘さ。口の中でホロホロと解けていく。
月は星とは違って優しい光。だから口に含めばもう光は見えない。胃の中にスルスルと収まっていく。
冷たい星と、優しい月。
お腹の中で一つになって、私の宝物へと変化する。
私の胃とは対照的に、夜空の星は減り、満月は三日月になっていた。でもそれでいい。
今月の私の食事はこれで終わりだ。
次の食事は一体いつになるだろうか。二年後かもしれないし、もうないかもしれない。
大きくなったお腹をなでて、口についた月をぺろりと舐めた。




