表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最愛は、顔も知らずに離婚した敵国の夫・妻です。  作者: Sor
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/44

44話【帝国からの――】

フォンティティの森での視察を終え――。


ルーモナの領地から王都の屋敷に戻り――二週間が経った。




王都では――。


国王派と反国王派の派閥争いは変わらずだったが――表面上は穏やかさを保っており……。


今夜の王宮の夜会も――両派閥ともに分け隔てなく、王宮より招待状を受け取っていた。




それは、私、ミレイユ・タウンゼントも例外ではなく――。


夜会出席のため、アンに髪を結い上げてもらっているところだった。




「……浮かない顔ですね、ミレイユ様」



「今夜もまた……彼らの相手をするのかと思うとね、憂鬱なのよ」


アンが鏡ごしに苦笑いする。



私は溜息をついた。



「森での自由気ままに過ごした時間が、少し恋しいわね」




フォンティティの森で、デイモンに歌を捧げた日――。


ドナシーの力を使い過ぎた私は、案の定、領地屋敷に帰るなり一日半寝込んでしまった。



あの時の――。


川から舞い上がった光の玉はなんだったのか。



ベッドで横になりながら、元気になったら川へ確かめに行こうと思っていたのだが……。


そんな間もなく――。


体力が回復するなり、王都の屋敷へと戻った。



アンは――。


私が川で能力を使ったことを黙っていてくれたが――。


察しの良い父と兄は、私が言いつけを守らなかったのだと勘づいたようで。



「このまま領地で、ミレイユを好き勝手させておいたら大変だ。まだ王都のほうが安全かもしれない」と――。


一ヶ月の視察を三週間ほどに短縮して、半ば強制的に――私を連れ帰ったのだ。



それから、お母様やお兄様と一緒に、サロンや舞踏会に顔を出す日々に戻ったのだが――。




少し――困ったことになっていた。



ルーモナに行く前よりも、令息たちから話しかけられることが多くなったのだ。



簡単な挨拶くらいなら問題ないのだが……プライベートな質問や、観劇やコンサートの誘いを頻繁に受けるようになり、対応に苦慮してた。




「今日は公爵様にエスコートしていただけますし、ちゃらちゃらした令息たちは寄ってこないのでは?」


俯く私に、アンが明るく声をかけてくれる。



「うーん、そうだったらいいのだけど」



「ミレイユ様が社交界に戻って、そろそろ三ヶ月がたちますし――」


アンは仕上げの髪留めを挿しながら言う。



「令息たちも、ミレイユ様へのアピールに本腰いれはじめたのでしょう。釣書もいくつか届いてるのですよね?」



そう――求婚の名乗りを上げている人がいるそうで、父からも話があった。



だが――兄が「まだ離婚して半月も経ってないのですよ?」と、私の代わりに突っぱねてくれていた。




「困ったわ、求婚なんて。だって、私……」


その後に続く言葉を――口ごもってしまう。



アンをちらりと見る。



私が「離婚した相手と再婚したい」と言ったら――。


――アンはどう思うかしら。



気心知れたアンとは言え――呆れられるのではないか。



――でも、アンには私の本心を伝えたいわ。


一番側にいてくれる彼女には、本音を知っててほしい。



それに――協力してもらいこともある。




離婚契約書が効力を発揮してる限り、私はデイモンと再婚どころか、会うことすらままならない。


だから――。



契約書を無効にする方法を見つけたいのだ。




――お父様に頼めば、見つかるかもしれないけど……。



父をはじめ、母も兄も――私が大公家で良い扱いをされていなかったことに腹を立てていて――。


この離婚を喜んでいる節があった。



うーんと心の中で唸る。



――再婚したいなんて言ったら……総力をあげて阻止されそうなのよね。



だから、話のわかるアンに助けてもらいたい。




私は、ちらりと文机の時計を見る。


まだ、屋敷を出発するまでに間がある。



――話すなら早いほうがいいわ。



「ねえ、アン」


ドレスに合わせたネックレスを選び始めた彼女に――意を決して口を開いた。








「ミレイユ……夜会に行く前から疲れているように見えるが……なにかあったのか?」



王宮に向かう馬車の中――。


向かい席に座るお父様が、私を気遣うように声をかけてきた。



私は「いいえ、なにもありませんわ」と笑顔を取り繕う。



「そうか、それならいいが……。なにか困ったことがあるようなら、私に言うのだよ」



「はい、ありがとうございます、お父様」


父は頷き、腕を組むと――王宮に着くまで休むつもりなのか、そっと目を閉じた。



私も――ふうっと息をつく。



――嫌だわ、疲れが顔に出てたなんて……。



私は窓に映る自分の顔をじっと見て――。


屋敷を出る前の――アンの様子を思いだし身震いする。



――まさか、デイモンとの再婚に……アンがあんなに反対するとは思わなかったわ。





部屋での私の告白に――アンは。


目をつり上げ、こちらがなにを言っても「ダメです」、「ありえません」の二言しか……出てこなかった。




出かける時間になると――。



完璧にドレスアップさせた私を、鏡台から立たせ、


「いいですか、ミレイユ様。大公邸でのひどい扱いを忘れたとは言わせませんよ?」


そう低い低い声で言って、私を部屋の扉まで導くと――。



「だいたい、大公のくせして、街へ出て傭兵気取りって……何なんですか。貴族の自覚が足りません」



「あ、それは、私もフレジ……」



「加えて! 街で羽を伸ばしてた最中に出会い、心底惚れた女が――自分の妻だと気づかないなんて、そんなことあります?」



「ええと、それは私もそう……」



「そんな! 間抜けな男のせいで! ミレイユ様は……っ、悲しまなくてよかったはずの悲しみや、苦しむ必要のなかった苦しみを味わったのですよ!」



目が笑ってない、恐い笑顔で――。



「ミレイユ様の再婚相手は、優しくて、気が回り、『誰が妻かきちんとわかる』男でなくては、アンは許しませんから!」



ピシャリと言うと、廊下で待つ父へ、私を引き渡したのだった。




――今、思い出しても、底冷えする笑顔だったわ。


あのアンと対峙した私は、ごっそりと体力をもっていかれていた。




ふうと額に手を当て――目を閉じる。



――アンが私のために憤ってくれるのは、本当にありがたいのだけど……。


私の心はもう決まっていた。



――絶対に、デイモンとまた夫婦になってみせるんだから。



そのためにも。



――夜会から帰ったら、もう一度アンと話をしましょう。



決意を胸に、目を開ける。



するとちょうど――馬車が王宮の門を潜るのが見えた。








・・・・・・・


夜会では――。



筆頭公爵家当主――風格ある父に、令息たちは気後れしたようで――。


私に話しかけてくる令息たちは数人程度だった。



それも、私が迷惑そうな素振りをすると――すぐに父が「良い夜を」と相手に挨拶をし、私の手を引いて移動してくれる。



そんな風に、父からの鉄壁のエスコートを受けていると――。



王宮の使いが父の元へきて、口元を隠しながら父に耳打ちした。



さっと、父と顔色が変わる。



「お父様……?」


何事かと私が声をかけると――父は、はっとした顔で私を見た。



「……ミレイユ。その……会場に誰か知り合いはいるかい?」



私は辺りを一瞥し――今、会場の入口からルイズが入場してきたのに気づく。


彼女の婚約者であるイェデル・マルテル伯爵令息と一緒だった。



イェデルは、私も何度か話したことがあるが、ルイズを大事にする控えめで穏やかな男性だった。



「ええ、お父様。あそこにルイズがいるわ」



私はルイズに向かって手を振る。すると、彼女も私に気づいたようで、イェデルとともにこちらに歩いてくるのが見えた。



父もルイズの姿をみとめる。


「ああ、ヴェルディ伯爵令嬢か。では……申し訳ないが、少しの間、彼女と一緒にいてくれるか? 用ができてしまってな」



私は、父の背後に控える使者に目をやる。


――彼は……たしか陛下の従者だったわね。



ならば――陛下が父を呼び出したのだろう。



「ええ、わかったわ」


「すまないな、くれぐれも一人にならないように」


父はそう言うと――使者の後について足早に去っていった。



――お父様……なんだかとても慌ててたようだったけど……。



私はなんだか胸騒ぎがして、胸元を押さえる。



「ごきげんよう、ミレイユ」


「久しぶりですね、ミレイユ嬢」



ルイズとイェデルの声が聞こえて、私は顔を上げた。



ルイズが首を傾げる。



「あら……どうかした? 表情が暗いようだけど」


「ううん。大丈夫」



――そう、大丈夫。なにかあっても、優秀なお父様なら問題ないわ。


一つ頷き、気を取り直す。



私はルイズたちに笑顔を向けた。



挨拶を返してそのまま――三人で他愛ない話に花を咲かせていると……。




「ミレイユ・タウンゼント嬢」




背後から、男性の声で呼びかけられた。



――誰かしら。どこかで聞いたような声だけど……。



そう思いながら振り向いて――ぎくっとする。



「これは……バナージ・ガンベイ閣下、ご機嫌麗しく」



動揺を隠して、淑女の礼をとる。ルイズとイェデルもすぐに私に倣う。



ガンベイはルイズたちに異国式の返礼をとると、私に話しかけてきた。



「楽しんでおられますかな」


穏やかな口調とは裏腹に――観察するかのような鋭い視線に居心地が悪くなる。



私は一つ呼吸をして、できるだけ自然な微笑みを浮かべた。



「はい、友人と語らっておりました。閣下も良い夜をお過ごしですか」



「さて……」


ガンベイは首を捻り、それから両手を大きく広げ、会場を見回した。



「私にとって――今宵が良い夜になるかどうかは……ミレイユ・タウンゼント嬢、あなた次第ですな」



芝居がかった物言いに――夜会客の視線が私とガンベイに集まる。




――なに?



頭の中に、警鐘が鳴る。


なにか――良くないことが起ころうとしている。



そう感じて、私は、彼との会話を打ち切ろうと口を開いた。



「それでは、私たちはこれで――」


「ミレイユ・タウンゼント嬢」


私の声を遮り、ガンベイがよく通る声で私の名を呼ぶ。



会場が静まり返り――貴族たちが、ガンベイがこれから何を言うのかと、耳を澄ます。




「ミレイユ!」


遠くから父の――焦った声が聞こえたが、それをかき消すようにガンベイが言った。




「わがムガルンド帝国へ、いらっしゃいませんか?」



私は――突然の誘いに、眉をひそめる。



――一体、なんなの? 帝国へ行くって……。



ガンベイはゆったりとした口調で――しかし、拒絶は許さないという響きをもって続けた。



「あなたを、我が帝国の妃としてお迎えしたい。これはバラッタイン王もお認めになった――正式な申し入れです」



私は目を見開き――呼吸をするのを忘れた。

第二章最終話をお読みいただきありがとうございます。


……なんと、恋愛物語にもかかわらず、主人公二人が出会えないまま終わりました。

作者自身も「こんな章があっていいのかっ」と動揺しております。


次章、またもや物語の舞台は動き、ようやくミレイユとデイモンが……!?

目下、制作中です。

第三章は新年明けて、1月下旬~2月上旬から投稿させていただく予定です。


初投稿にもかかわらず、予想以上のユーザー様にお読みいただき感激しております。

また、来年もご愛読いただけましたら幸いです。

少し早いですが、皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ