第5話「囁きから叫びへ」
オレンジ色に淡く染まった午後の陽光が、だだっ広いグラウンドにキラキラと降り注いでいた。
少年たちの「いけーっ!」という鋭い声が響き、ドンッ、とボールが蹴り上げられる小気味のいい音がする。片隅のベンチでは、女子のグループがキャーキャーと黄色い声援を上げていた。そのすべてが混ざり合い、青春という名のBGMを奏でている。
彼、三浦竜斗にとって、それはただの雑音でしかなかった。
古い木のベンチにちょこんと腰掛け、大きな木の影から、竜斗は体育の授業をぼんやりと眺めていた。体力テスト明けの初回授業だからという、教師の気まぐれな優しさで、今日の授業は「親睦を深めるため」という名目の自由時間だった。
別に、授業が嫌いなわけじゃない。むしろ好都合だ。意味もなくボールを追いかけ回す混沌としたゲームに参加せず、疲れたフリをして、その他大勢の背景に徹するには完璧な口実になる。だが、その光景を眺めていると、彼の胸に、チクリと聞き慣れた痛みが走った。嫉妬だ。
新学期が始まってまだ二週間。それなのに、彼らはもうすっかりこの場所に馴染んでいるように見えた。グループはごく自然に作られ、楽しそうな笑い声が交わされ、友情という名の網が、あっという間に彼らの間に張り巡らされている。
(別に、あの中に入りたいわけじゃない……)
何度も自分に言い聞かせてきた呪文のような言葉。
(でも……あの自信が欲しい。ためらうことなく誰かに話しかけ、当たり前のように、その他大勢の中に存在できる、あいつみたいな自信が……)
竜斗の視線は、グラウンドの中心でエネルギーの塊のように躍動する、明るい茶髪の少年に吸い寄せられていた。
「よう、三浦」
不意に、右隣から自信に満ち溢れた気安い声がした。竜斗がゆっくりと顔を向けると、そこには、汗をびっしょりかいた体育着姿の「もう一人の三浦」が、首に白いタオルを巻いて立っていた。
「三浦くん……」竜斗は、自分に言い聞かせるようにポツリと呟いた。
「お前、やんねーの?」もう一人の三浦は、顎でグラウンドをくいっと指した。
「……遠慮しとく」
素っ気ない拒絶の言葉は、彼には届かなかったらしい。三浦くんはニカッと歯を見せて笑った。「なんだよ、今がアピールのチャンスだろ」彼はベンチの女子たちにチラリと視線を送った。
ちょうどその時、グラウンドではPK戦が始まっていた。その意図は、子供っぽいくらいにミエミエだった。力強いシュートも、派手なセーブも、すべてが小さな観客席に向けたパフォーマンスだ。
「いらない」竜斗は、声にどっと疲れを滲ませて答えた。
「おいおい、三浦……」三浦くんはベンチの端にドカッと腰を下ろし、呆れたような顔で竜斗を見た。「ほら、あそこ」と、彼はこっそり指差す。「赤っぽく染めてる子」
竜斗が視線を辿ると、そこには友人たちと何か話してケラケラと笑っている秋山真琴の姿があった。太陽の光を浴びて、彼女の髪が燃えるように輝いている。
「どうかしたの?」
三浦くんの唇に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。「秋山って、エロくね?」
その質問は、まるで外国語のように竜斗の耳をすり抜けていった。秋山さん。綺麗で、元気で、いつも注目の的。それは竜斗も知っている。だが、「エロい」という言葉には、彼が「面倒事」「余計なやり取り」と分類する種類の興味が含まれていた。
「……まあ、そうじゃないかな。でも、それが何か?」彼の声は、教師の質問に答える時と同じ、何の感情も乗らない平坦なものだった。
三浦くんは、哀れみと純粋な困惑が混じったような顔で竜斗をまじまじと見つめた。彼にとって、秋山のような女子が放つ引力に逆らう男子がいること自体が、理解不能なのだろう。そして、彼がたどり着いた唯一の結論を、ストレートに口にした。
「お前、男が好きなの?」
「……違う」
低いが、はっきりとした否定。竜斗の目が、ほんのわずかに細められた。初めて、彼の無感動な仮面に、ピリッとした純粋な苛立ちの火花が散った。
「おーい、三浦ー!」グラウンドから声が飛んだ。
三浦くんはそちらを向き、手を振る。「今行く!」
「お前も早く来いよ、三浦!」同じ声が再び響く。
「ほら、お前のことも呼んでるぜ」三浦くんはそう言うと、立ち上がってグラウンドへ向かった。
「……僕を?」竜斗は呟いた。疑念が声に混じる。中学に入ってから、「三浦」という苗字は、サッカー部の人気者である彼の代名詞になっていたはずだ。
三浦くんは途中で振り返り、いつもの屈託のない笑顔を向けた。「当たり前だろ。……あ、」彼は何か閃いたように言った。「自分の苗字を言うのも変な感じだな……そうだ、これからは名前で呼ぶわ。竜斗!」
その記憶はあまりに鮮明で、まるで昨日のことのように、あの日の太陽の熱を肌に感じられるほどだった。
「竜斗!」
もっと大きく、もっと近い声。
「おい、竜斗!」
三浦くんのよく通る声が、ガヤガヤとした教室の喧騒を突き破った。
竜斗はパチパチと瞬きをした。目の前のサッカーグラウンドの光景が溶け、代わりに五つの顔が自分を覗き込んでいる現実に戻される。いつの間にか静かになった教室の中で、自分たちのグループだけが取り残されていた。なぜ今、あの日の記憶が?と、彼はぼんやりと考えていた。
「……ごめん」竜斗は少し掠れた声で言った。「何の話だっけ?」
彼の正面に座っていた三浦くんは、やれやれと大げさにため息をついた。「お前がそんなふうにぼーっとしてたら、課題、進まねーだろ……」
状況は整っていた。六つの机がくっつけられ、他のグループの海に浮かぶ一つの島を形成している。竜斗の左隣では、南さんがうつむき、手で顔を半分隠していた。その姿は痛々しいほどに臆病に見えた。右隣には、スポーツ刈りの山本颯太くん。彼は穏やかな目をしていて、三浦くんの言葉にふふっと静かに笑った。
正面には、グループのリーダーである三浦くん。その右隣には、夏川さんがオレンジ色の髪を揺らしながら、三浦くんだけを見つめて笑っている。
そして、その左隣。
秋山真琴は、まだ頬をぷくーっと膨らませ、子供っぽいくらい分かりやすい嫉妬の表情を浮かべていた。彼女は三浦くんでもなく、課題でもなく――その瞳は、竜斗にじーっと突き刺さっていた。
「だから、どこかに集まって課題やろうって話」三浦くんの自信に満ちた声が、グループの沈黙を破った。
だが、竜斗の意識はまだ半分しかそこになかった。他のグループの楽しそうな話し声。ザワザワとした喧騒。そして、窓の外から聞こえる、いつもの蝉の鳴き声。それが彼の心を繋ぎとめる錨のはずだった。だが今は、もっと近くの、もっと混沌とした音の群れが、彼の注意を奪い合っていた。
「ファミレスとかどうかな?」山本くんが穏やかな声で提案した。
「うんうん、いいね!」夏川さんが、一人の男の子だけを見つめて、満面の笑みで即座に同意する。「ね、三浦くん?」
「うーん……」三浦くんは、探偵のように顎に指を当てて考えるポーズをとった。「飯も食えるしいいけど……課題やるなら、誰かの家の方がよくないか?」
「それも、いいね」山本くんは、やはり穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「どう思う、真琴ちゃん?」三浦くんは、それまで心ここにあらずといった様子だった少女に話を振った。
「え? あ、あたし?」真琴はハッとして瞬きし、キョロキョロと皆の顔を見回した。
「誰かの家で課題やろうって話」三浦くんは、頬杖をつきながら、体を彼女の方へ傾けて、優しい声で繰り返した。その笑顔は、どこか余裕たっぷりだ。
真琴は「あはは……」と短い愛想笑いを漏らした。「うん、いいんじゃないかな」彼女はポリポリと首を掻く。「どこでやるの?」
「俺ん家でもいいけど」三浦くんはそう言ったが、その視線はちらりと山本くんに向けられた。それは、ほとんど気づかれないくらい、些細な合図。ほとんど。「誰か他の奴ん家がいいか?」
山本くんは、その合図を完璧に読み取った。「秋山さんの家とか、どう?」彼は、悪びれもせずにそう言った。
「いいね、颯太!」三浦くんは、パチンと指を鳴らした。
「真琴ちゃんの家はどうかなぁ」夏川さんが、その長いオレンジの髪をさらりとかき上げて口を挟んだ。彼女の鋭い視線が、三浦くんに突き刺さる。「あたしの家に来ない?」
「それもアリだな」彼は、自信に満ちた笑みを崩さずに答えた。
竜斗は、まるで水の中にいるかのように、そのやり取りを聞いていた。視線は、森田先生が書いた課題のトピック一覧に固定されたまま。彼らの声の音は、不快だった。不規則で、予測不能で、そして何より……ジージーと鳴く蝉の声よりも大きかった。なぜか、その会話は彼の集中力を奪い、平衡感覚をぐらぐらと揺さぶった。
「でも、まだトピックも決まってないのに」真琴が、話を現実に引き戻した。「もう誰かの家に行く話? 三浦くんってば、スケベ」彼女は、彼の腕をポンポンと軽く叩いてからかった。
三浦くんは、その冗談に乗っかって笑った。「なんのことやら」その笑顔は悪戯っぽかったが、真琴と目が合う瞬間、彼の瞳には隠しきれない光が宿っていた。
竜斗の中で、何かがぐにゃりとねじくれた。彼らのやり取り、その気安さ、まるで世界が二人を中心に回っているかのような空気。それが、どうしようもなくイライラした。彼の目は、いつもよりきつく細められていた。その表情はもはや空っぽではなく、紛れもない苛立ちが浮かんでいた。そして何より腹立たしいのは、自分が一体何に苛立っているのか、さっぱり分からないことだった。
「三浦くん……」
南さんの声は囁き声で、グループの喧騒と竜斗の内なる苛立ちの不協和音にかき消された。彼には、聞こえなかった。
南さんは、彼の落ち着かない様子――指が机をとんとんと軽く叩いている仕草――に気づき、もう一度試みることにした。彼にとって音が重要であることは知っていた。正しい音は彼を落ち着かせるが、今のこの混沌とした声の渦は、逆効果のようだった。
「みゅーうらーくーん……」その声は、まだ弱々しく、遠い歌声のようだった。
これではダメだ、と悟った彼女は、すぅっと息を吸い、一瞬目を閉じ、そこにいる誰もが彼女に秘められているとは思わないほどの勇気を振り絞った。
「りゅ、竜斗くーーんっ!」
囁き声だったはずの声が、押し殺されながらも甲高い叫び声となって爆発し、ナイフのように会話を切り裂いた。
訪れたのは、絶対的な沈黙だった。シーン……
夏川さん、山本くん、そして三浦くんが、あんぐりと口を開けて南さんを見ていた。一瞬で、南さんの顔は真っ赤なピーマンのように染まり上がった。彼女はとんでもない速さでさっと両手で顔を覆い、まるで消えてしまいたいとでも言うように、きゅっと体を縮こませた。ろくに知りもしない男の子を、下の名前で、あんなに必死に叫ぶなんて……とある人物に対する、明確な挑戦状だった。
真琴は、ただ驚いているだけではなかった。彼女の顔も赤くなっていたが、それは信じられないという気持ちと、メラメラと燃え上がる何かからだった。あの、絵に描いたような内気な子が、今、彼の名前を叫んだなんて。
竜斗はついに顔を上げた。苛立ちの霧が晴れ、困惑が取って代わる。「ごめん、僕に話しかけてるとは思わなかった……」彼の声は、いつものように感情が抜け落ちていた。
「ご、ごごご、ごめんなさい……」南さんの声が、手の隙間からくぐもって聞こえた。指が、眼鏡の下でぎゅっと握りしめられている。
「何か用だった、南さん?」三浦くんが、純粋な好奇心からその張り詰めた沈黙を破った。
再び、全員の視線が彼女に注がれる。そのプレッシャーが、彼女を押し潰すかのようだった。
「わ、わわ、わたしはただ、三浦くんが……」彼女は震える声で話し始めたが、言葉は尻すぼみになり、最後には聞き取れないほどの囁き声となって消えていった。
竜斗は彼女を見て、その瞬間に理解した。彼女の眼差し、話しかけようとする切迫感。彼は、以前、彼女が自分の音との関係を理解していると明かした時と同じ、鋭い洞察の光をその目に見た。
南さんは、彼の苛立ちに気づいていたのだ。彼の無感動の仮面に入った小さなヒビを見つけ、そして、彼女なりの必死さで、彼を救おうとした。彼を乱す騒音のパターンを壊す唯一の方法で。彼の注意を引き、呼びかけることで。
彼女の口が、彼が最も恐れていた質問を紡ごうと、再び開かれた、その時――
キーンコーンカーンコーン、と金属の鐘を叩く音が校内に響き渡った。授業の終わり。救済か、あるいは単なる猶予か、けたたましいアラームの形でそれは訪れた。瞬時に、場の魔法は解ける。他のグループの生徒たちが立ち上がり始め、ガタガタと机を引く音が空気を満たした。
「どこに行くかは、また後で決めよう」三浦くんはそう言うと、すっと立ち上がって自分の机を持ち上げた。他のメンバーもそれに倣い、信号で解かれたように、竜斗を中心に形成されていたグループは解散していく。
「おい……」
彼の、小さく押し殺された声に、全員がピタリと動きを止めた。
「僕、放課後は忙しいんだ」竜斗は、自分の机に視線を固定したまま言った。「人の家には行けない」
全員が彼を見つめた。ずっと黙っていた彼が、今、計画を拒絶した。真琴が、彼の方へ一歩踏み出す。「竜――」
「悪い」彼は、彼女を見ずに遮った。「会うなとは言わない。ただ……トピックだけ決めてくれれば、僕が全部やるから。そしたら後で、発表の打ち合わせをしよう」
それが彼のいつもの解決策。防御方法。問題ごと自分を隔離する。
「わかった」三浦くんは、肩をすくめてそう答えると、自分の席へ戻っていった。
他のメンバーは一瞬ためらったが、それに続いた。だが、一人だけ、それを受け入れられない人物がいた。彼女の唇がわななく。彼がまた、同じことをしている。わざと、自分を輪の中から外そうとしている。それだけは、どうしても我慢ならなかった。
「じゃあ、竜斗くんの家でやらない?」真琴が、こともなげにそう言った。
「は?」
竜斗の喉から漏れたのは、ただそれだけだった。衝撃と困惑に染まった彼の視線が、彼女を捉える。机を引く音、話し声、蝉の鳴き声……世界のあらゆる音が、一瞬、ぐわんと大きくなったかと思うと、秋山真琴の、優しくも断固とした笑顔に、ぴたりと焦点を結んだ。
「いいな、それ」山本くんが、途中で立ち止まって言った。「あいつが忙しいなら、俺たちが行けばいい」
「でも、バイトか塾か分かんねーし……」三浦くんが、珍しく配慮を見せた。「やっぱ、別の日にした方が――」
「行こう!」
南さんの気合の入った声が、三浦くんの言葉を遮った。全員が、彼女の方を振り向く。その眼差しは決意に満ち、唇はわななき、両腕は前に突き出され、拳は固く握りしめられていた。頬は、ほんのり赤い。「行こう、りゅ、竜斗くん!」
竜斗は、一人一人の顔を見た。音はいつもと同じはずなのに、何かが違う。自分の中で、何かが。あのグループができてからずっと感じていた、胸が締め付けられるような、訳の分からない感覚。彼は、完全に追い詰められていた。
「……親父に、聞いてみないと……」
彼の声は低かったが、空っぽではなかった。そこには、感情があった。
照れ、だった。
真琴の唇に、勝利を告げる、とてつもなく温かい笑みが浮かんだ。夕暮れの空の色を映したような彼女の髪が、こてんと傾げた頭の動きに合わせて、さらりと揺れた。
「決まり、だね!」