第25話「白い部屋の温もり」第二部
夏が、教室を音と熱の温室へと変えていた。
ミーンミーンミーン……ジージージー……
窓の外では、蝉の歌声が分厚い音の壁を作っている。絶え間なく続く甲高い振動が、窓ガラスを外側から押し潰そうとしているかのようだ。それはどこにでもある、蒸し暑い午後のBGM。
一方、教室の中では、人間と無機物が織りなす交響曲が奏でられていた。
カッカッ……
チョークが黒板にぶつかる乾いた音が響き、誰も記憶しようとしない歴史の年号と白い粉の軌跡を残していく。
パラッ……カチッ、カチッ……
ページをめくる音。指先がボールペンをノックするリズミカルな音。そして、森田先生の単調な声をくぐり抜けて聞こえる、秘密めいた会話の低いざわめき。
三浦竜斗は、この周波数の海に沈んでいた。
彼のペンはノートの上を滑り、機械的な正確さで板書を写し取っていく。インクの軌跡を目で追ってはいるが、意識はずっと遠くを漂い、周囲のノイズを一つ一つカタログ化していた。
彼にとって、それは騒音ではなかった。テクスチャだった。あの絶対的な静寂から彼を守るための、必要な詰め物だったのだ。
その時、断絶が訪れた。
キーンコーンカーンコーン……
金属的で甲高いチャイムの音が、淀んだ空気を切り裂いた。学問的拷問の終わりと、昼休みの始まりを告げる合図だ。
効果は即座だった。教室の脆い秩序が一瞬で崩壊する。
ガタガタッ!ザーッ……
三十脚の椅子が一斉に床を擦る音が、工場の轟音のようなカオスとなって、森田先生の最後の言葉を飲み込んだ。
先生はチョークを空中に止めたまま、口を半開きにして立ち尽くしていた。その顔には、十代の飢餓感の前では自分がいかに無力かを悟った男の、諦めと呆れが入り混じっていた。
群れが動き出す。
ドタドタッ……ワハハハ!
急ぐ足音、爆発する笑い声、リュックが開く音。生徒の流れはドアへと殺到し、購買へ、トイレへ、そして自由へと溢れ出していく。
竜斗は一瞬席に残り、いつもの緩慢な動作で道具を片付けていた。
このカオスの最中で、彼の耳は無意識に研ぎ澄まされていた。待っていたのだ。
ここ数日ですっかり条件反射になってしまった。あのノイズを切り裂く、水晶のようにクリアでエネルギッシュな、特定の周波数が自分の名前を呼ぶのを。
だが、彼を打った音は違った。
低く、疲れた、使い古された権威の響き。
「三浦竜斗くん、ちょっといいかな?」
呼びかけは教室の前方からだった。森田先生が教卓に寄りかかり、チョークで汚れた手を灰色の布で拭きながら彼を見ていた。
無気力な少年は瞬きをした。脳内の「昼休みの台本」が、唐突に書き換えられる。
音のないため息をつき、彼は椅子を引いた。
ギィ……
椅子が抗議の声を上げる。彼は立ち上がり、無駄のない緩慢な動作で動き出した。
通路を歩く時、視界の端に重みを感じた。
秋山真琴だ。ドアの近くで夏川由美と話していた彼女が、彼が立ち上がって出口とは逆方向へ向かうのを見て、ピタリと動きを止めていた。
彼女の大きな緑色の瞳が彼を追う。眉をわずかにひそめ、無言の問いかけを送ってくる。その顔に張り付いた混乱は滑稽なほどで、まるで世界が連続性のミスを犯したのを目撃したかのようだった。
竜斗は彼女を無視し――あるいは無視したふりをして――教卓の前で足を止めた。
「……何かご用ですか、先生?」
問いかけは平坦で、好奇心も懸念も欠落していた。ただの社会的プロトコルの実行。
森田先生は彼を見つめた。今日の彼の眼差しには、いつもと違う何かがあった。教師としての職業的な厳しさはあるが、それはあくまで壁として機能しているだけだ。眼鏡の奥にあるのは、別の感情。
少年は男の顔を分析した。
トラブルの兆候を探す。成績不振か、素行不良か、試験のことか。
だが、そこにあったのは静かな真剣さだけだった。それは罰を与えようとする教師の「怒り」ではない。「用心」に近いものだ。
「今日の放課後、職員室に来てくれないか」
その言葉は低いトーンで語られた。教室の残りの喧騒から、彼らを一瞬だけ隔離する。
それは呼び出しというより、望まない助言への招待のように響いた。
「……分かりました」
彼は同意した。その声は囁きのように漏れた。
何であれ、それは家に帰って静寂に戻る前に、対処すべき雑音がまた一つ増えただけのことだった。
◇ ◇ ◇
「サッカー部!?」
その言葉は、検閲をすり抜けて喉から飛び出した。
礼儀正しい囁きでも、無言の肯定でもない。純粋な驚愕に彩られたその甲高い音は、彼が会話の冒頭から慎重に維持してきた無関心の仮面を、一瞬で粉々に砕いた。
カァァ……
竜斗は顔が熱くなるのを感じた。今の声量は彼のものではない。静寂に包まれた放課後の職員室にはあまりに不釣り合いな、大きすぎる異音だった。
サワッ……
書類と赤ペンのバリケードの向こうで、森田先生は苛立つほど冷静にその反応を観察していた。
説教でもなければ、授業態度への注意でもない。その会話は、もっと非現実的なものだった。それは勧誘――いや、好機を装った召喚状だった。
どうやら、サッカー部の新しいエースである三浦武との間に生じた、強制的で最近始まった「友情」が、予期せぬ結果を招いたらしい。部はマネージャーを必要としており、武は信頼できる人間を求めていた。そして偶然の一致である名字が、この災難の完璧な触媒となったのだ。
「佐藤先生が、君のことを聞いてきたんだ」
森田先生が言った。サッカー部の顧問のことだ。
窓の外では、生徒たちの足音や叫び声の嵐はすでに止み、部活動の遠い残響だけが残っていた。夕日が部屋をオレンジ色に染め、澱んだ空気の中で踊る埃を照らし出している。
だが、竜斗は嵐の中に囚われていた。左目が勝手に痙攣し、呼吸が詰まる。
(僕が? サッカー部のマネージャー?)
その発想は、クラシック音楽の最中に鳴り響く調律外れのギターのように不協和音だった。
「もう一人の三浦くんが言っていたよ。君たちは親友だって」
『親友』……その単語は、竜斗の脳内で苦い味を伴って反響した。
(拷問されてもそんな分類はしない。僕たちは良くて、同じ名字と一連の誤解を共有する『知人』だ)
「それに彼は、自分が直接誘っても君は断るだろうとも言っていた」
森田先生は続けた。その唇には、疲れてはいるが狡猾な笑みが浮かんでいた。
「だから、私に間に入って説得してほしいと頼まれたわけだ」
竜斗は視線を逸らし、窓の外に固定した。眼下の中庭では、ユニフォーム姿の影が走っているのが見える。主人公たちの世界。騒音の世界。
「……そのような努力は、必要ないと思いますが」
彼は呟き、いつもの単調なトーンを取り戻そうとした。だが、肩の緊張が彼を裏切っていた。
「僕は、そういうことに最も適していない人間です」
フゥ……
先生は微かなため息をついた。パンクしたタイヤから空気が漏れるような音。
「君がフィールドに出てボールを蹴るわけじゃないんだ、三浦くん」
彼の声にはプラグマティックな論理があった。
「学校は生徒に部活動を強制はしない。君には今すぐ家に帰る権利がある。だが……」
森田先生は言葉を切り、生徒の目を探した。
「……これはいい機会かもしれない。何か違うことをする。その殻から出る。新しい人たちと出会うための」
(新しい人となんて会いたくない)
竜斗は即座に思った。防御的な反応が反射のように湧き上がる。
(『新しい人』のノルマなんて、ここ数日でとっくにオーバーしてる……)
「よく分かりません……」
標準的な言い訳が唇に上り始めた。
「放課後はやることもありますし。時間があるかどうか」
「じゃあ、こうしよう」
ガタッ……
森田先生が立ち上がった。椅子が軋み、竜斗の拒絶のリズムを崩す。
男は机を回り込み、彼の横で立ち止まった。そして、少年の肩に手を置いた。
ビクッ。
竜斗は硬直した。求めない身体接触は嫌いだった。認識されることが嫌いだった。安全圏を侵略されることが嫌いだった。
だが、その手の重みは奇妙だった。しっかりしているが、抑圧的ではない。そこには体温があり、ある種の人間的な意図があった。それは一瞬、彼の頭の中にある絶え間ない冷笑を黙らせた。束縛されている感覚ではなく、これは……支え?
「チャンスをくれないか」
先生はより優しい声で言った。
「一週間だけだ。ただの体験入部でいい。もし本当に嫌なら、耐えられないと感じたら……いつでも好きな時に辞めていい。理由は聞かない」
罠だ。竜斗には分かっていた。「一週間だけ」というのは、義務が始まる時の常套句だ。だが、安易な出口が用意されているという提案は魅力的だった。それに何より、今ここで拒絶するには、今の彼が持っていない対立のエネルギーが必要だった。
彼は肩に置かれた手を見て、それから教師の顔を見た。
「明日……返事をしてもいいですか?」
最後の交渉。処理する時間を稼ぐために、不可避な事態を先送りにする。
森田先生の笑みが、勝利を確信したように広がった。彼は竜斗の肩から手を離し、パーソナルスペースを返還した。
「もちろん、待っているよ、三浦くん」




