第24話「白い部屋の温もり」第一部
「でな、竜斗のやつが……!」
男の野太く、それでいて伝染するような熱気を帯びた声が、狭い病室の空気を震わせた。彼はまるで宝の地図でも見つけた少年のように、身振り手振りを交えてその少年――義理の息子の話を語っている。
その過剰なまでの生命力に対し、返ってきたのは柔らかく、控えめな笑い声だけだった。
「ふふふふ……」
その場の空気は、会話の明るさとは裏腹なコントラストを描いていた。あまりに白く、目に痛いほど清潔なベッド。そこには今、窓の隙間から忍び込んだ夕日のオレンジ色が、遠慮がちに掛かっている。ツン……鼻を突くのは、消毒液とアルコールの独特な刺激臭。それは、ここに横たわる命の脆さを必死に隠そうとする、病院という場所特有のクリニカルな香水だった。
ピッ……ピッ……ピッ……
遠くで、生体モニターのリズミカルな電子音が時を刻んでいる。廊下からは、磨かれたリノリウムの床を叩くカツカツという慌ただしい足音や、隣室から漏れるゴホッ、ゴホッという湿った咳払いが聞こえてくる。ここは、外の世界とは違う時間が流れる場所だ。
男は、その巨体にはいささか小さすぎるパイプ椅子の上で、ぐっと身を乗り出した。
「最初はマジでビビったぞ!本気で、心臓が止まるかと思ったわ!でも、あいつが週末にまた友達を連れてきたときは……」
彼は熱っぽく語っていたが、その声には「激戦を制した兵士」のような、大げさで芝居がかった疲労感が滲んでいた。ベッドの上の女性――女は、その蒼白な顔を夫に向けた。疲労の色は濃いが、その瞳は興味深げに輝いている。
「あなた、何をしたの?」
「俺か?俺はあいつを友達から引き離したくなかったんだ。スペースを与えて、リラックスさせてやりたかった。だから、俺は……」
彼はそこで、劇的な「タメ」を作った。コミカルな緊張感が、消毒液の匂いと共に漂う。
「あなたは?」
男は膝の上で両の拳をギュッと握りしめ、絶対的な深刻さを顔に貼り付けた。そして、まるで今世紀最大の地政学的危機を発表するかのように、厳かに宣言した。
「夕飯を作ってやったんだ!」
シーン……一瞬の静寂の後、空気が破裂した。
「ぷっ……ふふふ!」
女は吹き出した。それは弱々しく低い音だったが、彼女は細い手を口元に当てて、こみ上げる笑いを必死に抑えようとしていた。そこにあるのは、純粋で、満ち足りた安らぎだった。この大柄な男が、家庭的な犠牲を払ったという告白は、あまりにも滑稽で愛おしかったからだ。
男はポリポリとバツが悪そうに後頭部を掻き、深刻なポーズを崩して照れ笑いを浮かべた。
「ま、あんまり意味なかったけどな……咲のやつが『お米の固さが違う!』とか文句ばっかり垂れて、結局、竜斗がほとんど一から作り直す羽目になったし……」
「料理は、あなたの得意分野じゃないものね」彼女はそう言い、笑みが顔のシワを優しく和らげた。その批判めいた言葉には、確かな愛情が宿っていた。
「ああ、分かってるよ……」
ギシッ……賢進は椅子の背もたれに体重を預け、一瞬だけ天井のシミを見つめてから、再び妻に視線を戻した。冗談めいた表情が溶け、より深く、脆い感情が顔を覗かせる。
「でもな……あいつ……」
彼の声のトーンが落ちた。それは**ピッ……ピッ……**という機械音と競うような、畏敬の念を含んだ囁きだった。
「俺は、あいつが友達を連れてくるって言ったとき、本当に怖かったんだ。何かあったんじゃないか、間違いなんじゃないかって疑った。あいつのあの沈黙が……いつも心配だったから」
(学校で誰とも話さないあいつが。自分の殻に閉じこもっていたあいつが)
賢進の目尻には、長年の心労が刻んだ小ジワがあった。だが、今この瞬間、その瞳は絶対的な平穏と、胸を温めるような満足感を映し出していた。
「俺は、嬉しかったよ。本当に」
女はただ、満足げな微笑みを浮かべて夫を見守っていた。彼女は知っている。自分がこの白いベッドで、自己免疫疾患という見えない敵と戦っている間、夫がどれほどの重荷を背負い、二人の子供たちに対して責任を果たそうとしているかを。彼の顔に浮かぶ安らぎを見ることは、彼女にとってどんな薬よりも効く処方箋だった。
窓の外では太陽がさらに沈み、病室を茜色に染め上げていた。無機質な白が、温かく、どこか懐かしい色へと変わっていく。
「それで?学校の課題はどうなったの?」彼女は続きを促した。外の世界で続く「生」の欠片を、一つ残らず吸収したいと願うように。
賢進はパチクリと瞬きをし、感傷的な空気を振り払うと、再び「語り部」の顔に戻った
「あ?ああ、それなんだが……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの運命的な坂道での夜から、数日がズルズルと過ぎ去っていた。恐れていた歴史の課題発表も終わり、その結果は誰にとっても驚きではなかった――おそらく、竜斗自身を除いては――が、見事に好評だった。
発表の間、竜斗は自分の最も好む役割に徹した。「沈黙のオペレーター」だ。武、颯太、真琴、由美が教室のスポットライトを浴び、流暢に発表している間、彼は南の隣に立ち、ただスライドを送るボタンをカチカチと押すだけだった。機械的で、リズミカルで、安全な作業。
無気力な少年に参加を強制した、あの見えない手――社会的圧力という窒息しそうな重みは、霧散したかのように見えた。あるいは少なくとも、彼はそう自分に言い聞かせようとしていた。
だが現実は、彼の世界の周波数を変えてしまっていた。
彼の左側に座る少女。以前は幽霊のように存在感が薄く、彼が注意を払うことすらなかった彼女は、今や彼の日々における、ささやかだが確かな定数となっていた。
「あ、あの、三浦くん……ノート、貸してもらえませんか?そ、その、メモ合わせしたくて……」
「ああ、いいよ……」
南千尋の声は低く、教室の環境音にかき消されそうなほど弱々しい囁きだった。だが、彼女が彼に話しかける頻度は、彼のルーティンに新しいパターンを作り出していた。
一方、教室の前方、窓際の席を占める二人の少年は対照的だった。武と颯太は、匿名性の壁を打ち破っていた。彼らは頻繁に椅子を回転させたり、廊下で彼を待ち伏せたりした。
「どう思う?」
「たまには遊びに行こうぜ、竜斗!」
彼らの執拗さは、ほとんど称賛に値するほどだった。彼らは竜斗を光の中へ、「生者」の世界へと引っ張り出そうとしていた。だが竜斗の返答は、依然として自動的な拒絶の鉄壁だった。
「放課後は用事があるから……」
変化はあまりに深く、彼がかつて自分の名前を嘲笑なしに呼ぶことなど想像もしなかった声までもが、今や彼の助けを求めるようになっていた。
「ねえ、竜斗、これ手伝ってくれない?」
「分かった……」
夏川由美は、いつもの少し命令めいた口調で、彼を自身の「利用可能サークル」に加えていた。
だが、それらの変化のどれも、右側から聞こえる声とは比べものにならなかった。
それは、ここ数日、彼が嫌というほど聞いてきた周波数だった。最初は苛立たしいノイズ、望まない干渉として分類していた音。その後、それは刺激的で、好奇心をそそるものになった。そして今。
今は、違う。
その音は、彼の無意識の避難所が求める錨となっていた。
外で鳴く単調な蝉の声も、廊下を歩く生徒たちのリズミカルな足音も、椅子のきしむ音も、学校の鐘の金属的な響きも……そのどれも、空虚を埋めはしなかった。
埋めてくれるのは、あの声だった。
たとえ彼が、自分自身に対してそれを認めることを頑なに拒んでいたとしても。
「ねえ、三浦くん!」
竜斗はゆっくりと顔を向けた。
午後の日差しが窓から差し込み、彼女の姿を照らしていた。緑がかった瞳が輝き、光を液状の激しさで反射している。赤みがかった茶色の髪は、太陽の下で深紅に燃えているようだった。彼女が好んで着ているワインレッドのカーディガンが、その光景に視覚的な温かみを添え、唇に浮かぶ優しい笑みがそれを完成させていた。
「秋山さん」
彼女は期待に満ちて、わずかに身を乗り出し、彼のスペースを最小限に侵食した。
「今日、あたしと友達と一緒に、カラオケ行かない?」
竜斗の反応は生理的なものだった。彼女の反射で一瞬照らされた瞳は、再び死んだ。無気力の仮面が鉄のカーテンのように顔に降り、体から意志の欠片をすべて吸い取っていく。
閉ざされた部屋で、大音量の音楽と、社交的なパフォーマンスへの期待。それは「平穏」の対極にあるものだ。
「歌うのは、僕の趣味じゃない……パスで」
拒絶は宙に漂い、乾いていて決定的だった。
ガヤガヤ……
彼らの周りでは、休み時間のカオスが進行していた。生徒たちの会話が混じり合い、不明瞭な音の塊を作っている。
遠くから見ていた武と颯太が笑っていた。武の顔には、喜劇と悲劇の二面性があった。顔の半分は「行けよ、男だろ!チャンスだぞ!」と叫んでいるようで、もう半分は「なんで俺じゃないんだよ?!」と嫉妬で泣き言を言っているようだった。ロマンチックな機微に疎い他の男子たちは、彼らの新しいエースが見せる苦悩をただ笑っていた。
ドアの近くの空気は、もっと重かった。佐藤健太が竜斗を睨みつけていた。彼は自分の席に座り、無関心のオーラを醸し出そうとしていたが、顔に張り付いたしかめ面と肩の緊張が、煮えたぎる軽蔑を暴露していた。
竜斗の隣で、南は標準防衛戦術を展開していた。その光景を一瞬見て、即座に机の上に広げた教科書に視線を逸らし、その瞬間には持ち合わせていない集中力を装う。
拒絶を前に、真琴の姿勢がしぼんだ。
「しかたないか……」真琴は呟き、わざとらしく、劇的に肩を落として敗北を示した。
「言ったでしょ……」すぐ後ろで由美がコメントし、未来を予知していたかのような得意げな顔で腕を組んだ。
真琴は**はぁ……**とため息をついたが、その目はすぐに新しいターゲットを見つけた。竜斗の左側へ顔を向けた瞬間、その緑色の瞳に捕食者の輝きが戻った。
「じゃあ、あなたは」
彼女の注意は、家具と同化しようとしていた小さな人影に集中した。
「一緒に来るよね、千尋ちゃん?」
衝撃は即座だった。
「ち、ち、ちゃん?!」
南は自分の唾でむせ、喉から絞り出されたような音を漏らした。驚くべき速さで血が顔に昇り、髪の生え際まで真っ赤に染め上げる。突然の名前呼び、しかも愛称付き。それは彼女の防壁に対するクリティカルヒットだった。
「声がすっごく可愛いもん!」由美も包囲網に加わり、内気な少女の机に身を乗り出した。
「歌ったら絶対可愛いよ!」真琴も追撃し、両手を合わせて拝むようなポーズをとった。
「わ、わ、わ、た、あ、あ、あ――」
南は必死に身振り手振りを交えた。手は空中で震え、拒絶を描こうとし、バリアを作ろうとし、何かをしようとしていた。だが無駄だった。二人の引力からは逃げられない。
彼女の運命は、竜斗が断った瞬間に決まっていたのだ。誰かがその穴を埋めなければならず、南は完璧な生贄だった。
「じゃあ、放課後そのまま行くからね!」真琴は宣言し、パニックに陥った同級生の言葉にならない抗議を完全に無視した。
「で、でも私……」南は最後にもう一度試みたが、その声は消え入り、他の二人の圧倒的なエネルギーに飲み込まれた。
無気力な少年はその光景を、いつもの沈黙の防壁に守られながら眺めていた。彼の目は訓練された虚ろさを保ち、自分と教室の他の部分との間に安全な距離を置いていた。だが、誰にも見えない意識の深層で、温かい感覚がふつふつと湧き上がっていた。
それは喜びだった。自分の周りで起きている「生」を目撃することへの、静かで個人的な満足感。嫌がる南さえも舞台の中央へと引きずり込んでいく、その生命力への。
哀れな少女がさらなる必死の抗議を口にする間もなく、あるいはその社会的運命から逃げ出す間もなく、中断が訪れた。
ガララッ……
教室のドアが乾いた音を立ててスライドした。森田先生が入ってきた。脇に歴史の教科書を抱え、三十人の十代を抑えるのに必要な秩序のオーラを纏って。コホンという咳払い一つと、授業開始の正式な合図と共に、無秩序な拡散は終わりを告げた。生徒の群れは解散し、話し声は椅子を引く音と急ぐ足音に取って代わられ、それぞれが自分の席へと戻っていく。
その移行の瞬間だった。
ワインレッドのカーディガンを着た少女が、列の間の通路を歩いてきた。自分の席に着くために彼の机の前を通る際、その深紅の布地が動きに合わせてふわりと揺れ、午後の光と、彼の注意を捉えた。
そして、彼女はその仕草を繰り返した。あの丘の上の夜以来、神聖で日常的なものとなった、ささやかな儀式。
彼女の緑色の瞳が進路を逸れ、磁石のような正確さで彼の瞳を探し当てた。そして、彼を見つけた瞬間、唇が弧を描いた。その笑顔は、クラスに見せる輝くようなエネルギッシュなものとは全く異なっていた。それは控えめで、優しく、二人だけが共有する静かな共犯関係を帯びていた。
そして、無気力な少年は反応した。
彼が世界に対する盾として使っていた無関心の仮面に、即座にヒビが入った。口角が持ち上がる。外部の観察者にはほとんど気づかれないほど微かな、しかし紛れもない本物の動き。
彼は彼女に微笑み返した。
いつも通りに。
あの夜から、ずっとそうしているように。




