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第14章「招かれざる交響曲」

 プシューッ、とバスのエアブレーキが甲高い音を立てて通りに響き渡る。その機械的なため息が、やかましい一行を午後の静寂へと吐き出した。一瞬、それが俺の世界を支配する唯一の音だった。インダストリアルで、予測可能な音。だが次の瞬間には、まったく新しい不協和音に飲み込まれてしまった。アスファルトを擦る靴のカサカサという音、ザワザワとした話し声の低いざわめき、そしてまだ環境の変化に順応しようとしている息遣い。


 あいつらの音。


 今のところは、僕の音。


 竜斗はリュックのストラップが肩に食い込むのを感じた。それは慣れ親しんだ重みで、どこか心地よかった。彼は歩道で周りにできたグループを眺める。郊外の静けさの中に浮かぶ、エネルギーの島。三浦くんは、その揺るぎない自信で、夏川由美が言った何かにケラケラと笑っていた。彼女のオレンジ色の髪が、午後の日差しの下でキラキラと一際強く輝いているように見えた。


 一歩後ろで、まるで影に溶け込むかのように、南千尋はうつむいていた。暗い髪がカーテンのように彼女の顔を隠し、グループのエネルギーの中にある小さな静寂の島となっている。その隣では、きっちりと短く刈られた髪の山本颯太が、落ち着いた好奇心で周りを見渡しながら、制服のポケットに両手を突っ込んでいた。


 そしてもちろん、秋山真琴。彼女はそこにいたが、いつもの彼女ではなかった。そのキラキラしたエネルギーは、まるで体に染みついた純粋な疲労によって抑えつけられているかのようだ。その立ち姿にはどこか諦めの空気が漂い、肩はわずかに落ち、瞳の輝きは避けられない試練に備える者の表情に取って代わられていた。


「で、竜斗…」山本の声は、他の連中の騒がしさとは対照的に穏やかだった。そうか…三浦くんのせいだ。また一人、僕を名前で呼ぶやつが増えた…「お前の家って、具体的にどこなんだ?」


 竜斗は言葉で答えず、ただ手を挙げて指を差した。彼の指が示したのは、本通りから分かれ、森に覆われた山腹をうねうねと続く、険しく容赦のない上り坂だった。その道は、道というよりは挑戦状のようで、鬱蒼と茂る木々の間に消えていくアスファルトの傷跡に見えた。


 訪れたのは、絶対的な沈黙だった。シーン…鳥さえも鳴き声を潜めたかのようだった。


 四対の目がカッと大きく見開かれた。四つの顎が、ほとんどコミカルなほど一斉にガクンと落ちた。三浦、夏川、南、そして山本は、まるで自分たちが危険なほど過小評価していた神話上の存在、乗り越えられない壁であるかのように、その山をポカンと見つめていた。


「う…嘘でしょ…?」夏川はどもり、その活気ある笑顔が顔から溶けていく。


「これは…かなりの坂だな…」と山本が呟いた。その声の落ち着きはついに揺らぎ、純粋な驚きの一音に砕け散っていた。


 真琴だけが、その衝撃を共有していなかった。彼女の肩はさらに落ち、長くて苦しげなため息が唇から**はぁ…**と漏れた。彼女の視線には驚きではなく、恐ろしい戦いを思い出す歴戦の兵士のそれがあった。彼女はすでにその地獄への道を知っていたのだ。


(あいつらにとっては障害物。僕にとっては、ただの帰り道)


 それは儀式であり、彼の体がとうの昔に降伏した、足音と疲労の絶え間ないノイズ。彼らの反応は奇妙だった。まるで誰かが呼吸する行為に驚くのを見ているかのようだった。


 さらなる反応を待つことなく、竜斗はすっと向きを変え、スタスタと歩き始めた。彼は凍りついたグループを通り過ぎ、肩越しに声を放った。その声は、風の一部であるかのように平坦で感情がなかった。


「行くぞ」


◇ ◇ ◇


 ハァ、ハァ…という喘ぎ声が、坂を上るBGMになっていた。普段なら俺を世界に繋ぎとめる蝉の遠い鳴き声も、今は酸素を求める肺のシンフォニーと、肋骨の裏でドクドクと脈打つ心臓の音にかき消されている。人間の、混沌としていて不快なほど近いノイズ。


 坂の頂上、見慣れた我が家の門の前で、前日の光景がほとんど演劇のような正確さで繰り返されていた。疲れ果てた五人の人影が、低い石垣にぐったりと寄りかかり、まるで溺れかけたところを助けられたかのように、それぞれ必死に息を整えている。太陽が傾き始め、空を淡い青色に染め、静かな通りに長い影を落としていたが、誰もその景色を味わう余裕はないようだった。


「どうして…あなた…はぁ…疲れないの…?」夏川が息を切らしながら尋ねた。顔は熱でもあるかのように赤く、オレンジ色の髪が汗で濡れた額にぺったりと張り付いている。


 竜斗は一瞬、わずかに首を傾げて彼女を見つめた。質問の意味が分からない。魚にどうして溺れないのかと聞くようなものだ。「慣れてるからだ」と、天気について話すかのような単調な声で答えた。


「慣れてる、だと?」三浦の声は、信じられないという気持ちと苦しみが混じっていた。彼は腰を折り、両手を膝に置き、胸を激しく上下させている。「こ…これは、俺のサッカーのどの練習よりもキツイぞ!」


 その比較は、身体的な持久力を誇りにしている男からの、この坂の厳しさの証明だった。だが竜斗にとっては、それもまた一つのノイズ、参加を必要としない雑談に過ぎない。彼は背後で疲れ果てた体たちが織りなす小さな混沌を無視し、くるりと背を向けた。門の鍵穴で鍵がカチャリと回る金属音が、クリーンで孤独に空気を切り裂く。木の門が**ギィ…**と静かに軋みながら開いた。


 彼は振り返り、自分の聖域の侵略者五人を見た。


「入れ…」


 木のドアの静かな軋む音に続き、玄関の何もない空間に単調な言葉が響いた。


「ただいま…」


「お邪魔します…」山本の丁寧な声が最初に返ってきて、それに他のメンバーの礼儀正しい呟きが続いた。以前は一人分だったノイズが、今や五倍に増えている。彼の避難所の隅々まで侵入してくる音の波。


 反応は即座だった。ドタドタと廊下を駆ける慌ただしい足音が響き、リビングから小さな人影が姿を現した。咲は玄関でピタッと足を止め、目をまん丸にしている。前日の一人の少女の侵入をようやく処理したばかりの彼女の頭は、今やグループ全体の存在を理解しようと試みていた。その顔は、純粋な信じられないという表情を映し出していた。


「咲」と竜斗は、まるでレシピの材料を読み上げるかのように平坦な口調で言った。「クラスメイトだ。課題をしに来た」


「あ…初めまして」山本颯太は、いつもの穏やかで優しい笑顔を見せた。


「は、初めまして…」南はどもりながらぺこりとお辞儀をし、その顔は髪でほとんど隠れていた。


 しかし、その日常的な光景は長くは続かなかった。咲の視線が他の二人に移り、彼女は危険が具体化するのを見た。夏川の腕をぎゅっと掴んだ秋山が、猫のような捕食者の目で彼女をじーっと見つめている。


「うわ、由美ちゃん、見てよ!この子、近くで見るともっと可愛くない?!」と真琴が、楽しげな共謀者のような囁き声で叫んだ。


「本当だ!なんて貴重な生き物なの!」由美も同意し、その目は同じ危険な強さでキラキラと輝いていた。


 咲の生存本能がピーンと警報を鳴らした。彼女は一歩後ずさり、避けられないと分かっている潰されそうなハグに備えて体をカチカチに硬直させた。だが、攻撃は来なかった。


 二人の少女の背後から、もっと背の高い人影が現れた。驚くほど軽々と、三浦は彼女たちのシャツの襟首を掴み、まるでやんちゃな子猫のペアのように、二人を地面からわずかにひょいと持ち上げた。


「おい、二人とも。その子を困らせるな」と彼は言った。声はしっかりしていたが、どこか楽しげだった。彼は二人を地面に戻し、衝撃で小さな石像と化していた咲の方へ向き直った。自信に満ちた温かい笑顔が彼の顔を照らす。「初めまして。俺の名前は三浦武たけるだ」


 それはまるで魔法のようだった。背が高く、短く整えられた明るい髪、落ち着いた声、そして完璧な笑顔。咲の顔がカァッと真っ赤に染まった。彼女はそこに立ち尽くし、口をあんぐりと開けて、完全に心を奪われていた。


「はぁ?!」由美は、まるで演劇のようにパニックに陥った顔で咲と三浦を見比べた。突如として新たなライバルが出現したのだ。


 真琴と山本はその光景にゲラゲラと笑い出した。一方、竜斗はもうその茶番にはうんざりしていた。彼は咲の背後を通り過ぎ、彼女の肩をトントンと軽く叩いてトランス状態から引き戻した。


「台所のテーブルを使う。邪魔するな」


「ちょっと!」彼女は我に返って叫び、兄の方へ振り向いた。感嘆は苛立ちに変わっていた。「なんで兄さんはいつもそうなの?!」


「どうでもいい…」と彼は呟き、すでに台所へ向かっていた。


「おい、竜斗」三浦の声が彼に追いついた。「妹にそんなにきつく当たるなよ」


「その通り!」咲はすぐに新しいヒーローの味方をし、竜斗の背中に挑戦的な視線を投げかけた。


 彼は返事をする手間さえ取らなかった。


 数分後、台所の光景は社会的なカオスの縮図だった。竜斗はカウンターで、お茶といくつかのお菓子を準備していた。お湯がコトコトと沸き、包丁がトントンと何かを切る、彼が集中するのを助ける規則正しいノイズ。一方、テーブルでは、学校の課題以外のあらゆることについて会話が弾んでいた。


 誰もが予想した通り、注目の的は咲だった。テーブルの端に座り、三浦、由美、山本からなる小さなファンクラブの中心となり、その一瞬一瞬を楽しんでいた。真琴も参加し、以前と同じ圧倒的なエネルギーで彼女を甘やかしている。


 南だけが居心地悪そうにしていた。少し離れて座り、その不安げな目は、楽しげな会話とテーブルに広げられた本との間をキョロキョロと行ったり来たりしている。課題を始めなければという焦りが顔に浮かんでいたが、その内気さから声を出せず、自分の椅子に囚われた囚人のようだった。


 それに気づいたのは、意外にも真琴だった。


「みんな!」彼女は、笑い声を遮って、突然真剣な声で呼びかけた。「楽しかったけど、そろそろ課題を始めた方がいいんじゃない?」


 グループは同意したが、咲はまだ終わっていなかった。「たけるお兄ちゃん…」彼女は甘ったるい声で始めた。「何を勉強するの?難しいこと?」


 由美は彼女に殺意のこもった視線を送った。嫉妬がメラメラと燃えているのが見て取れた。


「平安時代についてだよ」三浦は、辛抱強く微笑みながら答えた。


 南はチャンスだと思った。「わ、私は…三番目のトピックを…」彼女の声は低かったが、短い沈黙の中ではっきりと聞こえた。「密教の発展について、やりたいです」


「いい考えだね」と山本が同意した。「で、計画は?ただテキストを提出してクラスで読むだけにするか、それとも何か派手なことをするか?」


「絶対に派手な方!」由美が、三浦をまっすぐに見つめながら宣言した。「できればスライドとかも使って!」


「賛成だ。やるなら、ちゃんとやろう」三浦は、生まれながらのリーダーの笑顔で支持した。


 カウンターで、竜斗はため息をついた。派手な課題が意味するのは、たった一つ。


(結局、僕の仕事が増えるだけだ)


 議論は続いたが、竜斗がようやくお菓子をテーブルに運んだ時、場の盛り上がりはピークに達した。彼は皿とお茶を置き、それから、昨日真琴の家からの帰りに賢進と一緒に買った、特定の苺のショートケーキの一切れを手に取り、咲に渡した。彼女は稲妻のような速さで、彼の手から皿をサッと奪い取った。


「へえ」由美は、からかうような笑顔で言った。「さっきはあんなに冷たかったのに、心の底では妹思いなんだね?」


 竜斗は片眉を上げた。彼女のコメントは奇妙だった。彼の論理にはまらない、からかいの試み。彼は由美を見て、わずかに首を傾げた。「うん。もちろん妹を大事に思ってる。どうしてそうじゃないと思うんだ?」


 彼女の反応は見ものだった。いたずらっぽい笑みはしぼみ、言葉にならない困惑に取って代わられた。明らかに、皮肉の一切ない、武装解除するような誠実さは、彼女が期待していた答えではなかった。


 ようやく彼はテーブルの、上座に腰を下ろし、すでにその疲れた遠い視線を本と、検索サイトが開かれたスマホの画面に向けていた。彼はすでに会話からスッと離脱し、自分自身の情報の海に潜っていた。


 その時、テーブルの反対側にいた三浦が何かに気づいた。南の視線は、本にはなかった。それは竜斗にじっと注がれており、その顔には静かな感嘆の表情が浮かんでいた。その時、三浦の唇に、ニヤリと悪戯っぽい笑みが浮かんだ。


「なあ、みんな」彼は、全員の注意を引いて言った。「竜斗と南さんがこのグループのリーダーってのはどうだ?」


 テーブルに沈黙が落ちた。


「だってさ」彼は続けた。そのカジュアルな口調は、目の奥にある狡猾さを隠していた。「南さんが一番このトピックに乗り気みたいだし、それに…まあ、俺たちは竜斗の家にいるわけだしな」


「わ、私?!だ、だめです、私にはできません!」南は叫び、顔をぼっと赤らめながら両手で顔を隠した。


 全員の視線が、反応を待って竜斗に向けられた。彼はスマホから視線を上げ、永遠に続くかのような一瞬、三浦を見つめ、そして肩をすくめた。


「どうでもいい…」


 賛成の呟きがグループに広がった。彼らは彼のコメントを、リーダー役を諦めて受け入れたものだと解釈した。彼が本当に表現していたのが、避けられないことへの確信だとは、知る由もなかった。


(結局、どうせ全部一人でやることになるんだ)

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