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98話 可愛いけど、全部食べます。

「キメラは危険だ。早々に従魔契約をしておけ。」



ロウキにそう言われた昼下がり。

俺はキメラをルーナに預けて、エントランスホールの椅子に寝転がっていた。

よく考えてみれば、シンゴの卵もキメラの卵も、詮索できないようになっていたけど、その理由が、今ならはっきりと分かる。


国の象徴であるグリフォン、兵器となる可能性のあるエッグ・ビースト。

確かにこの二つの卵は、鑑定で正体が知られてしまえば争奪戦になり、下手すればそれがもとで争いに発展する可能性も高い。

だから、ここの前の主だった魔法使いさんは、卵の存在がバレないように術をかけていたんだろうな。

とはいえ、どちらも孵ってしまった。それも片方はキメラとして…。



「キメラねぇ…あんなに可愛いのに。色もピンクでさ。

もうあれだよね、今回はクロと同じ響きでいいよね。」



早く従魔契約をしておけと言われていたこともあり、名前を考えていた俺は、

今回はあまりにも色のインパクトが強かったこともあって、クロと同じように“色”を名前にしようと決めた。

すぐに起き上がって外に出ると、ルーナとシンゴと楽しそうにしているキメラを見つけ、駆け寄った。



「ヨシヒロ様、お名前決まったんですの?」


「ああ!早速契約するよ。いいかい?キメラ。」


「ピィ?」



ルーナに訊かれ頷くと、彼女はシンゴを連れて少し離れた。

そして俺は、いつものようにキメラに向かって手を伸ばした。



「…我が眷属となりし者よ、この名を与える…“モモ”!」


「ピィィッ!」



俺が決めた名前、それはピンクを和風読みした“モモ”。

安易だと思われるかもしれないけど、あまりにもピンクなんだよ、君。

それに、“モモ”という響きは悪くないと思うんだけど…どうだろうか?



「モモ!可愛いお名前ですわね、ヨシヒロ様。この子にピッタリですわ。」


「モモっていい名前だなぁ、主!」


「うむ。まぁ、悪くないな。」


「可愛らしいお名前です、あるじさま!」


「モモ、よびやすい。いいね。」


「モモー!」



皆に何を言われるか心配だったけど、案外すんなり受け入れてもらえてホッとした。

皆がモモの周りに集まり、何度も名前を呼んであげているその姿は、何とも微笑ましい。

当の本人は何も分かっていない様子で、キャッキャッと笑っているだけだったけど。


それにしても、あっくんにモモ。突如2匹も仲間が増えて、さらに賑やかになったなぁ。

魔物管理室のドラゴンの赤ちゃんのこともあるし、このまま増えていくなら、城じゃなくてちゃんとした“家”が必要になるかもしれない。


魔物に家っていうのも、ちょっと変かもしれないけど…。

今はまだこの城で十分暮らせているし、もう少し増えるようなら考えてみるか。

なんて思いながら、楽しそうに遊ぶ皆の姿を眺めて、ホッと一息ついていた―…。









「だああああっ!モモ!それは食べ物じゃないですよー!!」


「ピィィィッ!」


「それも食べ物じゃないよーー!!」


「モモ、食いしん坊すぎじゃないのか?!」


「モモが食べるのはこっちだよー!栄養ゼリー!」


「ピィッ!」



ガリッ

ガリッ



「コラコラコラ!スプーンを食べちゃダメーー!」



皆で食卓を囲んでいた時、俺たちは食事も忘れて大きな叫び声をあげていた。

その理由は、家族になったばかりのモモ。

初めての食事ということで、モモが食べやすいように栄養バランスを考えて作ったゼリーを用意した。

それを食べさせていたところ、なぜかスプーンまで食べ始め、今度はお皿にまで手を伸ばした。

さらに、側にあった布巾やフォーク、ありとあらゆるものを食べようとするモモ。

スライムならまだ分かるけど、キメラも何でも食べるのか?!

お腹壊しちゃうじゃん、絶対に。

そう思いながら何度も止めて、ようやく30分かけて作ったご飯を食べさせることができた。



「はぁ…ねぇ、ロウキ!何なのこの子は!」


「我もさすがに知らん。エマに訊いてみろ。」


「あ、そうだ!エマ大先生!」



何とか食事を終えた俺たちは、ドッと疲れて子育ての大変さを改めて痛感していた。

キメラはこんなふうに何でも食べてしまうものなのかと焦り、ロウキに言われ早速エマ大先生に声をかけた。



【モモはキメラ体です。キメラは自分の体を形成するために、素材となるものは何でも食します。

そのため、今のモモはナイフでもフォークでも、それこそ魔法や魔力も、すべて食事の一部として認識しています。ご注意ください。】


「ご注意くださいって…まずいな…。

皆、モモが何でもかんでも食べないよう、常に見張っておこう…」


「そうだな…今のままじゃ家まで食べられそうだもんな…」


「うむ…。言葉を理解するまでは、皆で交代で子守するしかないな。」



エマからキメラについて教えられた俺は、モモには起きてから寝るまで、必ず誰かが付き添う必要があるなとため息をついた。

モモがある程度、言葉を理解するまでの間は皆で交代で世話をすることにしよう。

モモは今までで一番手がかかりそうだけど…まぁ、子育てってこういうもんだよな。

俺は一人じゃないし、皆で何とか乗り切るさ。そう思っていた。



「主!主!」


「ん?どうした?クロ。」


「今日はモモも一緒に寝るのか?ルーナに任せるのか?」


「え?あー、さすがに今日は一緒に寝ようかなって。どうした?」


「えっとー…」



モモとのこれからについて考えていると、モモに構っていたのが嫌だったのか、元気のないクロがふらふらと隣にやってきた。

その時、ハッとした。

クロは不安分離障害のような症状があるから、もしかして「俺から離れなきゃいけない」とか、そんなことを考えて不安になっているのかもしれない。



「クロも一緒に寝るだろ?モモのお兄ちゃんなんだし、俺の使い魔なんだから、ずっと一緒にいるもんだからな。」


「…うんっ!そうだよな!

俺、お兄ちゃんだし、主の一番の使い魔だもんな!」



クロが不安にならないように、俺の気持ちを伝えると、クロはニカッと笑ってホッとした。

これまで“悪魔”という存在で、ここまでベッタリなタイプがいるとは思っていなかったけど…

クロが不安にならないように、きちんと話をしておかなきゃなと感じた。


普通なら、不安分離症と感じたら改善方法を探してあげなきゃいけないけど、クロの場合はどうするのが一番なんだろう?

俺がいない時間に慣れさせるのがいい?いや、それは可哀想か?

なんて、いろいろと考えていた。

結構難しい問題な気もするから、今度ロウキに相談でもしてみようかな。

そう思いながら、しばらく様子を見守っていた―…。

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