83話 快適な乗り心地をお約束しますし、食事も提供しますから
「もう怒らないでくださいよー。」
「これが怒らずにいられるか!本当にお前は…」
「でも、乗り心地はいいでしょう?
それに、俺の知ってる人以外は通れないよう記憶も組み込んでありますので大丈夫です!」
「はぁ…何が大丈夫なんだよ…。もう行く前から疲れたわ…
馬車を動かしてもらう奴を、アーロンのとこから連れてきてもらってて良かったぜ…
他の奴に任せられなかったからな…」
「ははははー…あ、そういえば馬車を動かしてくれてる人って、
アーロンさんにお願いしてたんですね。
突然現れたからびっくりしました。でも、無口な人でしたね?」
馬車に乗り込んで、ガーノスさんの大きな声が響く中、突然現れた鎧をまとった兵士さん。
普通の兵士というよりも、もっと豪華で、鎧にもお金がかかってるなと思っていた。
すると、その兵士はアーロンさんから借りてきた“兵士”だと言われ、なるほどと納得。
一言もしゃべらないのは、そういう教育なのかな? なんて思っていたら、
ガーノスさんは驚くべきことを口にした。
「あれはアーロンが作った“人造体”と呼ばれる人形だ。
いつもアーロンにくっ付いてるクロノスもそうだぞ?」
「え?!でもあの人、喋ってましたよ?!」
「クロノスにはアーロンと仲良くなった精霊が宿ったらしくてな、喋るようになったんだと。
けど、通常の人造体は意思を持って自由に動くが、喋りはしないからな。
そもそも人造体が作れるのは、あいつ一人だけだけどな?見たことねぇよ。
意思のある動く人形作れる奴なんて。」
「ほえー…すっごいスキルですね。それじゃあ兵隊作り放題じゃないですか。」
「そう思うだろう?でもあいつは自国の警備に使ってるだけだけどな。」
「あー、アーロンさんらしいですねー。」
兵士さんについて不思議に思っていたら、まさかの“人造体”だと知らされて驚いた。
人を作れてしまうなんて、使い方によっては恐ろしい事態になりかねないスキルだよな。
だけど、アーロンさんがそんなことをするはずないから、
このスキルを使えるのがアーロンさんで良かったんだろうなと思っていた。
すると、頭の中でエマがこっそりとスキルについて教えてくれた。
【あまり大きな声では言えませんが…そのスキルは、転生時に得たスキルのうちのSSSスキルの一つです。】
「あ…あ。あーね…」
【転生者特有の、規格外のSSSスキルですね。
しかい、この世界には他にも転生者はいますが、アーロン国王やヨシヒロさんほど
規格外なスキルを得た転生者は過去にはいません。
ですから、色々と“おかしい”のですよ、ヨシヒロさんは。】
「なんと…酷いエマ…」
エマは、アーロン国王の人造体生成スキルが転生時に得たスキルだと教えてくれた。
それなら納得だなぁと思っていたら、
転生者の中でも俺やアーロンさんほど“規格外”のスキルを持っている人間はいないらしく、
「おかしいのですよ」と冷たい声で言われた。
本当、最近はますますロウキに似てきたんだから!
なんて思いながら、次にアーロンさんと会った時は、転生時のスキルについてまた話してみたいなぁと思っていた。
「ところで、これから行く研究施設って、放置された施設なんですか?」
「ああ、まだ話してなかったな。
あそこは元々、マルセル・ヴェルミスっていう男爵の領地でな。
魔法の研究をしたくて施設を建てたはいいが、うまくいかずに手放した施設なんだよ。
ただ、ヴェルミス男爵はあまり良い噂を聞かねぇから、買い手がつかずに放置されてたらしい。
それなのに最近、その研究施設の中で何かが動いてるとか、妙な声が聞こえるって近くの街の連中が言ってるらしくてな。
噂かもしれねぇが、魔獣を違法改造してるんじゃねぇかって話が王都にまで届いて、
たまたま騎士団の耳に入って、俺たちに調査依頼が来たってわけよ。」
「へぇ。でも、なんで王国の騎士団が直接行かないんですか?その方が早いですよね?」
「この手の調査は、まず冒険者ギルドが請け負うことになってんだよ。
それなりに腕の立つ奴らが多いからな。
それで、事と次第によっちゃあ国が動く。みたいな感じだな。」
「あー、そういうことですか。」
馬車が快適に道を進む中、今回の依頼について詳しく教えてもらおうと訊ねた。
ガーノスさんの話では、ヴェルミス男爵という人物の領地に研究施設があり、
売却予定で放置されていたはずなのに、急に建物の中で何かが動いているという話だった。
その話を聞いた俺は、絶対に悪さに使ってるだろうなと直感的に思った。
しかもその内容が“魔獣の違法改造実験”かもしれないって。
それがただの噂ならいいけど、もし本当にそんなことをしていたら、絶対に許せないという気持ちでいっぱいだった。
「もし、違法改造された魔獣がいた場合って…」
「最悪の場合は駆除…となるだろうな。
制御不能となれば、生かしておくわけにはいかないからな。」
「やっぱり、そうですよね…」
「だから今回は、お前たちに頼もうと思ったんだよ。
もしかしたら、どうにかなるかもってな。」
「どうにか…したいですよね…」
「人間は懲らしめてもいいのか?」
「クロがやると殺しちゃうから、ガーノスさんの指示されたことだけやろうね?」
「チェッ!」
「まぁ、そうだな。確かにお前たちが本気を出せば、人間なんてすぐ死んじまうだろうからな…
その時その時で俺が判断するから、頼むな。」
「任せろ!俺たちは強いからな!」
もし本当に違法に改造された魔獣がいた場合、どうにもならなければ殺処分されてしまう。
それは分かっているけど、実際にそう言われると、やっぱり胸にくるものがある。
そうならないように、俺にできることがあるなら、精一杯やりたいと思っていた。
そして、クロたちはやる気満々で「悪い人間を懲らしめていいでしょ」と言ったけど、
確実に殺してしまう未来しか見えないからな。
だから、ガーノスさんの指示のもとで動くようにと伝えた。
前回の鉱山の依頼とは違って、今回は人間も相手にしなければいけないかもしれない。
そう思うと、すごく嫌な気分だけど…。
それでも、1匹でも多くの命を助けたい。
その気持ちだけが、俺の心を奮い立たせていた―…。
◇
「初めて来る場所ばかりですけど、やっぱり王都以外にも小さな村とか、たくさんあるんですね。」
「まぁな。本当に小さな村から、小規模の町、割と大規模な街までいろいろあるぜ。
それぞれ爵持ちのお貴族様が領地として納めていて、それをまとめて管理してるのが王都ってわけだな。」
「異世界ですねぇー…なるほどー…。」
快適に走る馬車の窓から外を眺めていると、俺が見たこともないほどたくさんの家が立ち並んでいて、
知らないだけでこの土地には本当に多くの人たちが住んでいるんだなと実感していた。
この領地が誰のものかは全然知らないけど、異世界らしい風景が広がっていた。
「でもあれだぞ?ヨシヒロの領地ほど自由気ままな領地はねぇけどな?
貴族様ってやつは、本当に良い奴もいるが、大抵は野心家で傲慢な奴が多いからな。
そこに住むのが嫌になって、王都まで出るっていう領民も多いって聞くぞ。」
「よくあるやつだー…俺の領地にはこの子たちしかいないですからねぇ。
そう考えたら安心安全ですよ。」
「まぁ、魔王城だけどな。」
「言わないで!魔王城なんて言わないで!」
ガーノスさんは「ヨシヒロの領地ほど自由気ままな場所はない」と言い、
「魔王城だけどな」と豪快に笑っていた。
魔王城だなんて名前を付けた覚えはないのに!
勝手に国が「魔王がいる」とか言い始めたのに!
なんて心の中で訴えながら、窓の外の初めて見る景色を堪能していた。
そんな時、ふと冒険者の食事事情が気になって、ガーノスさんに訊いてみた。
「ガーノスさん、冒険者の人たちって、長旅の時はご飯とか持ってきてるんですか?」
「ああ。少し出る時は、いつもパンと干し肉がメインだな。あとはドライフルーツもあるぞ。
現地で肉や魚を調達して調理するってのも、よくあるな。」
「えー!ガーノス可哀想だぞ主!」
「まぁ、普通はそうなんだと思うよ?」
「ガーノスさん。今日からのご飯では干し肉は必要ありません!
美味しいご飯を提供しますので、安心してください。」
「おれも、つくったよ。」
「あ?まーたアイテムボックスか?もう驚かねぇよ!」
ただの興味本位でガーノスさんに食事について訊くと、予想通りの答えが返ってきた。
その内容を聞いたクロは、あからさまに同情したような目でガーノスさんを憐れんでいた。
すぐにユキが「大丈夫ですよ」と言い、ミルが「自分も作ってるよ」とアピール。
そう言われたガーノスさんは、「またお前の力なんだろう?」と呆れていた。
いやいや、このアイテムは俺のじゃないのよ。
元々は、あの家の家主だった偉大な魔法使いさんの持ち物なのよと思いながら、
ガーノスさんに美味しい食事を提供できたらいいなと、心から思っていた。
「お昼、楽しみにしててくださいね!」
「へいへい。楽しみにしとくよ!」
ガーノスさんにそう言ってニッと笑うと、大きなため息を吐きながら苦笑いしていた。
そのうち、こういうのにも慣れるだろう。ロウキたちにもすっかり慣れて、今では友達みたいになってるしな。
なんて思いながら、ふうっと一息ついた。
それにしても、ここから4、5日かけて現地に到着か。
何事もなく、無事に着けばいいけど。
そう思いながら、少しだけ横になり、これからのことを考えていた―…。




