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62話 魔王にはなりませんが、仲間が増えるのは大歓迎です

「それで、結局俺の噂はそのままになっちゃってさ。」


「あるじさまは、魔王なんですね!お似合いです!」


「いやいやユキちゃんや、魔王だよ?俺ただの人間なのに魔王っておかしいでしょう?」


「そうでもないぞ?かつて魔王と呼ばれていた奴がいたが、どこにでもいる人間だった。

色んな憎悪を吸い込んで、結局魔王になったがな。

だから人間が魔王という設定でも問題なかろう。」


「えー…酷い話じゃん!」


「あるじ、まおう、できる?」


「さすがに俺が知ってる魔王みたいに、世界征服とか世の中に復讐とかはできないよー。

だって俺は、皆と一緒にのんびり暮らしてるこの時間が好きなんだからさー。

あ、ミル、今日のお昼ご飯も美味しいな! 前に俺が言ってたハンバーグ、作ってくれたんだなぁ!」


「あるじのすきなもの、つくりたかったから。」


「ありがとうなミル!このスープもバッチリだよ!」


「うれしい!」



家に戻り、ミルが作ってくれていた昼食を外のテーブルに運び、

それを囲みながら今日あったことを話した。

ユキは俺が“魔王”と呼ばれることに抵抗はないようで、「お似合い」と笑っていた。

ロウキは、過去にいた魔王は元々人間だったと言い、前世の設定で聞いたことはあるけど、

実際に人間から魔王になった者がいたことに驚かされた。

魔王って、本当に存在していたことがあるんだなぁ…と考えていると、

ミルが「魔王になれる?」と期待の眼差しで俺を見てきた。

この世界の“魔物”と呼ばれる存在は、魔王に対して好意的なのか?と思うくらい抵抗がない。

だけどね、俺は魔王じゃなくて、普通にゆるーく生きていけたらいいのよ。

そう思っていた。



「そういえばロウキ、何か獲物狩れたのか?」


「うむ。狩りをしようと思って岩の上で見張っていたのだが、

いつの間にか寝てしまっていてな。狩りはまた次回だな。」


「あはは、まあ日向ぼっこしてたら眠くなるよなぁ。

次の狩りまでに、俺は魔物専用のアイテムボックス作る!」



魔王の話をしていた時、ふとロウキの狩りの結果が気になって訊いてみた。

すると、「日向ぼっこで寝てしまって結局できなかった」と言われて、思わず笑ってしまった。

大きくても、やっぱりワンちゃんだなぁなんて思いながら、

本当に魔物狩りされる前に、魔物を入れるためだけのアイテムボックスを生成しておかないとな、と考えていた。



「ヨシヒロ様。食事が終わったら、少しお時間いいですか?」


「ん?いいよラピス。もう少し待っててなー。」



そんな会話を繰り広げながら食事をしていると、食事を終えたラピスが肩にちょこんと乗ってきた。

何か話がしたいようで、俺は少し急いでご飯をかき込んで席を立ち、

ラピスに案内されて、みんなから少し離れた場所まで行くと、そこには黄色いスライム君が一匹で待っていた。



「あれ?あの子、どうしたんだ?」


「実は、あの子が…名前が欲しいって言っていまして…」


「え?名前?」


「はい…。あの子の能力を考えると、これからも連れて歩くことがあるかもしれないですよね?

その時に、“黄色いスライム君”と呼ばれるでしょう?

それが嫌みたいなんです…名前で呼ばれないのが寂しいみたいで…。

従魔になれば名前をもらえるからって…ちょっと身勝手な理由で、ヨシヒロ様には申し訳ないんですけど…」


「そうなの?意外な考え方でびっくりした。」


黄色いスライム君にも何かあったのかと心配していると、

ラピスから「名前が欲しい」と言われて驚いた。

その理由が、“黄色いスライム君”と呼ばれて名前がないのが寂しいからって。

まるで子供が駄々をこねているみたいで、可愛いなと思ってしまった。

だけど、その気持ちは分かるけど、それだけで従魔にするわけにはいかない。

そう思った俺は、黄色いスライム君の前に立ち、俺の気持ちを話すことにした。



「スライム君。名前が欲しいっていう理由は分かった。

だけど、それだけで君を従魔にすることはできないんだよ。

従魔になっちゃったら、自分が嫌になったとしても逃げられないんだ。

嫌いな人間に縛られるのは、嫌だろう?俺が名前をあげることは簡単だけど、

俺のことを少しでも信じたいなって気持ちになってくれたら、もう一度契約の話をしよう?

俺との従魔契約は、心が少しでも繋がらないと成立しないみたいだからさ。

だから、ちゃんと俺を信じて“やってもいい”って思ったら、従魔契約しよう。」


「ヨシヒロ様…」


「ラピス、ごめんな?俺はいつでも大歓迎なんだけど、

この子が名前のために自分を犠牲にしてほしくないんだよ。」


「そんな風に思ってくださり、嬉しいです。ありがとうございます、ヨシヒロ様。」



黄色いスライム君に名前を渡すことは簡単だったけど、

そのために自分を犠牲にしてほしくないと伝えた。

そして、俺の契約は形式的なものではなく、気持ちが繋がらないと成立しないことも話し、

「少しでも信じたい」と思えたら、もう一度契約をしようと伝えた。

納得がいかなさそうな黄色いスライム君。

その頭をポンポンッと撫でたあと、ロウキたちのいるところへ戻った俺は、

コクコクとお茶を飲みながら、「自分の気持ちを犠牲にするのは良くないよなぁ」と考えていた。

自分の本当の気持ちを押し込んでまで、従魔になってここで暮らすのは正直しんどいだろうからな…。

そう思っていると、再びラピスの声が聞こえて視線を移した。



「ヨシヒロ様…」


「ん?」


「この子たちが…」


「あれ?今度は4匹でどうした?」



視線の先にいたのおはラピス、そして4匹のスライムたちだった。

その表情は、なんだかとても気まずそう。

なんて思っていると、黄色いスライム君が何やら俺に話しかけてくれた。

でも、スライム語?がまったく分からない俺は、どうしようかと困っていた。

するとラピスがすぐさま俺の肩に乗り、通訳を始めてくれた。



「100%信じることは難しいって思うけど、ヨシヒロ様は他の人間と違う気がしている。

この気持ちをどう伝えたらいいのか分からず、名前が欲しいと言ってしまった。そう言っています。」


「スライム君…そうだったのか。ごめんな、ちゃんと分かってやれなくて。」


「最後にもう一度、信じてみたいという気持ちがあるので、従魔にしてください。

そう言っています、ヨシヒロ様。

もしヨシヒロ様が承諾してくださるなら、この子たち全員に名前を授けていただけないでしょうか?」


「全員に?」


「はい。実はこの子たちは、人間が言う“特殊個体”なのです。

そのため、他のスライムたちとは違い、能力を持った個体となります。

なので、それぞれ名前があった方が、ヨシヒロ様にとっても便利かと思います。」


「へぇ、そうだったのか。俺は構わないよ!この子たちがそれでいいと思ってくれるなら。」


「この子たちは“大丈夫”だと言っています。

ヨシヒロ様…よろしくお願いします。」



黄色いスライム君がなぜ名前を欲しがっていたのか。

それが分かった俺は、この子なりに前に進もうとしてくれていたんだと知った。

俺も不器用な人間だから、同じ立場になったらどう伝えたらいいのか分からなかったかもしれない。

それでもスライム君は、俺に伝えようとしてくれていた。それが嬉しくて。

そして、他のスライムたちも特殊個体だと聞き、

全員に名前をつけておいた方がいいとラピスに言われ、それを承諾すると笑っているように見えた。


そうなると問題はいつもの“お名前”だ。

4匹も一気に名前をつけるなんて初めてだよ。

ラピスが宝石から名前を取ったから、この子たちもそれぞれの色に合った宝石の名前にしようかな。

そう思い、少し考えたあと、皆をテーブルの上に座らせた。



「それじゃあ、これから従魔の契約をするよ。

今ならまだ間に合うから、嫌だなって思ったらテーブルから下りてね。」


「ヨシヒロ様!皆、大丈夫だと言っています!」


「分かった。・・・じゃあ、やるね。

我が眷属となりし者よ、この名を与える―…

黄色い君はシトリン、赤い君はガーネット、緑の君はルド、銀色の君はムーン!」



従魔契約をして名前を呼ぶと、4匹が一回り大きくなっていく瞬間を見た。

今までは本当に小さな子たちだったけど、ラピスと同じくらいの大きさになり、表情もよく見えるようになった。

これで、この子たちの言葉も分かるようになるのかな?

なんて思っていると、黄色いスライム改めシトリンが一歩前に出て、俺を見上げた。



「ヨシヒロ様、名前をつけてくださりありがとうございます!

今日からシトリンとして生きていくので、よろしくお願いします!

オイラ、まだ不安なことがいっぱいあるけど…皆がいるし、大丈夫だと思う!」


「シトリン…今までもありがとうな。そして、これからもよろしく!」


「ヨシヒロ様、私に可愛い名前をくれてありがとう!

ガーネットのような綺麗な宝石のように輝けるように頑張るね!」


「あ、君は女の子だったんだね?よろしくね、ガーネット!」


「僕はルドです!ヨシヒロ様、よろしくお願いします!」


「よろしくなぁ、ルド!」


「ヨシヒロ様!ムーンって名前、気に入ってる!ありがとう!

これからは、ヨシヒロ様の役に立てるようになるから!」


「ムーン…ありがとな。」



シトリンが俺に話しかけると、他のスライムたちも順番に俺に話してくれた。

そして、赤いスライムのガーネットが女の子だと初めて知り、

ガーネットと名づけて良かったなと改めて思った。

女の子なのにヤンチャな名前だと可哀想だったもんな。

そして、ルドにムーン…。

この子たちはちょっとヤンチャそうだな?なんて思いながらも、この場所で暮らしていくことを決断してくれただけで嬉しかった。



「シトリン!ガーネット!ルド!ムーン!

俺はクロ!こっちがユキで、こっちがミル!そしてボスがロウキだ!よろしくな!」


「うむ。見ていて分かっていたと思うが、我がこの群れの長だ。何かあれば我に言うがよい。」


「皆さん、改めてよろしくお願いします!ここはとても安全な場所ですからね!」


「みんな、おれと、あそぼう!」



スライムたちのご挨拶が終わると、今度はクロたちが声をかけてくれた。

それはそれは、とても優しい光景で、俺は嬉しくて頬が緩んだ。

どんな魔物でも、こうして仲良くなれることがあるんだなぁ。

そう思うと、幸せを感じる。

この子たちが特殊なのかもしれないけど、そんな子たちと一緒にいられるって、きっと特別なことなんだと思う。


だから俺は、絶対にこの生活を手放したくはない。

そのために“魔王”と呼ばれることが必要なのだとしたら…魔王と呼ばれるしかないのかなぁ、と。

そんな風に、半分諦めモードになっていた。


まぁ、これも仕方がないことなのかなぁ―…。


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