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61話 国王たちにまで噂話が届いていました

Face Muteを唱えてからも、相変わらず人から視線を向けられている。

クロたちがいるから仕方ないけど、きっと顔は覚えられていない。そう願うばかりだった。

それにしても、俺が魔王だなんて、誰が言い始めたんだか…。

家から王都に向かう道のりをずっと歩いていたから、そこで俺たちを見た誰かが噂を広めたんだろうな。

自分の領地に結界を張る前は、立ち入り禁止エリアとはいえ、勝手に入ってくる人もいたし。

そこで、ずっと朽ちていたはずの城が綺麗になっていたら、そりゃ驚くよな。なんて思っていた。

だけど、声を大にして言いたい。実は、モフモフ天国なんだって。



「ヨシヒロ!」


「あ、ガーノスさん!」


「もうゲートの強化は終わったのか?」


「はい!この黄色いスライム君がいい仕事してくれました!

それよりも聞いてくださいよ!実は――」



ある程度買い物を終えてギルドに戻っていると、ギルドの表の入り口の外でガーノスさんと出くわした。

思わず俺は、先ほどの出来事を伝えると、「別館で話そう」と言われて裏手に回った。

そして改めて事情を話すと、ガーノスさんはいつものように大きな口を開けて笑った。



「わはははっ!俺もその噂は聞いてるよ。噴き出したがな!」


「どういうこと?ってなって…

俺が“大丈夫”と思う人以外からは、顔の認識がされないように咄嗟に魔法かけましたよ…」


「かけましたよって、お前それ…上級魔法、それもかなりの高位魔法だろう?

規格外だよなー、ヨシヒロは。」


「仕方なくですよー…俺は平和にのんびり暮らしたいだけなのに…」


「無理な話だろう?あんな従魔連れてちゃな!」


「ううっ…」



ガーノスさんに愚痴をこぼし、のんびり暮らしたいだけなのにと言うと、

従魔たちがいる状況でそれは無理だろうと、あっさり言われてしまった。

どうして俺の平穏な生活は保たれないんだ…!


そう思いながらため息を吐いていると、突然床に魔法陣が描かれ始めた。

それは見覚えのある魔法陣。あの時、何度か見たやつ……嫌な予感。

そう思っていると、その魔法陣から、貴族冒険者のような恰好をしたアーロンさんとクロノスさんが現れた。



「おお!ヨシヒロも来ていたのか!」


「アーロンさん、どうしたんですか?!」


「いやなに、最近“魔王が出現した”と噂を聞いたと報告を受けてな。

ガーノスが何か知らないかと思って、確認しに来たのだ。」


「うっ…ま、まさかアーロンさんの耳にまで…?」


「・・・おい、ちょっと待てヨシヒロ!

クロ!なんという可愛らしい服を着ておるんだ?こっちにおいで!

私によく見せておくれ!ああ、携帯さえあれば…写真を…」


「カッコいいだろー!主が作ってくれたんだぜ!」


「ああ!とてもよく似合っておるぞ!いやぁ、これはいいな。

従魔にこんなにも可愛らしい服を着せるなど…やりよるなヨシヒロよ!」



何故ここにアーロンさんがお忍びで? なんて思っていると、

どうやらアーロンさんの耳にも“魔王出現”の噂が入ったらしく、ガーノスさんに確認をしに来たようだった。

ガクッと肩を落とす俺。まさか国王の下にまでそんな情報が回っているとは思わなくて。

どうしよう…と焦っている俺の気持ちなどつゆ知らず、アーロンさんは洋服を着たクロに夢中になっていた。

ああ、こういうところはアーロンさんも日本にいた頃の感覚と変わらないんだなぁ。

なんて、少し懐かしく思っていると、ガーノスさんが魔王の件について触れ始めた。



「アーロンよぉ、魔王の話なら今ちょうどヨシヒロとしていたところだぜ。

な?新しい魔王さん!」


「ちょっ!!ガーノスさん!!酷いですよ!俺は魔王になんてなりたくないのに!

ロウキとか連れて歩いてるってだけで魔王にされたの、イジメですよ絶対に!

おかげで隠蔽魔法のFace Muteを使って、住人の皆さんに顔を認識されないようにするしかなくなったんですから!」


「はぁ?では、あれか?あの立ち入り禁止エリアに入った者が、復旧された城と

ロウキ殿たちと過ごすヨシヒロを見て、魔王が誕生したと勘違いしたのか?」


「十中八九そうだろうよ?まぁ、気持ちは分からんでもないがな?」


「あー…まぁ、な。でも安心したわ!この地に魔王城が誕生していたらどうしようかと思ったぞ。

ヨシヒロなら無害だし、城の連中にもそう連絡しておこう。

・・・ただ、魔王がいるという事自体は国民には黙っておこうかの。

それに、私と親交があるという噂を流しておけば、良い方向に向かうだろうしな。」


「ええ?!なんでですか!!誤解を解いてほしいのに!」



ガーノスさんは笑いながら俺のことを魔王と呼び、慌てて魔王の噂の元になった事情を説明した。

するとアーロンさんは呆れたような表情を見せたあと、「魔王の正体はヨシヒロだ」と王族には説明しておくと言ってくれたので一安心。

…と思ったのも束の間。

この事実は王族のみに周知し、国民には黙っておこうと言い始めてギョッとした。

俺は誤解を解いて、安全な人間ですと伝えてほしかったのに、

王家と親交のある魔王として噂を流すと言い始めた。

なんでそんなことを…?と困惑していると、アーロンさんは少し真剣な表情で俺に言った。



「魔王の存在というのは、抑止力になる。いろんな意味でな。

まず一つ、魔王がこの地にいるとなれば、犯罪は減るだろう。

自分たちが何かすれば、魔王を怒らせるかもしれんからな。

それに、我が王国に魔王がいると知れば、他国からすれば大きな脅威だ。

安易に手を出せなくなる分、国にとってはむしろ好都合だろう?

更に、魔王が住む国となれば面白がってこの土地を訪れる者も増えるやもしれん。

そうなれば、商人は儲かり、市民の暮らしも豊かになる。

人の流れが増えたとしても、“魔王の監視下にある”と分かれば、

この地で悪さを働こうとする者もおるまい。」


「そりゃあいいな!そうなると俺たちにもプラスだ!

ヨシヒロ、諦めろ!お前は今日から魔王さまだな!」


「そんなぁ…!」


アーロンさんは、魔王という存在がこの王国を護ることに繋がると力説し、

もう俺が何も言えなくなるような提案をしてきた。

そんな計画を実行されたら、俺は何も言えないんですけど!

ガーノスさんも賛成しちゃって、その場にいた俺だけが顔面蒼白だった。



「クロも主が魔王とか嬉しいだろう?」


「主が死なないなら何でもいいよ!」


「魔王にしておけば誰も手出しはせんから安心だぞ!」


「本当か?!じゃあ、主が魔王になる!」


「クロを誘惑しないでくださいーーー!

まぁ…俺や皆に被害がなく、平和に暮らせるならそれでいいんですけど…」


「大丈夫だろう。国王と交友関係のある魔王に手出しはしねぇだろうよ!

心配すんなって、ヨシヒロ!」


「ううっ…なんでこんなことになるんですかぁ…!」


「色々諦めな!悪いようにはしねぇからよ!」


「あーー…これでまた一歩遠のいた…」


「のんびりライフは存在しないのだよ、ヨシヒロ。」


「辛いです…」



アーロンさんは抱っこしていたクロに「主が魔王になれば安心だ」と吹き込み、

それを真に受けたクロは「主が魔王になる!」と訳の分からないことを言い始めた。

そして、ガーノスさんには「色々諦めな」と諭され、

アーロンさんには「のんびりライフは存在しないのだよ」となだめられて、肩を落とした。


ああ、俺の意思とは関係なく物語が進んでいく。

それは、とてつもなく大きく動いて、俺を飲み込んでいく感じ。

だけどまあ、これも“異世界あるある”なのかなぁと思えている自分がいるのが不思議だった。

とにかく、魔王と噂されることで直接的な被害がないのであれば、

ひとまずはこのまま様子を見ていようか。

そう思っていた―…。


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