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52話 海岸にある洞窟に行ってみることにしました

海岸に続く道を歩き続けて約2時間半。

途中、小さな村があり、子供たちが外で遊んでいるところに俺たちが現れたもんだから、

泣き出す子もいれば、喜ぶ子もいて、なかなか大変だった。

村の住人たちには一度刃を向けられたけど、出てきた村長さんに自分たちのことを説明し、

冒険者ギルドの登録カードを見せてみると、ギョッとした顔で突然土下座されて、俺は慌てた。


いやぁ、今まで家から王都に来るまでの道のりで、村や町は見えていたけど、

コミュニケーションを取ることなんてなかったからな。

それにアーロンさん達以外の人と話すのは初めてだったから、緊張したなぁ。

それに、こんなに魔獣だの悪魔だのを連れて歩いてたら、そりゃ怪しまれるよなぁ。


そんなことを思いながら村人たちに別れを告げて歩いていくと、海が見える海岸に到着。

岩場を進んでいくと、洞窟の入り口が見えてきた。

そこには看板が立てられていて、注意書きが書かれていて、俺は指をさしながら読み上げた。



【この洞窟 入るべからず。魔物多し。】


「魔物多しって書いてある、ロウキー。」


「だからどうした?さっさと自分に結界張れば良かろう。」


「あ、そっか!俺には最強じいちゃんの結界があったんだ!

セルリアン・バリア!」


ヴィンッ――


「おお!なんか護られた感じがした!」


「ついでに俺の結界も張っておいてやるよー!主を護らなきゃいけないからな!」


「ありがとう、クロー!」



洞窟の入り口には「魔物が多いから入るな」という警告の看板があった。

すぐさまロウキに訴えると、呆れた顔で「セドラの結界を張れば良かろう」と言われた。

そういえばそうだったと思い出して結界を張ると、その横でクロが追加の結界を張ってくれた。

今の俺、無敵状態な気がする!

そう思いながら、薄暗い洞窟に足を踏み入れたけど、暗くてよく見えない。



「見えんな…。ヨシヒロ、“ルーメンス”と言ってみろ。光魔法だ。」


「オーケー!・・・ルーメンスッ!」



ポワァァンッ―



「わぁ!明るくなったー!主すげぇ!ルーメンスって広範囲上級魔法だよ主!」


「そうなの?なんで俺、使えたの?」


【万能属性魔法適性のスキルがあるので使用可能です。精度は不明です。】


「ああ、なるほどー。」



足元が暗くて見えなかったところ、ロウキから「ルーメンス」と言えと言われて、素直に口にした。

すると、さっきまで暗がりだったのに、辺り一面が互いの顔が認識できるほどに明るくなった。

どうやら上級魔法らしく、クロはキャッキャと喜んでいて、

「なんで使えたんだろう?」と思っていると、

エマが「万能属性魔法適性のスキルがあるから使える」と教えてくれた。

最初に良いスキルを引いておいて、本当に良かったなぁと思った瞬間だった。



「ここ、まだ通路だったのか。狭いわけだ。」


「奥に行ってみようぜー!」



明るくなったことで、今いる場所が狭い通路だと判明。

そこからさらに奥へ進んでいくと、場所が開けて広い空間に出た。

そして、そこからまた3つの穴があり、それぞれ道が続いているようだった。



「手分けして入った方が早いな。ヨシヒロとミルは左、クロとユキは真ん中、

我は右側を行く。何かあったらどうにかしろ。」


「酷い…」


「あるじ、だいじょうぶ。まもってあげる。」


「ミルーーー!頼りにしてるからねぇ!!」



俺的には、みんなで順番に穴の中を見ればいいかなと思っていたのに、

ロウキは効率化を求めて、手分けして一斉に調査すると言い出した。

そして勝手に決められた俺は、左の穴担当。

不安に思っていると、ミルが「護ってあげる」とニッと笑ってくれた。

なんていい子なんだろう!!

そう思いながら、重たい足取りで穴へと向かった。


穴の中はひんやりしていて、気持ちのいい空気が漂っていたけど、

俺たちの足音以外は何も聞こえない。

50メートルほど歩くと、そこはもう行き止まり。

魔物の気配もまったくなかった。



「なにも、いないね。」


「そうだなぁ。随分と古い洞窟みたいだし、もしかしたら住処が変わったのかもしれないな。」



しばらく様子を見ていたけど、魔物が出てくる気配はまったくなくて。

ひとまず戻ってみるかと思い通路を引き返すと、そこにはすでにクロたちが待っていた。



「主、こっち何もなかったー。」


「我のところも、もぬけの殻だったぞ。」


「俺のところも同じだな。もうスライムたちは住処を変えたのかもしれないよなぁ。

残念だけど、しょうがないよなぁ…。」


「まぁ、スライムなんてどこにでもいるとは思うが…特殊個体となると、

こういう集団でいる場所を探した方が早いからな。

また別の洞窟とかを探すしかないな。」


「残念ですが…仕方がないですね、あるじさま。」


「そうだな。またどこかで情報があったら、探しに行ってみるかね。」



俺が担当した穴以外の2つにも、スライムや他の魔物はいなかったらしく、

残念だけど仕方がないなと話しながら、洞窟を出ることにした。

スライムはすぐに見つかるかなって思っていたけど、

住処が変わってしまったのなら、もう少し情報を集めるしかない。

せっかくここまで来たけど、次は誰かに聞いてから探そう。

そう思いながら、洞窟をあとにして家へと帰ることにした―…。







「はぁ…今日もよく歩いたなぁー。お風呂行こーっと。」


「俺も行くー!」



家に戻ってきた俺は、エントランスホールに鞄を放り投げ、そのまま地下のお風呂へ向かった。

疲れた体を癒すには、やっぱりお風呂だよなぁ。

なんて思いながら地下へ降り、ゆっくりと時間をかけて湯船につかった。

途中でロウキたちもやってきて、結局俺はまた洗う係になったんだけど。

それもすっかり慣れてきて、日本に戻ったらトリマーとして働けそうだな、なんて思っていた。



「スライムって、他にどこにいるかな?」


「お前はまだ、王都からこの家までしか出たことがないだろう?

今まで行ったことのない、湿気の多い場所もある。

その辺りに行ってみるのがいいかもしれんな。」


「確かに、俺はこの家と湖と王都までの道のりしか歩いたことないな。

今度は王都とは逆の方向で探してみるのもいいかもなー。」



お湯につかりながら、スライムの住処について訊いてみると、

まだ俺が行っていない場所に可能性があるかもしれないと言われて、確かになぁと思った。

次は、家の裏手に広がる領地を探検してみるのもありだなと考えていた。


そもそも、森の中とはいえ、行っていない場所も多いし、

知らない世界がまだまだ広がっている。

最初は「冒険なんて無理だ」と思っていたけど、

少しずついろんな出会いが生まれてきて…

そういう出会いがあるなら、少しは出かけてもいいのかもな。

そんなふうに、静かに思い始めていた-…。




「ふう、さっぱりしたー!卵たちの様子を見てから上に上がろうかね。」


「そうだなー!」



お風呂から上がった俺たちは、戻る前に魔物管理室にいる卵たちの様子を見に行った。

扉を開けて中を覗くと、いつもと変わらない光景。

卵が2つ、ドラゴンの子供が1匹、小さなスライムが1匹。うん、変わりないな。


そう思った瞬間は、確かに“いつも通り”だと思っていた。

だけど、この部屋に“いなかったはずのもの”がいることに気づいて、思考が止まった。



「…………ん?」


「おい…なぜ卵の上にスライムがいるのだ?」


「え…?」


「主、スライムいつ来た?」


「僕たち、スライム飼ってませんよね?」


「スライム…」


「えええええっ!!ちょ、なんでここにスライムがいるんだよ?!」


「誰か連れてきたんじゃないのか?」


「ええ…?でも洞窟にはスライムなんていなかったよな…?」



突然、卵の上に現れた青くて綺麗な小さなスライム。

その場にいた全員が驚き、「誰かが連れてきたんじゃないか」と言い始めた。

一方のスライムは、俺たちと目が合った瞬間、

卵の上でピョンピョンと飛び跳ね始めて、慌ててやめさせようとした。



「スライムー!ひとまずこっちにおいでー?卵に乗っちゃダメだよー?」


「………」


「いい子だから、こっちにおいでー!」



ピキッ―

パキパキッ―



「あああっ!コラッ!いい加減にしなさい!俺は怒るよ、スライムちゃん!

いいからこっちに来なさい!」


「……?!」



スライムは軽そうだから大丈夫かなと思っていたけど、

突然、卵からひび割れる音が聞こえてきて、思わず怒鳴ってしまった。

するとスライムは驚いて、跳ねるのをやめてその場で固まってしまった。

ちょっと大きな声を出しちゃったかな…。

そう思いながら卵の前まで行き、スライムと視線を合わせて、ゆっくりと手を差し出した。



「大きな声出してごめんね?でも、この子は卵の中で今、一生懸命生きてるからね。

飛び跳ねて、あんまり驚かせちゃダメだよ。だから、こっちにおいで?」


「………」



ピョンッ―



「お、冷たい!スライムちゃん、いい子だねぇ!じゃあ、ちょっと上に行こうかね。」


「行こー!」


「まったく…卵が割れなくて良かったが、このスライムはヤンチャだな。」


「そうですね、父上。でも、この卵の子が外に出るきっかけになればいいですね。」


「確かにな。もしかしたら、早まるかもしれんな?」



そっと手を差し出して「こっちにおいで」と言うと、スライムはしばらく考えたのち、

ピョンッと俺の掌の上に乗ってくれた。

俺はホッとして、ひとまず上に行こうと思い、ゆっくりと歩き始めた。

その後ろでは、ロウキとユキが「卵がひび割れたことで、出てくるきっかけになればいいね」と話していて、

それを聞いた俺は、そうなってくれると安心するなぁとも思っていた。


そして、このスライムは一体どこからやってきたんだろう?

十中八九、あの洞窟で誰かにくっついてきたんだろうけど…。

スライムの気配なんて、まるでしなかったんだけどなぁ。

スライムは無害すぎて、気配感知に引っかからないとか?!

なんていろいろ考えながら、掌に収まるスライムを見つめていた―…。


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