表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/123

42話 家に戻ったのでゆっくり温泉に入りましょう

ダンジョンから出た翌日、ようやく家に辿り着いた俺たち。

もう足はパンパンだし、服も汚れてるしでどうにもならず、

ひとまず俺は地下のお風呂に向かった。

…向かったんだけど、後ろからゾロゾロとついてくる足音が聞こえる。



「ちょっと…なんで皆付いてくるんだよ?!それに何でロウキまで付いてくるんだよ?!

しかも何で小さくなってるわけ?!」


振り返ると、クロとユキがいて、ロウキはいつもの威圧感を失ったミニサイズで、当然のように歩いていた。


「良いではないか。我も温泉とやらに興味がある。

普段の大きさでは狭いからな。体の調整だ。」


「ボスとは、いつもいっしょ。だから、おれも、いく。」


ミルまで当然のように風呂に向かってくる。

いや、君たち魔獣だよね?お風呂ってそんなに魅力的なの?


「いやいやいや…お前たちお風呂とか別に好きじゃないだろう?!」


「バカめ。我は風呂にも入れる特殊個体だ。」


「フェンリルにそんな個体がいてたまるかよ!」


「あるじ、おれ、はいっちゃだめ?」


「いやぁ、まぁいいんだけどさぁ…

ちゃんと体洗ってからお湯につかるんだぞ?」


「わかった。がんばる。」


「ロウキとユキもだぞ!体洗ってやるから、それから湯船に入れよな!」


「当然だろう!頑張って洗うのだぞ。」


「他人事だと思って!洗いやすいようにユキくらいになってみろよー!」


「…しょうがあるまい。洗う時だけ小さくなってやるわ。」


「いやもう…何なの君たち…」


一体この会話は何なんだろう。

何をどう考えたらこんな展開になるのか。

魔獣たちってこんなにコミュ力高めな存在でしたっけ?

それにお風呂に入る魔獣って…そんなことある?

そんなことを考えながら、仕方なく皆を連れてお風呂時間を過ごすこととなった。



「ふむ。これが温泉か。聖水を使用しているだけあって空気が澄んでおるな。」


「ワォンッ!」


「あるじ、いまから、なにすればいい?」


「ミル!これからこれで体を洗うんだぜ!俺が教えてやるよ!」


「わかった。」


「ロウキとユキは俺が洗うから、ロウキはもっと小さくなってよ!」


「ふむ。仕方があるまい。」


「あー…小さいと威厳も何もあったもんじゃないな?

ただただ可愛いだけじゃん。」


「やかましい。早く洗え。」


「はいはいー。トリマーさんになった気分だなぁ。

かゆいところはないですかー?」


「うむ。ない。」


地下にある浴室に辿り着くと、なぜか皆テンションが上がっていた。

こういうことが初めてなミルは戸惑っていたけれど、すかさずクロが手助けしてやっていた。

もうすっかりお兄ちゃん気分だな。

そんな様子を見た俺は、ミルのことはクロに任せて、

可愛らしいロウキとユキを担当することにした。

「もう少し小さくなれ」と言うと、ロウキは素直にユキと同じくらいのサイズになり、大人しく洗われていた。

人間用の石鹸だけど…まぁ、今日は仕方ないか。

自分と同じ大きさになった父親が嬉しいのか、ユキはずーっと側で尻尾を振っていた。

やばいな。俺、今すっごい癒されてる。


「はーい。じゃあ流すよー。」


ザバアアアンッ―


「……人に洗われるというのは意外と良いものだな。

これからは定期的に頼む。」


「えー…何でだよー…

はい、次はユキだよー。」


「ワオンッ!」


「わぁ! ブルブルしないでー!」


「主!俺もミルも洗い終わったぜ!入ってもいい?」


「ああ、大丈夫だよ。

っていうか、いつ見てもクロの尻尾の炎が消えないのが不思議だなぁ。」


「これは飾りみたいなもんかなぁ。でも一応お湯からは出してる!」


「あはは、可愛い可愛い。

…じゃあ俺も洗うから、二人とも入ってて。」


ロウキはよほど気に入ったのか、「定期的に頼む」と言って満足げにしていた。

続けてユキも洗ってやると、気持ちよさそうにしていて、

癒しって必要だよなぁと、しみじみ感じていた。

「先にお湯に浸かってて」と言うと、ロウキとユキはゆっくりと前足を湯船に浸けた。

その様子は、まるでトラやライオンが水浴びをしているような、そんな可愛らしさがあった。

体全体をお湯に浸けると、その温かさにすぐにハマった様子だった。

だけどね―…毛がね。すごいのよこれ。


「これが温泉…思っていた以上に体がほぐれるな。

これはやはり定期的に入る必要があるな。

魔法で綺麗にするより、癒しの効果がありそうだな。」


「まぁねって…あーあ…毛が…

まぁ、飼い主なんてこんな感じだよなぁ。」


湯船の表面にふわふわと浮かぶ毛たち。

これ、後で掃除するの俺なんだよなぁ。


「我の毛は、かき集めたら売れるぞー?高級な毛皮の出来上がりだ。」


「あ、本当?じゃあこれ、あとで掃除するから集めて乾かしてみようかな。」


「そうするが良い。特別だ。」


「フェンリルの毛を集められる人なんて、そういないもんなぁ。ラッキー!」


お風呂の中はすっかり毛だらけになってしまったけれど、

ロウキが「フェンリルの体毛は言い値で売れる」と教えてくれたので、まあ良しとした。

掃除は大変だけど…もう今日は何でもいいや。

俺も疲れてるし、ゆっくり浸かって、この疲れを癒してもらおう。

そう思いながら、湯気に包まれた時間を静かに楽しんでいた―…









「ふぁぁ…すっかり夜になっちゃったな。」


お風呂に入ったこともあり、俺たちは話している途中で一人、また一人と瞼が閉じていった。

エントランスホールで話していたこともあって、俺も座っていたソファーの上でそのまま眠ってしまった。

目を覚ますと少し体が痛かったけど、疲れは癒せたし、まともな場所で寝られたこともあって少しスッキリ。


俺のお腹の上で眠っていたクロをそっとソファーに寝かせ、

そのまま玄関を出てみると、優しく頬をすり抜ける風が気持ちよかった。

見上げた空には、大きな月が綺麗に輝いていて、

この静かな瞬間が、なんだか心地よく感じられた。


「さてと、皆が起きる前に晩御飯作りますかぁ。

そういえば、野菜が切れてたんだった。畑畑ー。」


キイッ――


「あるじ、おれ、おきた。どこいくの?」


「ミル。起きたのか。これから晩御飯の野菜を、すぐそこの畑に取りに行くよ。」


「おれも、いく。」


「助かるー。じゃあ行くぞー。」


夜風に当たりながら晩御飯用の野菜を取りに行こうとすると、ミルが当然のように付いてきた。

畑に着くと、俺は収穫する野菜を教えながら、ミルに声をかけた。


「あまり力を入れずに、優しくやるんだぞ。」


「わかった。」


「あれと、あれと、あと向こうの丸いやつもお願いな!」


「まかせて!がんばる。」


ミルは素直に頷いて、一生懸命教えた通りに収穫していた。

初めての作業が楽しいのか、魔物とは思えないほど丁寧に、

嬉しそうに動いていて何だか、すごく可愛らしかった。


きっとミルは、ずっとダンジョンの最上階で独りで暮らしていたんだろう。

誰かと一緒に何かをするなんて、なかったはずだ。

独りきりの生活の中でロウキと出会って、会話して、ボスと認めて…

ちょっと楽しくなってきたところで、ロウキが来なくなって、また独りきり。

それは突然の出来事だったから、きっととても寂しかったよな…。


そんな感情が生まれてから、またロウキの気配が復活して嬉しくて、

ずっとロウキを探していたのかもしれない。

ロウキの側にいたかったのと、ユキやクロと一緒に居たいって気持ちもあったのかな。

だから、あんなにあっさりと「従魔になる」と言ったのかもしれない。

ミノタウロスを仲間にするなんて、本当に予定外の出来事だった。

それに、今回俺はミルを癒してやれていないし、ミルの役に立てるかも分からない。

俺が主で大丈夫だろうか…。そんな不安も、少しだけあるけど。


「あるじ、ボスにだす、おりょうり、おしえて。」


「お?ミルは料理に興味があるのか?

じゃあ、一緒に夜ご飯作ってみようか!」


「つくる!」


子供のように懐いてくれているミルを見ていると、

護ってやりたいなって、自然と思えていた。

他のミノタウロスがどんな性格なのかは知らないけど、

ミルは心優しい大男。そんな印象だった。

ロウキのために頑張ろうとする姿は、とても愛らしい。

そう思いながら、俺は家の中へと戻った。


失敗もあるかもしれないけど、意外と器用だったりして?

そんな期待を胸に、キッチンへと向かった。

魔物と作る晩御飯か。なんか、それはそれで面白いな。

なんて思いながらミルとの初めての料理作りを楽しんだ――…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ