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40話 ダンジョンのボスには待っている人がいました

「ヨシヒロ、いいか?あのスライムは火が苦手だ。

火魔法を発動してみろ。」


「急に?!」


「いいから。ほれ、やってみろ。」


「うう…火魔法って何だよ…何とかボールみたいなやつか?

…ファイヤーボーーーールッ!!」



ドゴオオオオオッ!!



「わぁ!主の魔法が暴走してるー!!

火の玉が走り回ってる!!面白いなー!」


「ぎゃああっ!!消して!あの火の玉消して!!」


「ヨシヒロ、お前…威力はそこそこあるくせに、魔法の制御もまともにできんのか…。

ユキ、あれらを駆逐してきなさい。」


「ワオオオンッ!!」


ダンジョンの1階層を歩いて10分ほど経った頃、

俺の前に現れたのは下級魔物と呼ばれるスライムだった。

少し青みがかった透明なスライムは、誰でも倒せる魔物らしい。

だけど、俺にとってはそれすら難しい。

ロウキに「火魔法を使ってみろ」と言われ、思いつくままに魔法名を叫ぶと、

結構な大きさの火の玉が飛び出した。


だけど、どうやら俺にはコントロール能力が不足していたらしく、

火の玉はそこら中を暴れ回り始めた。

俺が慌てていると、ロウキはフッと息を吐いて火の玉を消し去り、

ユキに討伐を指示した。

ユキは何のためらいもなくスライムに向かって遠吠えをし、

ガブッと噛みついて、スライムの中心にある核を破壊。

見事に討伐すると、スライムが消えた拍子に小さなキラキラしたモノがコロンッと落ちた。


「それは魔石と言って、魔物を倒すと落ちるものだ。」


「ああ!これが魔石…小さいけど、キラキラして綺麗なんだな。」


「ダンジョンの中では討伐されたモンスターはダンジョンに吸収され消えるが、

外で討伐した魔物は実体を持ったままだ。だから魔物本体を金に出来る。」


「なるほどね。そういう風にうまいこと出来てんだ?」


倒した魔物から落ちたのが魔石だと教えられ、ダンジョンの中と外での

魔物の存在の在り方を聞いた俺は、またひとつ異世界の世界観を実感していた。

ダンジョン自体はすっごく嫌だけど、

自分が読んだりアニメで見てきたものに触れると、

多少なりとも興奮しちゃうんだなぁ。

なんて思いながら、魔物退治は皆に任せて、俺はのんびり歩いていった―…







「あ…あれがゴブリンっ……って、クロちゃん強い!尻尾で真っ二つにするとか怖い!!

って、何あのでっかいネズミー!!!クロ、後ろーー!!」


「大丈夫だよー!ダークファイヤー!」



ゴボオオオオオンッ!!



「うおおっ!クロちゃんすごいすごいっ!!」


「やかましい!少しは落ち着かんか。」


恐怖に打ち勝ち、なんとか1階層をクリアして2階層にやってきた俺たち。

そこには定番魔物のゴブリンがちらほら姿を見せていた。

するとクロはすぐさまゴブリンを襲撃し、尻尾を振って秒で討伐。

普段はゆらゆら揺れて可愛らしい尻尾が、さっきのはまるで刃物だった。

そしてその直後、クロの後方から突進してきたのは、大きなネズミ。

危ないと思って叫ぶと、クロは魔法を使って跡形もなく消し去り、魔石だけがキラリと輝いていた。


「主もそのうち俺たちみたいになれるよー。いっぱい練習しようね!」


「いや、クロちゃんや…俺はのんびり生活がしたいのよ。」


「でも魔物倒さなきゃお金ないから!頑張らなきゃ!」


「まぁ…そうなんだけどさぁ…もっとこう、楽にお金稼ぎを…」


「クロに諭されるとは、お前もダメだな。」


「ううっ…」


ロウキをはじめ、ユキもクロも立派にダンジョンで戦っている中、

俺はただ観客気分で、一つ一つのことに驚いては声を上げていた。

そのたびにロウキに「うるさい」と怒られてるんだけど…すごいもんはすごいのよ。


そう思いながら進んでいくと、ロウキの顔色が変わり、静かに辺りを見回した。

何かあったのか?なんて思っていると、近くのトンネルから強い魔物の気配が漂ってきた。

それは先ほどまで感じていた微弱な気配とは違い、明らかに格が違う。


「ロウキっ…あ、あれ!」


「ミノタウロス…あやつは普段10階層にいる魔物だが、なぜだ?」


「えっ、待ってくれよ!ダンジョンのボスが下りてきたってこと?!

ボスっていうなら絶対強いじゃん!!逃げよう!!」


「何を言っているんだ。どうせ10階層まで行くのだから同じことだろう。」


「いやいや!全然同じじゃないし!!」


トンネルからこちらに向かってきたのは、よく名前を聞くミノタウロスだった。

その右手には武器らしきものを持っていて、漫画で見たアイツとまったく同じだった。

なぜ最上階にいるはずのボスが2階層に?

まさかとは思うけど、これが理由でダンジョンに誰もいなかったんじゃ…?


そう思うと、早く逃げなきゃ!そう思ったけど、ロウキは戦う気満々で。

これは何を言ってもダメだ…

そう諦めかけたその時だった。

突然、ミノタウロスはその場にガコンッと武器を落とし、片膝をついた。

その姿はまるで王に跪いたような、そんな感じ。

いったいどういうこと? なんて思っていると、ミノタウロスがゆっくりと口を開いた。


「フェンリルさま…ふっかつ、まってた。おかえりなさい。」


「なぜ2階層にいる?お前は10階層の守護者だろう?」


「フェンリルさま、ふっかつのケハイした。だから、さがしにきた。

フェンリルさま、おれのボス。」


「お前…はぁ、そういうことか。だからこのダンジョンに人間がいないのか…。

初心者からすれば、低階層にボスキャラが現れたら怖くて近づけんわな…。」


「ロウキ?どういうことだよ?このミノタウロス、お前のことボスって…」


二人のやり取りを聞いていた俺は、ミノタウロスって喋るんだ…と単準に思った。

そんな中、ミノタウロスはロウキのことを自分のボスだと言い、

ロウキの復活を待っていた様子だった。

その理由がまったく分からなかった俺がロウキに訊くと、

ロウキは少し気まずそうに話し始めた。


「我は一時期、このダンジョンで暇つぶしをしていてな。

ここは夜に人間が入ることが禁じられているダンジョンで、

人間がいない時間を見計らって無双しておったら、懐かれた。」


「ええ?そんなことあんの?!ダンジョンで無双して遊ぶってあり?!」


「まぁ、暇つぶしだ。」


「フェンリルさま、またあそびにくる?」


「我は今、この人間の従魔だ。この男がここに来たがれば来るぞ。」


「にんげんの…じゅうま?どうして?」


「この男が我の呪術を解いて、我を解き放ってくれたのだ。

だから我も、我が子も、この男と共に過ごすことを決めたのだ。」


ロウキの口から飛び出したのは、

暇つぶしにダンジョンで遊んでいたら、ミノタウロスに懐かれたというまさかの理由だった。

そもそも、ダンジョンで遊ぶ魔獣って聞いたことないんだが…。


そう思って呆れていると、ミノタウロスはロウキとまた遊びたいのか、

「ダンジョンに来るか」と尋ねてきた。

するとロウキは、今は俺の従魔になっていると伝えた。

その瞬間、ミノタウロスの雰囲気がピリッと変わったのを、俺は見逃さなかった。

まずい展開なんじゃないの?!

そう思っていると、ミノタウロスはドスドスと俺の前にやってきて、立ち止まった。


「にんげん…おれも!!」


「ひぃぃっ!怒らないで!!」


「おれも、じゅうま、なる。」


「へ?」


「フェンリルさまといっしょ。だめ?」


「いやいや、ダメとかいいとかそういう問題じゃないだろ!?

このダンジョンのボスはどうするんだよ?!」


「ボス、いなくなったら、またうまれる。マソ、あるかぎり。」


「あー…そういうことね…。って言ってもミノタウロスだよ?

どうすんのよ、ロウキ…」


「良いではないか。こいつは大柄だが、気の優しい奴だ。

お前の力になってくれるんじゃないか?」


「えええ…めっちゃ適当じゃんか…」


ボコボコにされるかと思って咄嗟に両腕でガードした俺だったが、

ミノタウロスは突然「自分も従魔になる」と言い出した。

意味の分からないことを言われて戸惑った俺は、

「ダンジョンからボスがいなくなったら困るだろ」と言ってみたけど、

「魔素がある限り魔物は生まれるから大丈夫」と返されてしまった。


だからロウキに助けを求めたものの、

「気の優しい奴だから」とミノタウロスの味方をし始める始末。


「いやいやいや…えー…本当に?」


「ほんと。フェンリルさまといっしょ。

おまえのやくにも、たてる。」


「いやいや……デカいじゃんあなた。目立つじゃん……」


どうにか回避できればと思って、いろいろ理由をつけてみたけど、

まったく諦めてくれない。

そこで「大きくて目立つからヤダ」と、

子供みたいな理由で諦めてもらおうとした。

これならどうにもできないから、さすがに引いてくれるだろうと思った。


「知らんのか。従魔契約した段階で、お前の望む姿になれるのだぞ。

まぁ、我レベルになると、そんなものに左右はされんがな。」


「おれ、あるじの、のぞむおおきさに、なる。

だから、じゅうま、なる!」


「ううううっ…やめろよ、そんな希望満載の目で俺を見るのはぁ!」


大きさの問題は誰にも解決できないだろう。

そう踏んでいたのに、ロウキがとんでもない事実を教えてきた。

「契約したら俺の望む大きさになれる」って、意味不明なんだけど!?

そんなチートいらないんだけど!!


そう心の中で絶叫していると、それを聞いたミノタウロスは目をキラキラ輝かせた。

ダメだこれ。

もう無理なやつだよね。

うんって言うしかない状況だよね。

そう悟った俺は、諦めて大きなため息を吐き出した。


「分かりました…。はい、分かりましたよ。

じゃあ、あれですね。お名前をね、決めますので、少々お待ちいただけます?」

「まつ。なまえ、たのしみ。」


「ふぅ…またこの時がやってきてしまった…」


諦めて契約を結ぶと告げると、ミノタウロスは仁王立ちしたまま、大人しく待っていた。

そして俺の苦手な時間。名前を考える時間がやってきた。

ミノタウロスとは出会ったばかりで、何も思いつかないんだよなぁ。

名前をもじる形にしようか、それともカタカナでカッコいい感じにしようか。


なんて考えること数分。

ようやく名前が決まり、ミノタウロスに声をかけた。


「お待たせ。じゃあ契約するよ。

…我が眷属となりし者よ、この名を与える―…ミル。」


「おお…おれ、ミル。きょうから、ミル。

なまえ、おしえて、ボス。」


「俺?俺はヨシヒロだ。よろしくな、ミル!」


俺が決めた名前。それは「ミル」という名前だった。

なぜかその名前がパッと浮かんだから、それにした。

まぁ、響きってやつだな。

なんて思っていると、名前の理由を知りたそうなロウキが俺に訊いてきた。


「何故ミルという名にしたのだ?」


「え?思いつきなんだよね今回は。

ミルって名前が何かしっくりきたっていうか…

あれ、似合って…ないかな…?」


「まぁ…そうだな。強者というよりは可愛らしい名だが、まぁ、良いのではないか。」


ロウキに名前の理由を訊かれ、直感だと答えると、

可愛らしい方向だなと言いつつも、まぁ良いのではないかと合格点をくれた。

確かにカッコいい”からは遠ざかっちゃったな…なんて思っていたけど、

ミルはクロとユキに「おれのなまえ、ミル」と自己紹介していたので、

きっと気に入ってくれたんだろう。

そう、自分を納得させていた。


ひょんなことから仲間が増えちゃったな…。

契約を結んだ途端、ミルの体は俺より少し大きいくらいのサイズに変わった。

筋肉の厚みはそのままだけど、小さくなったおかげで連れて歩きやすくなったけど…。

まさか、ミノタウロスを仲間にする日が来るとはな…。

本当に、何が起きるか分からないものだ。

そんなことを思いながら、嬉しそうに笑うミルを見つめていた。


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