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31話 怒りの理由はとても悲しく、苦しいものでした

ロウキが怒っている姿を初めて目の当たりにした俺は、

やっぱり魔獣なんだなと実感していた。

でも、その姿すらカッコいい。

なんて思ってる俺は、どうかしてるな。


そんなことを考えていると、ロウキの表情が一瞬緩んだ気がした。

だけどすぐに、元の獰猛な魔獣の顔に戻り、イケオジへと言葉を向けた。


「よく我の前に顔を出せたものだな。」


「すまない、フェンリル殿…私は…」


「お前たちが我にしたことを、忘れたとは言わせないぞ!

三十年前、静かに暮らしていただけの我に、お前たちは何をした?!」


「フェンリル殿…

言い訳になってしまうが、あの頃の私は若く、国の政策に反対することすらできなかった…。

その結果、フェンリル殿に呪術をかけることになり…申し訳ないと思っている。」


「若い…都合のいい言い訳だな。

わざわざ我が弱体化する“新月”を狙い、呪術魔道具を使用して呪いをかけたのはお前ではないか。

それをなんだ。若いから政策に反対できなかっただと?よくそんなことが言えたものだな。」


「確かに…あの魔道具の開発を命じ、使用したのは私だ。

しかし、これだけは信じてほしい。私は―」


「言い訳は聞かぬ!!

お前たちのせいで、我の妻は日に日に衰弱し、我の魔力が枯渇した1年前に死んだ。

我の魔力なしには生きられぬ体だったのだ!

それでも生きた証を残したいと、最後の力を振り絞って我が子を宿した。

…我が子は奇跡的に妻の魂と念が重なり、護られた。

我の中で育ち、数ヶ月前の満月の夜に我の影から生まれた。

しかし…妻は帰っては来ぬ!」


「なんと…何も知らなかった…私は、なんという過ちを…」


「早急にこの場を立ち去れ!

今後、ヨシヒロや我が子、クロに何かしてみろ…

この大陸すべてを破壊する。」


二人の間には、何かあったのだろうと思っていた。

そして、ロウキの口から“呪いの鎖”をかけたのが彼だと知った。

そうか…。だからロウキはこの人を嫌い、殺してしまいたいほど殺気立っていたんだな。

そりゃそうだろう。

何もしていない自分が突然世界から敵視され、疎まれ、呪術をかけられて。

挙句の果てには、最愛の人を失っただなんて。

俺だったら、耐えられない。


だけど、このまま帰すわけにもいかないと思い、

ロウキの体をそっと撫でながら、相談を持ちかけた。


「ロウキ…お前の気持ちはよく分かった。

けど俺、ちょっとよく分かんないから、このイケオジ…この人と二人で話してもいいか?」


「なっ…」

「頼むよ。…少しだけ。」


「…仕方がない。少しだけだぞ。

おい、少しでもおかしな行動をしてみろ。その場で噛み殺すからな。」


「ありがとう。

あの、よければ中へどうぞ。」


「ああ。すまない。」


俺がこの人と話したいと言うと、ロウキはあからさまに嫌そうな表情を見せた。

それでもお願いすると、ため息を吐いたあと、少しだけだと許してくれた。


ロウキの気持ちを考えると、すぐにでもこの場から引き離すべきだとは思った。

だけどこの人は、異世界人として俺を助けてくれる“唯一の存在”かもしれない。

だから、一度は話をしないと。

そう思い、ロウキの目につかない城の中へと、彼を招き入れた。


「すみません…。ですが、ロウキの気持ちも、分かってやってください。」


「ああ…。あれは私の罪だ。償いきれるものではないが、どうか償うチャンスが欲しいと願っている。

そしてヨシヒロよ、突然の訪問を許してほしい。

女神アイリスから話があり、この世界の命を護る者として人間を転生させたと聞かされたのだ。」


「命を護る存在…ですか。」


「ああ。まずは私から話そう、ヨシヒロ。

私の名はアーロン。かつて、そなたと同じ日本人だった。

その時の名は緒方広輔。ごくごく普通の中年男だったよ。

しかし、幼い頃から体が弱く、病気がちでな。

ついには病に勝てず、倒れて死んでしまった。


その時、女神アイリスに拾われたんだ。『世界を平和に導きなさい』と。

そんな大それたことができるとは思わなかったが、もう一度やり直せるなら挑戦してみたいと思った。

だから私は、女神アイリスの提案を受け入れた。

その時、名をどうするかと聞かれ、『新しい人生を歩むのだから、新しい名を』と答えた。

目を開けると赤ん坊になっていて、そんな私を“アーロン”と呼んでいたよ。」


イケオジ改めアーロンさんは、自分がどんなふうに転生したのかを教えてくれた。

俺とは違って、世界を平和になんて、ずいぶん重たい責務を背負っての転生だなと思った。

それでも転生を選んだのは、前の人生でやれなかったことを、もう一度やりたかったからだろう。

そう思いながら、今度は俺が転生した経緯を話した。


「そうだったんですか…。俺は田中佳浩と言います。いわゆる社畜で、過労死です。

女神アイリスにモフモフ転生生活の話をされて、転生しました。俺、昔から動物が好きで。

この世界に出てくる生き物、疎まれる存在だとしても、好きだったんです。

それで、そういう子たちを救いなさいって。」


「そうか…。そのおかげで、あのフェンリル殿を救ってもらえたんだな。感謝する。」


「いえ…。まさかロウキの過去に、あんなことがあったなんて…。

解呪できて、子供も無事だったのが救いですが…」


重たい空気の中で俺の話をすると、アーロンさんは「君がいてくれたおかげでロウキを救えた」と、

少しホッとしたようだった。

本当にそうなのかは分からないけど。

あんな過去があったっていうのに、ロウキはそんな素振りをまったく見せなかった。

忘れようとしていたのか、話せなかったのか。それは分からない。


「国の決定と命令とはいえ、フェンリル殿の最愛を奪ってしまった。その罪は、一生消えないな。

私も前世では動物が好きでな。家では猫を3匹、小型犬を2匹飼っていた。

体調が良いときは、動物園にもよく足を運んだ。それほど動物が好きだったのに…

その好きな相手の最愛を奪っていたなんて…最悪だよ。」


「アーロンさん…」


「何度謝ったって、許されることはないだろう…。失われたものは、帰ってこない。」


どうやらアーロンさんは、俺と同じく生き物が好きだったようで、

自分がしてしまったことへの罪悪感と、そんな自分への嫌悪感でいっぱいの表情だった。

俺と同じタイプじゃないとしても、

相手の最愛の人を、自分が奪ってしまったという事実は、重くのしかかるだろうな。


だけど、この人は本当に後悔しているようで、悪い人には見えなかった。

さっき言っていたように、国の決定に逆らえなかったというのは、本当なんだろう。


だからといって、やったことの罪が軽くなるわけじゃない。

どんなに謝罪しても、ロウキとユキにとっては妻、そして母親を奪った男に変わりはないのだから。


そう思いながらも、俺がこれから生きていくうえで、アーロンさんの助けが必要だということは分かっていた。

悪人という感じでもないし、ロウキを刺激しないよう程よい距離感で付き合えたらいいな。

そう思いながら話をしていた。


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