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28話 畑で何を育てるか考えていたら、契約を迫られました

「この世界の野菜って、何があるんだ?」


クレオを唱える前に、どんな野菜が存在しているのか確認しようと思った俺。

クロやフェンリルに訊いてみたけど、

「野菜は食べない」と言われて、振り出しに戻った。


「じゃあ、こういう食べ物は見たことあるか?」


仕方がないので、今度は雑な絵を描いて二人に見せると、次々と答えてくれた。


「キャベツ!人参!トマト!」


「それは玉ねぎか?きゅうりというやつだな。」


「なるほど。名前は俺のいた世界と同じなんだな。意外すぎてビックリ!」


この世界でも食べ物の名前が前世と変わらないことに、ちょっと安心した俺。

その時、クロが「好きな野菜がある」と言い出した。


「ルビートマトってのが甘くて、果実みたいで美味しいんだぜ!」


「ああ。あれは我も好きだ。ごく稀に実の中にルビーが入っていたことから、

ルビートマトと呼ばれるようになったそうだ。」


「へぇ、ルビートマトか!今度、この森を出て街に種を買いに行ってみようかな。」


異世界ならではの食べ物に、ちょっと驚かされた。

実はトマトが苦手な俺だけど、ルビートマトなら食べられるかもしれない。


何はともあれ、まずは基本的な野菜を育てよう。

そう思い、頭でイメージしながら何度か「クレオ」と唱えてみた。

すると、数種類の種が生成できたので、早速植えてみたところ、

ものの5分ほどで、土を押しのけてニョキッと芽が出てきた。


「は?芽が出るの早くない?」


【魔法で生成された種は、少々特殊なものです。

その種と、完全浄化された土壌との相性は抜群です。】


「へぇ…。魔法で作る種って、特殊なんだ。」


【ただし、実がなるには24時間必要です。】


「そうなんだ。じゃあ、明日の今頃には収穫できるのかぁ。農家もビックリだな。」


どういうことかと思っていたら、エマが状況を説明してくれた。

魔法がある世界って、ほんと不思議なことばかりだな。

でもこういうの、楽しいじゃんね。


「エマとやらは、何と言っていたんだ?」


「なんか、魔法で作る種が特殊で、完全浄化された土壌と相性がいいらしくてさ。

でも収穫できるのは24時間後らしいんだけど、それでも早いよなって。

普通に種植えて芽が出て収穫って考えたら、早くても1、2ヶ月はかかるじゃん?

それが24時間で収穫って、ヤバくない?」


「まぁ、そうであろうな。そもそもあれだぞ。

転生者の魔法は、普通の魔法よりも“純度”が高いと聞く。

たとえ威力がなくても、元々の性能は普通の人間よりもはるかに優秀だぞ。」


「そんなの、初めて知った。」


俺が一人で納得していると、フェンリルがエマの言葉に興味を持ったようで、

何を言われたかを伝えると、俺のような転生者の魔法の純度が高いことを教えてくれた。

エマのように、いろいろ教えてくれるフェンリル。

長生きしてそうだし、物知りなのかもな。

そう思っていると、フェンリルはニヤリと口角を上げて言った。


「我は長寿ゆえに、世界のことを知っているぞ?

我がいた方が、今後の生活に役立つのではないか?」


「どういう流れだよ。」


「それに、我が息子もお前たちの側にいたいと言っておるぞ。」


「ええー…子供出すのはずるくない?」


ここにきて、従魔契約の話題を持ち出してきたフェンリル。

最終的には「子供が側にいたがっている」と言い始め、断りにくい状況に持っていった。

そして、俺の気持ちが揺れていることに気づいたのか、さらに言葉を続ける。


「今、お前が抱えているものの扱いも、お前とクロより、我の方が適任だぞ?」


「えっ」


「どうだ?契約する気になっただろう?」


「ぬぐううっ…お前なぁ…」


フェンリルは、もう一押しと踏んだのか、俺が抱えている卵やドラゴンについて触れてきた。

そして、自分の方が扱いに慣れていると言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべる。


何なの?この犬!ワンちゃん!

人間相手にここまで交渉してくるって、どういうことだよ。

そう思いながらも、段々と俺の心が折れていっていることには気づいていた。


それに、クロがフェンリルの子供から離れようとしないっていうのもな…。

離すのが可哀想って、思っちゃってる。


ああ、こうやって俺は流されていくのか……

なんて呟きながら、じっとフェンリルを見て、ため息を吐いた。


「はぁ…。何が何でも従魔になるんだ?」


「そう言っているだろうが。」


「従魔だぞ?フェンリルだぞ?」


「くどい!さっさと覚悟を決めて名を決めんか!」


「はぁ…分かったよ。じゃあ名前考えるから、ちょっと待ってて。

あ、子供も?」


「当然だ。息子だからな。カッコいい名で頼むぞ。」


「ああー…カッコいい名前ねぇ…期待しないで欲しい…」


再度フェンリルに確認すると、さすがに「くどい」と怒られてしまった。

もう俺の意思なんて関係なくて、フェンリルが契約したいからする。そんな流れになっている。


そういえば、俺は昔から押されると断り切れなくて、流されるタイプだった。

人間相手ならまだしも、フェンリルさんにもか。

そう思いながら、もう「嫌」とは言えない雰囲気の中で、名前を考えることにした。


それにしても名前を決めるって、本当に苦手だな俺。

でも、犬…いや、狼か。

犬系の名前って、食べ物由来が多かったりするよな。


そうするとだな…?

なんて考えても、まともな名前が出てこない。

そう思いながら、ふとフェンリルが呪いにかけられていたことを思い出した。


世界を滅ぼす魔獣だか何だか知らないけどさ…。

フェンリルが幸せになったって、いいじゃんか。

そう思った瞬間、ふっと頭の中に名前が浮かんだ気がした。


「契約ってどうすんの?また何か詠唱?」


「いや。単純に、我と息子に向かって『我が眷属となりし者よ、名を与える』とか何とか言って、名を呼べば良い。」


「めっちゃ適当じゃん!まぁ、やろうかしらね。俺の国、日本語で名前を決めたよ。」


「日本語?まぁ…良いだろう。さぁ、名を呼べ。」


「いくよ。

…我が眷属となりし者よ、この名を与える―…狼輝(ロウキ)

そして…(ユキ)。」


「ロウキ…ユキ…」


頭の中に浮かんだ言葉から、名前をつけてみた。

気に入ってくれるかどうかは分からない。

でもこれは、俺の願いでもあったから。


フェンリルとして疎まれるんじゃなく、輝いてほしいという願い。

そして、その子供には、生まれた運命の中で幸せを見つけてほしい。

そんな思いから考えた名前だった。


「どういう意味があるのだ?その日本語というのは。」


「えっとな、ロウキの“ロウ”はこういう字を書く。

これは“漢字”っていう種類の文字なんだけどな。狼って意味だ。

“キ”はこう書く。輝くって意味だ。疎まれる存在としてじゃなく、

純粋に“狼”、フェンリルとして輝いてほしかったから。

そして、“ユキ”の字はこう書くよ。幸せって意味だ。

フェンリルという運命を背負っていたとしても、

幸せになってほしいっていう俺の願いだ。」


「ほう…。まぁ、お前にしちゃあ、いい案だな。

そういえば、お前の名はなんという?」


「俺か?俺はヨシヒロ。よろしくな、ロウキ!ユキ!」


「ヨシヒロよ。その命が尽き果てるまで、側にいて守護してやると誓うぞ。」


「おう!」


「おー!よろしくなー!ユキー!」


「アオウウンッ!」


ロウキに漢字とその意味を伝えると、うんうんと頷きながら、

満更でもなさそうな表情をしていて安心した。

俺の願いが、ちゃんと届いてくれていたらいいんだけど。


親って、こんなふうにいろんなことを考えながら名前をつけていたんだよな。

そう思うと、胸がギュッとなるし、「ありがとう」って素直に思える。

だから俺は、この名前を捨てようなんて気にはならなかったんだ。


さてさて。なんだか奇妙な組み合わせになっちゃったけど…

これからどうするかなぁ。

とりあえず、この森を少しずつ開拓すべく、頑張りますか!

そう思いながら、大きく背伸びをした―・・・







「主!俺のクロはどういう意味で付けてくれたんだ?」


「えっ?!えーと…クロちゃんはねぇ…

漢字だとこういう字を書くんだよ。これは色を表す文字な。

黒は静かで落ち着いてて、でもどこか神秘的な色でそういう存在って感じがするだろ?

俺がこの世界に来て初めて見た生き物がクロだったんだ。

なんて可愛い生き物なんだって思っちゃったし、異世界の生き物って神秘的な生き物だなぁって思ったよ。

でもまぁ、クロの場合は名前に意味を込めるより、

クロ自身の雰囲気で呼ぶ方がしっくりくると思ったんだよ。」


「へぇ!よく分かんないけど主が付けてくれた名前だから俺は好きだよ!」


「そっか。それなら良かった!」

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