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26話 ようやく浄化が終わったら、呪いをかけられていた子がいたので解呪しました

あれから7日ほどが経った。

魔物管理室の卵とドラゴンの赤ん坊は、相変わらず何の変化もない。

だけど、命の鼓動はしっかりと聞こえる。だから、きっと大丈夫だと思う。


ドラゴンの赤ん坊については、傷が特殊なのか深いのか、まったく目を開ける様子がなくて心配になる。

エマいわく、ドラゴンに刻まれた傷はただの怪我ではなく、特別な剣で傷をつけられた傷らしく、

その傷が完全に治るには時間がかかるとのこと。


こんなにも可愛くて小さなドラゴンに、傷を負わせるなんて酷い奴め。

そう思いながらも、ドラゴンという存在が人々に恐れられる理由も分かる。

きっと襲われたり、壊されたり、いろんなことがあったんだろう。

それでも俺の元に来た以上は、ちゃんと面倒を見てやらなきゃ。そう思っていた。


「この森、なんだか空気がちょっと変わった?」


「そうだな!主が浄化し始めてから、綺麗になってきた!」


「今日で終わりそうだし、なんとか頑張りますか!」


「おうっ!」


この7日間で、湖の浄化はかなり進んだようで、森全体の空気も少しずつ変わってきていた。

エマによれば、湖の浄化は90%ほど完了していて、今日で作業も終わる見込みだという。

これでようやく、作物を育てられる。

そう思うと、楽しみで仕方がなかった。


畑仕事なんていつぶりだろう?

祖父母の家でよく手伝いをしていたっけなぁ。

そんな祖父母より先に逝ってしまったことを思い出すと、少し胸が痛む。

…って、いかんいかん。考えすぎた。



「前向きにー、前向きにいきましょー。」


前世のことを考えると、どうにも胸がギュッとなってしまう。

今は目の前の浄化作業に集中だ。

そう思いながら、懸命に浄化魔法を繰り出し続けた。







【湖の浄化、完全に終了しました。明日には作物を育てる環境が整うでしょう。

この浄化作業でレベルが100上がりました。

多少なりとも魔法の威力が向上する見込みです。】


作業を開始して6時間が過ぎた頃、エマから湖の浄化が完了したとの報告が届いた。

さらに、レベルが100も上がったという。

それだけ、この浄化作業が大変だったってことだろう。

魔法の威力も少し上がるらしい。

だとしたら、俺の魔法ももう少し役に立てるかもしれない。

そう思いながら、浄化された湖を静かに見つめていた。


「主ー!終わったのかー?」


「ああ!今終わったところだよ。これで明日から農作業に精を出せそうだ!」


「野菜とか育てるのか?」


「そうだな。あと、クロの好きな果実もちゃんと実るだろうから、楽しみだな。」


「楽しみ!ここの果実、本当に美味しいんだ!」


「楽しみだなぁ。とりあえずお腹空いたし、帰るか!」


「そーしよー!」


森の警備から戻ってきたクロに、浄化作業が終わったことと果実が実ることを伝えると、

嬉しそうに笑って、細長い尻尾をゆらゆらと揺らした。

なんか、そういうの犬みたいで可愛い。


そんなクロと一緒に城へ戻り、夕食前の軽食の準備をしていた時だった。

外から何者かの気配を感じた俺は、恐る恐るキッチンの窓から外を覗いた。

そこには、以前助けた狼の子供が、尻尾をゆらゆら揺らしながら、

誰かを待つようにちょこんと座っていた。


「クロ、あの狼ってこの前助けた子じゃないか?」


「あ、本当だ!俺たちに会いに来たのかな?ちょっと行ってみようぜ!」


「あ、ちょっと待てって!」


クロは狼を見るなり、すぐにエントランスホールへ飛び出し、扉を開けて外へ走っていった。

俺も慌てて後を追いかけると、狼の子供と無邪気にじゃれ合うクロの姿があった。

ああ、なんて可愛らしい光景。癒しの瞬間だな。

そう思っていたその時、

突然ゾッとするような大きな気配を感じて振り返った。


「え…なに、このデカイの…」


「あ、主マズイ!この子、狼じゃなくてフェンリルだった!!それ、親だ!」


「えええっ!?狼じゃないの?!フェンリルって、結構ヤバイ魔獣じゃないの?!

クロ!早くこっちに来なさい!逃げるぞ!」


振り返ると、そこには像よりも大きな体をした“もふもふ”…じゃない、

鋭い眼光のフェンリルが、俺を睨みつけていた。

クロはハッとして、「狼じゃなくてフェンリルだった」と叫び、俺は唖然とした。

慌ててクロを呼び寄せ、城の中に避難しようとしたその瞬間、

クイッと服を引っ張られ、背筋が凍った。

フェンリルが前足の爪で、俺の服を引っかけて動きを止めたらしい。


ど、どうしよう……。

フェンリルって、見た目は可愛いけど、獰猛な魔獣だよね?

このままじゃ、俺とクロはやられちゃうんじゃ!

そう思いながら恐る恐る振り返ると、フェンリルの後ろ足に、

大きくて重そうな鎖が巻き付いていることに気づいた。


「え…何あれ…。罠にハマったとか?」


【あの鎖は“呪いの鎖”です。

フェンリルの力を恐れた何者かが、呪術用の魔道具を使用して封じたと推測されます。

その呪いを解く方法は現状では不明ですが、あなたの“Angelic Hand”なら可能と推測。

助けるつもりがあるのであれば、やってみる価値はあるかと思います。】


「俺の…手?」


鎖について考えていると、エマがその正体を教えてくれた。

呪いの魔道具なんて、初めて見た。

このフェンリルは、何かしでかしたのか?

人々に恐怖を与えたのか?

そう考えていると、エマがさらに説明を続けた。


【この世界でのフェンリルは、世界を滅ぼす力を持つ魔獣として恐れられています。

そのため、強力な呪術魔道具によって、その力を封じたと推測されます。

ましてや、この領土に存在しているということもあり、危険と判断するのは妥当です。】


「そうか…」


エマの推測は、おそらく正しい。

フェンリル自体が“厄災”とみなされ、人々は自分たちの安全を守るために魔道具を開発し、その力を封じた。

それは、間違ってはいない。

ここは人間が暮らす世界。自分たちの生活を守ろうとするのは、ごく自然なことだ。

それは分かっている。


でも、こんなにも小さな子を抱えて生きているこのフェンリルが、本当に“厄災”なのか?

そんな思いが、ふと胸をよぎる。

それは、俺がこの世界をまだ知らないからなのかもしれない。

だけど……俺は、助けたいって思ってしまったんだ。


「なぁ、クロ。助けてもいいと思うか?」


「主のやりたいようにやればいいよ!前の主も、きっと同じことすると思う!」


「そっか。じゃあ、やってみるな!」


一応、クロにもどうすべきか聞いてみたけど、俺の“やりたいように”って言ってくれた。

これが正しいことなのかは分からない。

でも、目の前で苦しんでいる子がいるなら、俺は助けてしまう性格なのよ。


「フェンリルさんや…ちょ、ちょっとごめんね?」


「ガルルルル…」


「大丈夫…俺は傷つけたりしないから。」


フェンリルの爪をそっと服から外し、ゆっくりと後ろ足へと近づく。

迫力のある唸り声で俺を威嚇するフェンリル。やっぱり、迫力満点だな。

そう思いながら、鎖にそっと手を当て、静かに祈りを捧げた。


「大丈夫だ…俺が助けてやる。・・・Angelic Hand!」


唸るフェンリルにそう囁きながら祈ると、掌がじんわりと温かく、いや、むしろ熱くなっていく。

しばらくすると鎖が光を帯び始め、徐々にヒビが入り、最後には…

パリンッ。

音を立てて砕け散り、鎖は綺麗さっぱり消え去った。


「ふぅ…終わった。これでもう呪いは解けたぞ。

お前は自由だ。ちゃんと子供を護ってやれよ。じゃあな。」


「ガルルルルッ……」


無事に呪いの鎖が解けたことを確認した俺は、クロと一緒に城の中へ戻った。

あいつ、最後まで威嚇してきたな。

まぁ、人間が憎いのも無理はないか。


それにしても、Angelic Handを初めて使ったけど、なんだかすごく体力を消耗した気がする。

あれって、もしかして女神アイリスの癒しの加護とかが付与されてるのか?

…まぁ、よく分かんないけど。とりあえず、フェンリルの親子が無事だったのは良かった。


「主ー、サンドイッチまだー?」


「はいはい、ちょっと待ってねー。」


キッチンに戻ると、クロはテーブルに座って、軽食のサンドイッチの到着を待っていた。

そんなクロに催促されながら、急いで仕上げて食卓テーブルまで運ぶ。

今日は、なんだか良いことをした気分で、とても心地よかった。


もし、世界にとって最悪の選択だったら…と思うと、変な汗が出てくるけど。

でも、あの小さなフェンリルには、あの親が必要だ。


これからは、暴れずに穏やかに暮らしていってくれたらいいんだけどな。

そんなことを思いながら、のんびりと過ごした―・・・



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