24話 扉の中から命の鼓動が聞こえました
「最後はこの扉だな。ここは?」
「そこは魔物管理室だよ。
前の主は怪我した動物とか魔物、魔獣を助けて保護してたから。
今はもう何もいないと思うぞー。」
「へぇ、そうなのか。動物が好きだったんだなぁ。なんか、俺と似てるのかも?」
三つある部屋の最後は“魔物管理室”らしい。
クロの話によると、前の家主は生き物を分け隔てなく大切にしていたようで、
怪我をした魔物や動物を保護していたという。
そういうところ、俺と似てるのかも。
妙な親しみを感じながら、扉をゆっくり開けた。
「おお…」
扉を開けると、数個の檻と、ずらりと並ぶ書物。
タイトルは動物や魔物、魔獣に関するものばかり。
デスクの上には書きかけの観察日記らしきものが置かれていて、
中を少し覗くと、怪我の箇所や経緯、経過観察などが丁寧に記されていた。
本当に、大切に保護していたんだな。
そう実感しながら部屋を見渡すと、もう一つ扉があることに気づいた。
その扉を開けた先にあったものに、俺は目を見開いた。
「これ…卵?それに、このガラスの中にいるのって…」
「ここは、親に捨てられた卵とか人間が盗んだ卵とか赤ちゃんを保護してた部屋だよ。
主がこの城を復元したことで、俺みたいに命が復活したみたいだな。」
「えええっ!?じゃ、じゃあこの卵…今育ってるってこと?」
「育ってるだろうなー。卵の下にある魔法陣は、温めるためのやつだから。」
部屋の中には、大きな卵が二つ。
魔法陣の上に置かれ、そこからは確かに生命の息吹が感じられた。
しかも卵だけじゃない。
透明なガラスの容器の中には、まるで人形のように可愛らしい生き物が眠っていた。
「クロ…このガラスの子は?」
「この子はドラゴンの赤ちゃんだぞ。なんだったっけ?
あ、そうそう。主が死んじゃう少し前に保護した赤ちゃんでさ。
怪我がひどかったから、このガラスに回復魔法を付与して回復させてたんだ。
回復薬が全然効かなかったみたいでさ。
でも、主が死んじゃって、その機能も止まっちゃったんだろうな…。」
「そういうことか…。」
ガラスの中で眠っていたのは、真っ白な皮膚に薄い青色のたてがみを持つドラゴンの赤ん坊。
その存在理由をクロから聞かされ、また命を復活させてしまったことに、少し複雑な気持ちになった。
そりゃ、この子たちにとっては良かったのかもしれないけど…。
こんなことになって、大丈夫なんだろうか?
そんな不安がよぎる。
「主、見て!ちゃんと命が復活してるよ。呼吸してるだろ?」
「わぁ…ほんとだ。いい子にして眠ってる…って、この子たち、どうすんの?!」
「どうするって…主が育てるしかないよ。この子たちの親は、もういないだろうし。」
「マジか…」
クロは、この子たちの命が繋がったことが嬉しいのか、愛おしそうな目で見つめていた。
その姿に温かい気持ちになりかけた俺だったが、現実にハッと戻る。
育てるって…俺が?卵の中身も分からないし、ドラゴンなんて規格外すぎる!
【あなたが望んだ行為です。全うしてください。】
「うううっ…」
俺の躊躇を察したのか、エマが無機質な声で言い放った。
ぐうの音も出ない。
そうさ、確かに言ったさ。
でも、実際に目の前にすると、戸惑うもんなんだよ…。
そう思いながら、しばらくの間、卵とドラゴンの赤ん坊を見つめていた。
◇
「主ー。明日は湖の浄化に行く時、森の中探検しない?」
「え? いいよ。どこか行きたいとこあるの?」
「特にないけどー。主と自堕落な生活を送るって決めたからな!探検しないと!」
「はは、なんだそれ。まぁ、それもいいなー。二人で探検しよーか。」
「決まりな!楽しみ!」
魔物管理室でだいぶ体力を使った俺は、1階の寝室へ移動してベッドに寝転がった。
隣にはクロのベッドがあって、いつも一緒にいたんだなぁと微笑ましく思った。
今日一日で、俺はどれくらい魔力を使ったんだろう?
そんなことを考えていた時、クロが「明日は探検しよう」と誘ってくれた。
俺が「いいよ」と答えると、クロは翼を広げてクルクルと回りながら喜んでいて、
その姿がとても可愛らしかった。
世の中の悪魔って、みんなこんな感じなのか?
いや、多分クロが特殊で、人間好きで寂しがり屋なだけだろうな。
こんな生き物たちに囲まれて生活するのは、前世の俺の理想そのものかもしれない。
とはいえ、正体不明の卵とドラゴンの赤ちゃんかぁ…
どうすればいいのか、正直分からない。
まぁ、それは明日また考えよう。
前と違って、今は時間が“永遠”ほどあるんだから。
そう思いながら、窓から入る優しい風に包まれて、ゆっくりと眠りについた―・・・




