17話 果実を取りに出かけましょう
「主、腹減ったな!」
「その“あるじ”って呼び方、変える気なーい?」
「え?じゃあ何て呼ぶ?」
「俺はヨシヒロって名前だけど、どうする?」
「ヨシヒロ?変わった名前だなー。」
「そうか?まぁ、俺転生者だからな。この国のニュアンスとは違うかもな。」
大きなイベントをひとつクリアした気分の俺は、少し満足していた。
するとクロが「主、主」と連呼するもんだから、変える気はないのかと聞いてみた。
クロは首を傾げながら「じゃあ何て呼べばいい?」と尋ねてきたので、
自分の名前を伝えると「変わった名前だな」と言われた。
転生者だからな、と答えると驚いた表情を見せた。
「え?主は転生者だったのか!何で転生したんだ?」
「それ聞いちゃう?働きすぎて体壊して死んじゃったってやつさ。」
「えっ…そうなのか…もうダメだからな!働きすぎは!
また死んじゃったら困るから!これからは自堕落な生活をしような!主!」
「自堕落って…ま、それもいいよな。
とりあえず、お腹を満たせるようにどうにかしよ!」
俺が転生者だと伝えると、クロは理由を尋ねてきた。
素直に答えると、彼の表情はみるみるうちに暗くなっていった。
そして、「また死んじゃったら困るから」と言って、
自堕落な生活をしようと笑ってみせた。
“自堕落”って単語、悪魔には妙に似合うな。
そう思いながら、お互いの空腹をどう満たすか考えた。
外はもうすぐ暗くなる。危険かもしれない。
でも、この城には食べ物なんてなさそうだし、一度出てみるしかないか。
「クロ、この森について詳しい?食べ物が取れる場所ってある?」
「あるぜ!このすぐ近くに果実がたくさんなってるエリアがあるんだ!行ってみる?」
「お、行こ行こ!」
この辺りのことは、きっとクロの方が詳しいだろうと思って尋ねると、
果実が取れる場所があると言うので、一緒に向かうことにした。
この世界に来て数時間、いよいよ初めての冒険って感じだ。
武器も装備も何もないけど…大丈夫だよな?
少し不安だけど、いざとなったら無限に使える魔法でどうにか切り抜けてみせる!
そう自分に言い聞かせながら、クロの後に続いて荒れた森の中を進んでいった。
「なんかこの森、すっごく嫌なオーラを感じるな。」
「そうだろうなー。俺でもちょっと気持ち悪いぜ。
前の主がいた時は、定期的に浄化してたんだ。
この森は負の感情が集まりやすいからってさ。」
「そうなのか?じゃあ、それって俺の仕事?なんか領主らしいし。」
「そうかもしれないなぁ!力がついたら、やってみてよ。」
「分かった。この雰囲気は嫌だから、ちょっと頑張ってみるわ。明日な。」
森を進めば進むほど、空気は重く、気持ちが悪くなっていく。
クロにそのことを伝えると、負の感情が集まりやすい森だと教えてくれた。
前の主、偉大だった魔法使いが定期的に浄化していたらしい。
その人はもういない今、俺がこの城の領主らしいし、俺がやらなきゃいけないのかもしれない。
まぁ、それは明日の話だ。今はとにかく、食事が優先事項。
そう思いながら、果実のある場所を目指して歩みを進めた。