14話 はじめまして、こんばんわ
勝手にAIにエマと名付けて満足していた俺は、
グゥッと鳴った腹の音でようやく空腹に気づいた。
そりゃそうだ。
この世界に来てから、何ひとつ口にしていないんだった。
「飯だな。まずは飯の確保だ。とは言っても…」
空腹はいいとして、問題は食料の調達。
この辺りは見た限り森しかなかったような?
木の実や果実を探すしかないか?
なんて考えていたその時、グウウッと腹の虫の音が響いた。
もちろん、俺のじゃない。
誰もいないはずなのに、なぜか聞こえるもうひとつの腹の音。
慌てて辺りをキョロキョロしていると、背中にじんわりと温もりを感じた。
この感触は、そう。俺が寝そべっているときに感じる、ペットの犬や猫のぬくもり。
何故だ?何故そんな感触が?
そう思いながら、手を後ろに回してみると、ムニュッとした不思議な感触が。
「・・・え?」
「・・・え?」
「なにっ…?!」
「新しい主か?オマエ!」
「え?」
「新しい主なんだな!オマエ!」
「えええ?な、なに?!」
ムニュッとした感触に驚いて手の位置を変えると、少し硬い。
まるで革製品のような質感の何かに触れた瞬間、
俺の背中から声が聞こえて、さすがに慌てた。
何だ何だと思っていると、
「新しい主か?」と、嬉しそうな声が響く。
主って何?そもそも何が喋ってるんだ?!
そう思って、背中から無理やり引っ張り出すと、
そこには、トカゲとドラゴンを混ぜたような、黒くてとんでもなく可愛らしい生き物がいた。
コウモリのような翼、クリッとした金色の瞳、うねる二本の角。
体は細かい鱗に覆われ、尻尾の先には炎が灯っている。
こ、これは…異世界の生き物じゃないの?!
思わず興奮してしまった。
「君は誰だい?どうしてここにいるのかな?」
「俺は、この家の主の使い魔だった悪魔だぞ。」
「え?あ、悪魔なの?こんなに可愛いのに?」
「主が死んで、俺も死んだと思ったのに…。目を開けたらオマエがいた。
だから、今日からオマエが俺の主でしょ?」
「えええ?」
ひとまず正体を尋ねてみると、
この可愛らしい生き物は、以前の家主の使い魔だったらしい。
そして、主が亡くなったことで自分も死んだと思っていたと語った。
どういうこと?
そう思っていると、エマが静かに答えをくれた。
【目の前の生き物は、ディアボロス・リザードという種類の悪魔です。
使い魔は通常、契約が終了するか主が死亡すると自由になります。
ただし、契約によっては主の死と同時に命を失う場合もあります。
このディアボロス・リザードは後者です。
ですが、死後も魂はこの場に留まり続けたのでしょう。
あなたの魔法、そして癒しの手がこの子の魂を包み込み、この子を復活させたのです。】
「・・・え。死者の蘇生ってことか?
それって、結構マズイんじゃ…。よくある禁忌の術じゃないの?!」
エマの説明によれば、この子は一度死んでいた。
そして、俺の魔法と癒しの手によって蘇ったらしい。
明らかにやってはいけない術を使ってしまった気分だ。
癒しの手って、死者の蘇生までできるのか?
だとしたらちょっと怖すぎる。
そう思った俺は、思わず拳をギュッと握りしめた。