13話 AIに名前を付けましょう
「やっぱ、ちゃんと復元すると空気も違うな。
こんなに綺麗だったのに、なんで誰も直そうとしなかったんだろ?」
【この城は、魔法使いが特別な魔法を編み込んで生成したものです。
復元には膨大な魔力を必要とし、普通の魔法使いでは魔力が枯渇し復元不可。
何度も時間をかければ良いというものではなく、
一度修復の手を止めると、すべてが元に戻ってしまいます。
さらに、外観と内装の復元は別々に行う必要があり、そのため修復は諦められていました。】
「はぁー…なるほど。そりゃ無理だわ。
じゃあ俺、結構頑張ったんじゃん?」
今までどうして誰も城を修復しなかったのか、不思議だった。
王族が管理してるなら、使えばよかったのにってそう思っていたけど、
AIの説明を聞いて納得した。
魔力無限の俺じゃなきゃ、復元なんて出来なかったんだ。
でも、魔法使いはどうしてそんな厄介な設定にしたんだろう?
復元されたくない何かがあったのか?
もしそうなら、俺はやってはいけないことをしてしまったのでは?
「え…大丈夫かな、これ。ちょっと不安になってきた。」
簡単に復元できないようにしていた理由があるのかもしれない。
そう思うと、少しやらかした気がして、気持ちが沈んだ。
もし本当に復元を望んでいなかったとしたら…
俺はその人の意思を、踏みにじってしまったのかもしれない。
この城…本当に、復元してよかったんだろうか。
そんな不安を抱いた瞬間、AIがまるで俺の気持ちを汲んだように、静かに呟いた。
【家主が復元を望んでいなかった場合、
この城そのものを破壊していたでしょう。
そうしていないということは、家主が想いを誰かに託した可能性があります。】
「想い、ねぇ。」
会話のキャッチボールはできないはずなのに、
まるで俺の感情が届いたかのような返答だった。
そのときふと思った。
AIって呼ぶのは、この世界には似合わない気がする。
でも、女神の名で呼ぶのも違うし、恐れ多い。
「んー…何がいいかな。」
名づけをしようと思い立ったはいいけど、何も浮かばない。
呼びやすくて、この世界に合うような名前。
AIだからアイ?いや、安直すぎるか。
もっと、この世界に馴染むような、そんな名前がいい。
そう考えながらふと見上げると、破れた絵が飾られているのに気づいた。
その絵の下には、何か文字のようなものが書かれていた。
「えっと……エマ?・・あとは読めないな。
よし、じゃあエマにするか。」
【・・・・・・】
何の絵かは分からなかったけど、唯一読めた文字がエマだった。
なんてセンスのない決め方だと思ったけど、エマなら呼びやすいし、悪くない。
そう思いながら、俺は一人で勝手に名前を決めて、勝手に満足していた。