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100話 祈りの花を探しに出発します

「お邪魔します、ガーノスさん。」


「よう。待ってたぜ。今回はとんでもない依頼を押し付けちまって悪いな?」



ゲートをくぐると、すでに待機してくれていたガーノスさん。

「悪いな」と言いながらどこか笑っていて、絶対に悪いと思ってないな!と感じたのは、きっと俺だけじゃないはず。



「今回は俺たちも探したいと思ったので、大丈夫ですよ。」


「なんだ?会いたい相手でもいるのか?」


「ユキが、母親に会いたいって。」


「お…そうか。そりゃそうだな。一度も会ったことないって言ってたもんな?」


「はい…あるじさまに無理を言ってしまいました…」


「ユキ、そういうのは我儘のうちに入んねぇから、心配すんな!」


「ありがとうございます…」




ガーノスさんに、ユキが母親に会いたいという願いがあると伝えると、

あの強面がふっと優しい顔になって、申し訳なさそうにしていたユキの頭をそっと撫でた。

ガーノスさんも人の親だし、ユキの気持ちをちゃんと分かってくれたんだろうな。



「セドラから聞いたんですけど、東に100キロくらい行った山に咲くとか咲かないとかって。」


「ああ。妖精の住処って呼ばれてる山があってな。毎年そこに探索隊を出すんだが、全然見つからなくてな。

死者との対話ができるっていうのが本当かどうかも分からないが、もし本当にあるなら、誰しも会いたい奴がいるだろう?

見つけてやりたいっていう、アーロンの気持ちもあるんだよ。」


「俺に見つけられるといいんですけどね…さすがに未知すぎて、自信はないです。」


「まぁ、今回の依頼はさすがに難易度高すぎだもんな。

でも、あれだ。見つからなくてもアーロンは責めたりしねぇさ。

元々、誰も見つけられてないんだからな。」


「今回は絶対に見つけたいんで、ちょっと頑張ります!」


「ユキのためにも、見つかって欲しいもんだけどな。

16日まで、あと一週間ほどある。

明日にでも出発してくれるか?」


「分かりました!では、戻ってきたらまたご報告に来ますね!」


「ああ、いい報告を待ってるぜ。」



ガーノスさんから聞いた話は、セドラから聞いた話とほぼ同じだった。

精霊の住処が本当にあって、その村に咲いているとか、さすがにそういう話は出来なかったけど…

アーロンさんの想いも聞いた今、気合を入れて探さなければと思いながら一度ゲートをくぐって家に戻った。


今回の依頼、見つからなくてもアーロンさんは怒らないと言ってくれたけど、どうにかして見つけたいな。

ユキの願い、この地の願いを叶えたい。

この世界来てからずっと皆に頼りっぱなしの俺だから、どこまで出来るか分からないけど、

少しでも可能性があるのなら、探したい。

そう思いながら、旅支度を始めた―…。










「シンゴ、行くの?パッパとマンマと一緒?」


「そうだよー。今回はシンゴも行くよ。

ルーナとシンゴは一緒に来てくれた方がいいかもって思って。皆は留守を頼むね。」


「分かりました、ヨシヒロ様!あっくんとモモの子守は任せて!

気をつけて行ってきてくださいね!」


「いつもありがとう、ガーネット。頼りにしてるよ。」



今回、同行してもらうメンバーはロウキ、ユキ、クロ、シンゴ、ルーナ、ラピス。

ミルも連れて行こうと思ったけど、「妖精を怖がらせちゃいけないから」と自ら留守番を申し出てくれた。

本当に心優しきミノタウロスだよなぁ、ミルは。そういうところがすごく好き。

でも、家に残ってくれるのは安心かもしれない。

何もないとは思うけど、万が一に備えてミルがいてくれたら、皆も心強いだろうからな。



「それじゃあ、行ってきますか。」


「いってらっしゃい、ヨシヒロ様!」


「あるじ、きをつけてね。」


「パッパー!」


「マンマー!」


「あはは、じゃあよろしく頼むな!」



出発の準備が整ったところで、皆に「行ってきます」と伝え、セドラの鉱山に繋がるようゲートを設定してくぐった。

あっくんとモモが俺を呼ぶ姿に胸がギュッとなったけど、こればかりは仕方がない。

後ろ髪を引かれる思いで手を振り、ゲートをくぐった俺たちは、セドラにも挨拶をして、今度は王都に繋がるよう設定を変えて再びゲートをくぐった。



「あの山は割と険しいからな。魔物も多いし、気をつけろよ?」


「魔物…」


「こやつを鍛えるにはちょうど良い。せいぜい魔法の練習をするんだな。」


「ううっ…この鬼教官め…!

って、今回も馬とか運転手さんありがとうございます。助かります。」


「いいってことよ!今回はうちの馬が出払ってるからな。全部アーロンとこのやつだ。」


「え?それはまた…絶対に怪我させないように連れて帰りますね…。」


「はは、大丈夫だろうよ。まぁ、とにかく気をつけて行って来い!」


「はい!では、行ってきます!」



ゲートをくぐり、ガーノスさんに馬と運転手の準備のお礼を言うと、まさかの王家の馬だった。

絶対に怪我をさせないよう、細心の注意を払って走ってもらおうと心に誓った瞬間だった。

そして、相変わらずロウキは鬼教官で、魔物が出たら俺に退治させようとしているのが分かり泣けてきた。

俺は皆よりもはるかに弱いし、絶対に討伐は無理なの分かってて言うんだから、ほんと酷い男だよ…。


なんて思いながら王都の外に出ると、アーロンさんの人造体と、綺麗な毛並みの白い馬が一頭待機してくれていた。

馬ねぇ…やっぱりこの先、俺のところにも必要になってくるのかもしれないな。

今度、ガーノスさんに馬の取引先を知らないか聞いてみよう。

そう思いながら人目につかない場所まで移動して、「Arca Magnaアルカ・マグナ」と唱えて馬車を取り出し、セッティングした。



「パッパ!抱っこ!」


「あああっ!シンゴ!出てきちゃダメだろ?見つかったらどうするんだよー!」


「ピィッ!抱っこ!!」


「ったくもう…!

それじゃあ、行こうか。運転手さん、お願いします!」



いざ乗り込もうとしたところで、ロウキの毛の中に隠れてもらっていたシンゴが、ひょっこり顔を覗かせた。

まだ飛べないのに、小さな翼をパタパタさせて抱っこをせがむ赤ん坊。

慌てて周りを見回して誰もいないことを確認してから、シンゴを抱っこすると、呑気に笑っていた。


君は自分がどれだけ貴重な生き物か、分かっていないようだね?

なんて言いながら、人造体の運転手に「お願いします」と声をかけた。

コクリと頷き馬車が出発すると、早速窓を開けろと言わんばかりに暴れるシンゴ。

世の中の小さなお子さんを連れて歩いているお父さんお母さんは、本当に尊敬する。

何を言っても聞かないし、何かに夢中になるとそればっかりだし。

ここにあっくんとモモが加わったらもうね、地獄なのよ。そう、一人で愚痴っていた。



「子育ては楽じゃないな?パッパ?」


「ロウキ!からかうなよー!

っていうかロウキもちゃんと面倒見ろよなー!全員で家族なんだからな!」


「我はシンゴを毛の中で良い子にさせておったがな?」


「ぬぐぐっ!!こんちくしょーめ!」



俺が心の中で愚痴っていたのが伝わったのか、行動が物語っていたのか、ロウキは目を細めてニヤニヤと俺をからかった。

なぜ、なぜいつも俺はロウキに遊ばれるんだ!そう思いながらため息を吐きだすと、ユキに乗ったクロが言ってくれた。



「主はいつも頑張ってるよ!俺、見てるからー!」


「そうですよ!あるじさまは、いつでも立派ですから!」


「クロー!ユキー!ありがとなー!

息子を見習えよ、この鬼!!」


「なっ…我はオーガではなくフェンリルだ!」


「知ってるよ!そういう意味じゃないわ!ったくもう…」



ロウキに弄られている俺を見て、クロとユキはすかさずフォローしてくれる。

いつもそうだけど、クロもユキも俺をいつも褒めたおしてくれるから、泣けてくる。

一方でロウキとは、いつもこうして口げんかのようなやり取りが勃発する。

それが嫌とか、そういう気持ちは一切なくて。家族っていいなぁと、いつも感じていた。


だからこそ、家族の願いはなるべく叶えたいって思うわけで。

達成することは厳しいだろうけど、どうにか妖精たちと話ができれば…

そう思いながら、窓の外の景色を眺めていた―…。


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