1話 人生の終わりのお知らせ
「今日も癒されるなぁ。」
田中佳浩35歳。今日も鬼残業の末に無事に帰宅完了。
時刻は真夜中の3時。
ようやく帰宅できた俺は、ほんの少しでも癒されたくて、漫画に手を伸ばした。
やっぱり癒されるのは、この世界に実在する動物たちと、空想の世界に生きる生き物たち。
明日は会社全体が休みを取らざるを得なくなり、奇跡的に休みになった。
ドッグカフェに行ったり、フクロウカフェに立ち寄ったり…
癒しの時間に、一日をまるごと捧げよう。
そう思いながら、気づけば漫画を握ったまま眠っていた──…。
「……あれ、もう朝か?」
あれから、どれくらい経ったのだろう。
鳴るはずの目覚まし時計は沈黙したまま。
けれど、妙な感覚に襲われて目を開ける。
今、何時だ?
そう思った瞬間、目に映ったのはいつもの天井ではなく、真っ白な世界だった。
訳も分からず身体を起こして辺りを見回すと、どこまでも続く白い景色。
出口らしきものもない。これは夢の中なのか?
だとすれば、早く目を覚まさなくては。
今日はせっかくの休日だし、癒しの時間に一日を捧げるって決めたのだから。
そう考えていた矢先、背後から聞こえてきた声。
「目を覚ましましたか?」
「え?」
「私は魂の番人、アイリスです。
あなたを迎えに来ました。共に新しい世界を旅しませんか?」
「へ?……あの、あなたは誰?夢の中?」
振り返るとそこには、白いワンピースを身にまとい、背中に翼を持つ金髪の女性が立っていた。
まるでアニメのキャラクターが現実に飛び出してきたかのような姿。
突然「迎えに来た」と告げる彼女に困惑し、「夢か?」と問うと、彼女は静かに首を横に振った。
そして、衝撃的な事実を口にする。
「いいえ、これは夢ではありません。
あなたは先ほど、過労による心疾患で命を落としました。
今は、あの世との境界の空間にいます。」
「…はぁ?何言ってんだよ。俺はさっき寝ただけだぞ?
それに、死んだって…嘘だろ?」
「嘘ではありません。では、こちらをご覧ください。」
彼女の言葉を信じられずに声を荒げる俺。
そんな俺を前に、彼女は指をパチンッと鳴らした。
すると真っ白な空間に、突如としてテレビのような映像が現れた。
「ええっ…ちょ、ええ?何だよこれ…」
そこには、病室で白い布を顔にかけられた誰かの姿。
そして、それが自分自身だと気づくのに時間はかからなかった。
遺体の前で泣き崩れている両親、弟、そして恋人。
彼らの泣き叫ぶ姿を見れば、嫌でもそれが自分だと分かってしまう。
…そうか。
俺は…死んだのか。
突然知らされた人生の終焉に、ただ呆然と立ち尽くすばかりだった。