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ニートの結末


 マンションに止めてあった車に乗り込んだ二人は、隆志の運転で郊外にある高級フレンチ店に向けてひた走る。

 その車内では終始甘い空気が流れていたが、高速道路に乗った中程で強い衝撃に襲われた。


「な、なんだ……つ~……睦実! 睦実!!」


 いきなりの事であったから隆志も何が何だかわからない。

 ただ、助手席にいる睦実の頭から血が吹き出しているのだからそんな事を言っている場合ではない。


「クソッ! 足が……睦実! 起きろ~~~!!」


 隆志も血が流れ、足は座席とハンドルに挟まれていては身動きが取れない。

 いくら怒鳴っても睦実は起きないので、隆志は聞こえるかどうかもわからない他人に助けを求めた。


「残念ながら、井上隆志。お前の命はここまでだ」


 そこに、冷淡な声が聞こえた。

 隆志はそれでも助けを求めようと右を向くと、割れた窓の外にはトレンチコートを着た男が立っていた。


「助けてくれ! 事故にあったみたいなんだ!!」

「聞こえなかったのか? この事故は俺達が起こした物だ」

「はあ? そんな冗談言ってる場合じゃないだろ! このままでは睦実が死んでしまう!!」

「藤原睦実。井上隆志の協力者。主にネットニュース担当。外国を経由しても、わかる物はわかるんだよ」

「なんだと……」


 ついに隆志の理解が追い付く。

 これは事故では無く、暗殺だと……


「だ、誰の差し金だ……」

「さあな~? 日本政府に居た誰かとしかわからん。もしくは、恨みを買った全員の意志かもな」

「ちょ、ちょっと待て。それ、どうするんだ??」


 トレンチコートの男はタバコを吹かした後、オイルライターの火をつけたままゆらゆらと揺らすのだから、隆志はその先がわかってしまった。


「事故に火災は付き物だとだけ教えてやろう」

「待て! 俺達、何十億も持ってるぞ? それで命を買わせてくれ!!」

「そういうワケにはいかなくてな。公僕ってのは上の指示に従うだけだ。お前も知ってるだろ」

「待った! 睦実だけでも! ぎゃああぁぁ~~~!!」


 トレンチコートの男は聞く耳持たず。

 無情にもオイルライターは投げ込まれ、車はあっという間に炎に包まれたのであった……






 ピッ……ピッ……ピッ……と電子音だけが鳴り響く部屋。

 その部屋には呼吸器に繋がれたニット帽の男しかいない。

 動きが少ないから時間の感覚もわからないような部屋だ。


 その部屋のドアが開くと、背が低い40歳半ばの女性が入って来た。


「井上さん。点滴を交換しますね~」


 この女性は看護士。

 手慣れた手付きで点滴の袋を取り替えると、男の手を握りながら声を掛ける。


「井上さん。今日はビッグニュースがありますから、テレビをつけましょうね」


 看護士は映像が流れたら男に聞こえているかと問い掛けた。


「ほら? 井上さんの起こした事件がついに実を結んだんです」


 テレビの画面には、与党議員が総辞職のニュース。

 財務省も分割する事を総理大臣が発表して深々と頭を下げていた。


「でも、遅いですよね。222人ですよ? 222人のニートさんが焼身自殺して、やっと声が届くってね。あ、ニートさんじゃなかった。氷河期世代の被害者でしたね。ウフフ」


 この時、男は薄らと意識が戻り、こんな事を思っていた。


(あっちが夢……睦実が死な無くて良かった……)


 井上さんと呼ばれた男……いや、2025年の春に焼身自殺をした井上隆志は、与党議員総辞職の3日後に息を引き取るのであった……



                終  劇



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