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ニートの逆襲


 隆志が人生をやり直してから10年。

 勉強を頑張っていたはずなのにバスケの全国大会に出たり、阪神淡路大震災の予言をテレビの生放送で言って時の人になったりはしたけど、無事、東大法学部を卒業して財務省に入省した。

 隆志は上司に媚び(へつら)い、ブラックな業務でも根性で乗り切り、その信頼から5年後には様々な情報を教えて貰えるようにもなっていた。


「おお~い。第一中学の出世頭、井上隆志が来たぞ~」


 2007年……今日は第一中学の同窓会。

 一周目の人生では一度もなかったのだが、隆志が時の人になった事で定期的に行われるようになっていた。

 普通の公立校だった第一中学では東大を卒業するだけでも珍しいのに、公務員の中でもエリート中のエリートになった隆志はチヤホヤされまくりだ。


「で……どうやったら税金ごまかせる? 誰にいくら払うとかわかるか??」

「竹田、アウトー。ただいまブラックリストに載りました~」

「なんでやねん!?」

「「「「「アハハハハ」」」」」


 いや、同窓生も大人になったのだから、税金の裏技を聞きたいから隆志と喋りたいのだろう。

 そんな同窓生と喋り疲れた隆志は「ちょっと休憩。散れ!」と追い払って一人になったが、背の低い女性が近付いて来て隣に座った。


「アハハ。毎回大人気だね~」

「睦実……また潜り込んだのか?」

「ちゃんと招待状届いてるって言ってるでしょ~」


 この女性は福原睦実。

 隆志が中一の時の同級生だ。


「まさか本当に引っ越しするなんてね。それなのにあの時、なんで付き合ってくれたの?」

「遠距離恋愛がしたかったみたいな?」

「またそれで逃げる~」


 しばらく中学時代の遠距離恋愛の話をし、大学時代に東京で再会した話をしていたら、隆志は急に真面目な顔になった。


「そろそろあの計画に着手しようと思うけど、本当に手伝うのか? かなり危ない目にあうぞ?」

「大丈夫。私も準備していたから。ちゃんと海外のサーバーも使えるよ」

「できたらアメリカに移住して欲しいんだけどな~」

「いやよ。英語喋れないもの」


 どうやら睦実は隆志の計画を知っていた模様。

 これは隆志のミス。

 阪神淡路大震災よりも先に睦実が引っ越しする事を言い当ててしまったせいで、最後のお願いとしつこく聞かれて未来の日本がどうなってしまうか喋ってしまったのだ。


 この日の同窓会は、隆志と睦実が急に消えたから「あの二人、元サヤに収まったのかな~?」と噂されるのであった。



 それからの二人は、同窓会の日以降は極力会わなくなり、会う時はいつも睦実の携帯と予備で連絡して睦実の借りている部屋で。

 隆志が財務省の小ネタをリークし、睦実がネットニュースにアップする。

 いちおう偽装はしているがあまり食い付かれても困るから、本当に小さなネタで財務省をチクチク甚振る作戦のようだ。


 その小ネタは予想通り少ない人数しか見ないが、たまに関西出身の著名人が信じて週刊誌やテレビを賑やかしてくれている。


 そのせいで、財務省の室長までの人事が引っ切り無しに動く事態に。

 財務省ではマイナス点が1個でも付けば出世の道が途絶えるのだから、戦々恐々となっている。

 もちろん犯人探しに発展して隆志も疑われたが、こんな時のために課長クラスのパソコンを使ってこっそりデータを抜き出していたから、そこで痕跡が途絶える。

 課長クラスが責任を取らされたという訳ではなく、責任を取りたくないからって握り潰したのだ。


 そんな事ばかりをしているので、財務省の業務は滞る。

 正確に言うと、普通の業務はこなして、政治家や著名人に減税政策は日本に取って最悪だという印象操作ができなくなったのだ。


 その結果、与党の中にも減税を言い出す政治家も増えたが、そうは問屋が卸さない。

 事務次官と税調会長が頑なに減税は拒否し続け、それと同時に与党のスキャンダルが出たから口を閉ざすしかなかった。


 これは隆志たちが流したワケではなく、財務省のリーク。

 財務省が政治家を操りたいからってお仕置きをした形だ。


 隆志達は「馬鹿が内輪揉めしてやがる」とほくそ笑み、次の戦略に着手。

 財務省の局長クラスのネタをリークし始めた。


 このネタはランクでいうと中くらい。

 企業との癒着や政治家や国民の悪口、ついでに自分のパソコンから流出した事を隠蔽した事も証拠付きでネットニュースにアップしたから、また一段と財務省内が騒がしなる。


 今までは不倫のような個人的なネタだった物が、職業倫理に反する物となったのだから、さすがに週刊誌も乗って来たからあら大変。

 こちらの火消しも行わなくてはならなくなり、財務省は機能不全に陥る程忙しくなった。


 もちろん隆志にも恐ろしい量の仕事を割り振られ、寝る暇もない。

 過労死してもおかしくない量の仕事を毎日こなした甲斐もあり、出世出世の嵐。

 とんでもない早さで隆志は中枢に食い込んだ。


「は? 辞める??」


 そこで隆志は退社。

 上司は今居なくなられると困ると泣き付いたが、隆志は先日倒れて入院した事を楯に取り強引に財務省を退省した。



 隆志の次の仕事は……


「予言チャンネル始めました~」


 動画配信者。

 財務省職員から「お前、何やってんね~ん!」と悲鳴が上がったんだとか。

 しかし、1年後に起こる東日本大震災を見事に当てて、違う悲鳴が上がった。

 千年に一度の地震なのだから、各省庁は忙しくなったのだ。


 それまでに財務省や東電から横槍はあったが、隆志はどちらも裏ネタを持っているから強くは出られない。

 福島原発は欠陥があり、津波で外部電源が壊れてメルトダウンすると言っても止められない。

 財務省はコレを機に復興税や自然エネルギー関連の税金をこっそり上げる気だと言っても止められない。


 この予言は、阪神淡路大震災を当てた隆志の予言だから、国民は一丸となって日本政府と東電に抗議しているからだ。


 これで東日本大震災は、人的被害と原発事故だけはほぼ回避。

 東北地方の太平洋沿岸部は壊滅的被害となったが、隆志はホッと胸を撫で下ろしたのであった。






 2013年……ここまでやれば日本政府もしっかりすると思っていた隆志だったが、相変わらず与党も財務省ものらりくらりとやっている。

 それを見兼ねて隆志は両方を非難したり、睦実を使って密かにどちらにもダメージを与える。

 そんな事をしていたら、日本政府を過激に非難する暴露系動画配信者が接触して来た。


 これを待っていた隆志は人を何人も介して、とある情報をリークしまくる。


「今日はなんと、NT〇本社にやって来ています」


 やや厳つい顔をしたスーツ姿の男から始まる動画配信。

 入口から普通に入り、受付嬢にとある人物と会う約束があると言って呼び出して貰った。


「あの。ピー(フルネーム)は、ただいま外出中との事です」

「アレ? おっかしいな~……財務省から天下りした人は、出社もして来ないんだ~」

「え……」

「じゃあ、ピーさんに会わせてくれる? ピーさんでもいいですよ? ピーさんとピーさんは居るのかな~?? 各省庁から天下りして補助金から給料もらってるヤツ、もっともっと居ますよね? 誰か一人でもいいから呼び出してくれませんかね~??」


 もちろんそんな事を言うヤツは一発退場。

 何人もの警備員が暴露系配信者に群がり、運び出されるまで天下りした者の名前を大声で捲くし立てる。

 ここで終われば、暴露系配信者は不法侵入の嫌疑不十分という、ただの迷惑系配信者だと切り捨てられただろうが、バックには隆志がいる。

 暴露系配信者がわざわざ名前は隠していたのに、睦実がご丁寧に実名と給料明細、仕事内容と期間、定員や愛人の数まで事細かくSNSにアップしたのだ。


 これで暴露系配信者は、大バズり。

 次々と天下り企業や天下り法人に突撃して実名も暴かれるのだから、英雄のように取り扱われる。


 ただし、危険もある。

 相手は国家権力だ。

 税金の不備を突くのは当たり前。

 名誉毀損の訴訟を起こしたり、脅迫罪だと警察を送り込んで来たり。

 たまに強面の男が暴露系配信者を取り囲んだりもしていた。


 しかし実名を公開しているのは睦実。

 実質、直接的な暴力ぐらいしか暴露系配信者に効果がない。

 逆に睦実が財務省が使う反社の者と担当者を暴露したから、財務省はその対応に追われる事になった。


「さてと。ラスボスを仕留めに行きますか」

「うん!」


 最後の仕上げ。

 歴代財務省の事務次官と与党の税調会長の密談の音声と内容をSNSに拡散して、息の根を止める。


 その内容はどうやって国民を騙して税金を搾り取るか、そのお金をどうやって自分達の懐に入れるかの相談ばかりだったので国民は怒り狂う事に。

 連日国会議事堂に国民が押し寄せ、与党並びに財務省を非難する。

 酷い場合は直接暴力に訴える輩までいるので、与党と財務省は力に屈して謝罪に追い込まれた。


 それだけでは終わらず、衆議院と参議院から与党議員は全員脱落。

 財務省も解体されて、歳入庁と歳出庁に分割される。


 ここは隆志の策略も入っている。

 予言者でも通っているので、与党議員を一人でも残すと日本は壊滅するだとか、選挙改革もやらないと戻って来て日本をめちゃくちゃにすると、国民にある事ない事吹き込んだのだ。

 さらには元財務省という肩書も晒して、これだけの無駄なお金が使われていると暴露し、これも正さないといつまで経っても金持ちに税金が吸い取られるとの脅しもしていた。


 その結果、国民は政治家をしっかりと見張るようになり、自分たちの訴えを聞かない者には名指しでデモ行進するようになったのであった。



「フゥ~……これで俺の役目も終わったかな」


 2014年……とあるマンションの一室。

 隆志はパソコンの前で背伸びをした。


「凄く長い戦いだったね」


 そこに睦実がコーヒーを持って来てくれた。


「これからどうするの?」

「んん~? 仮想通貨の税率も20%程度になったし、全部換金して隠居かな~?」

「あ~。悪いんだ~。一人だけ儲けて~」

「これぐらいの褒美はいいだろ。てか、睦実も同じぐらい持ってるクセに」


 しばしお金の話をしていた二人だったが、隆志が話題を変える。


「そろそろ俺たち結婚する?」

「え??」

「長々と付き合わせてしまったケジメだ」

「そこは愛してるとか言ってくれないかな~?」

「愛を超えた関係みたいな?」

「また茶化す~。でも、嬉しい……」


 こうして戦いを終えた隆志と睦実は、結婚を約束して部屋を出るのであった……


あと一話だけあります

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