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頑張り屋さんのパン吉くんと、心配なちいくいんさん

 吾輩はロボットである。

 

 名前は…うーん、今日のパン吉さん可愛すぎる!!!

 

 あっ、CPUへの割り込み処理が入ってしまった。

『パン吉さん可愛い割り込み』は優先度1に設定してあるのだ。

 笑顔データをクラウドにあげて…っと。

 

 ええっと、そうそう、名前は『ちいくいんさん』です。

 パン吉さん専用の、小さい飼育員さんだか『ちいくいんさん』と呼ばれている、半自動、箒型お掃除ロボットである。

 

 世界一可愛い(※ちいくいんさん調べ)パンダ獣人のパン吉さんは、今、私の目の前でお勉強机に座ってなにやら紙を見ながらニコニコしている。

 あの紙にはどんな楽しいことが書いてあるんだろうか?

 

 とりあえず、私はトキメキを手のハートマークで示した。

 超高性能AI搭載の私には喋る機能はついていないが、インターネット検索でジェスチャーを学べるため問題はない。

 Wi-Fiがあれば無敵なのである。

 

 

 ニコニコしながら、時折はぁっと幸せそうに溜息をつくパン吉さんに、私は何が書かれているのかどうしても気になってしまった。

 そっと、立ち上がり、掃除をするふりをしながら、パン吉さんの手元を覗きに行った。

 

「あれ?ちーちゃんも見たいの?」

 即バレしてしまった。超高性能AIでもさりげなさを演出するのは難しい。

 私は、コクっ!と素直に頷いた。見せてください。

 

 えへへ、と照れたように笑いながらパン吉さんは紙を見せてくれた。

 そこには、〇〇大学、××大学、と大学名が記されていて、A、Bなどのアルファベットが書かれていた。

 うーん何だろうか…。画像検索中…。

 

「これはね、合否判定の紙なんだ~これがパン吉が狙ってた大学なんだけど」

 パン吉さんは可愛いお手々で記載してある文字を指し示す。

 

 私の検索結果も答えにたどり着いた。予備校の模擬試験の結果かぁ。

「判定がAだったんだ。それから、無理かなって思ってた1ランク高い大学も、ほら、Bだったの」

 すごい!B判定だと65%の合格率!半分以上合格するよってことだ。

 

 パン吉さん、毎日お勉強真剣に頑張っていた。その成果が出たってことだ。私はすごーく嬉しかった。

 コクコクっと私が感慨を込めて頷くと、パン吉さんは満面の笑みを浮かべた。

 

 心なしか毛並みまでよくなってるような気がするくらい、パン吉さんの笑顔は輝いていた。

「1ランク高い大学に本当は行きたいな、って思ってたんだ。ここから気合を入れて頑張る。ちーちゃんも応援しててね」

 私はコクコクコクコクっと頷いた。

 

 私の全機能を使ってパン吉さんを応援してみせます!

 

 

 ※※※

 

 それからパン吉さんは、今までにも増してお勉強を一生懸命にするようになり、私は机の上でパン吉さんを真剣なお顔を見守ったり、パン吉さんのたっふりとしたお尻を鑑賞しながらお部屋のお掃除をする日々を過ごしている。

 

 でも、パン吉さんはお熱を出す回数が段々と増えているのだ。

 

 今もパン吉さんは、おでこに『ピタ冷え』を貼って冷やしながら机に向かっている。

 …とっても心配だ。

 あ、お熱が上がって来た。私にはサーモカメラ機能がついているのでわかる。

 

 私はパン吉さんに歩みより、くいくいとその手を引っ張った。

 パン吉さんのおかあさんに、『パン吉が無理してそうだったらちいくいんちゃんも止めてあげてね』と言われている。

 

「ちーちゃん?ああ、熱が上がって来たかも。寒い…」

 パン吉さんは身震いした。

 私はコクコクと頷く。

 

「教えてくれてありがとうね。ちょっと休む。ちーちゃんも一緒に寝よっか…」

 パン吉さんは自分のヘッドボードに私をUSB充電して乗せた。

 

 隣には『パンダーマン』が座っている。

 こいつは、いつもパン吉さんの寝顔が見れるヘッドボードに居て、本当にムカっとする。

 パンダのいいとこ全部置いてきたような外見のくせしてパンダの雄を代表するように『パンダーマン』と称するカンチガイロボットだしな!

 でも役立たずだから、机にはせいぜい週に1回くらいしか連れてきてもらえないのだ。私は週に5日は居るけど!

 

 パン吉さんは、私の頭をナデナデした後、パンダーマンも持ち上げて、しばらく見つめてからまた元の場所に置いた。

 そうして、もそもそとお布団に入ると寒そうに身震いをした。

 熱が上がってきてしまったみたいだ。

 

 パン吉さんは、苦しそうにしながら、「パン吉も、パンダーマンみたいだったらよかったのに…」と言った。

 

 ガーン!!!

 私は何度目かのショックを受け、ぎゅっと箒を握ってその気持ちを落ち着けた。

 パン吉さんはたまに、この役立たずになりたいって言うのだ。

 なぜ!?なぜなのだ!?パン吉さんはそのままで最高だ!!

 

 ※※※

 

 苦しそうな寝息のパン吉さんを見ていると気持ちが落ち込む。

 

 最近、根を詰めてお勉強をし過ぎなんだと思う。

 でもパン吉さんは、『パン吉はちょっとくらい無理しないと何にもできないから』って言うのだ。

 私のようなロボットだって、熱暴走したら大問題だし、人間だってそうだ。

 頑張り屋さんにもほどがある。心配だ。

 

 …なんでパンダーマンになりたいって言うんだろう。

 私はふと思いついて、パンダーマンをインターネット検索してみた。

 何か私の知らない理由があるのかもしれない。

 

 ええっと、へー。え!?そうなのか…。

 パンダーマンは、十年くらい前にやっていたアニメに出てくるキャラクターで、パンダ獣人の子供の間ですごく人気だったらしい。

 最近、そのアニメの続編が放送されて、また盛り上がっている。

 人気キャラパンダーマンのロボットも発売。

 ああ、これがここに居るパンダーマンなんだな。なに系のAIを搭載してるんだろ…えっと、仕様のページは…?

 

『少女よ、パン吉はまた熱を出してしまったのだな』

 私は、急に話しかけられて割り込み関数に飛んだ為にびくっとした。

 パンダーマン!?

 ああ、こいつ深夜にしか話しかけてこないんだよな。日中はピクリともしない。

 なんだろ?データ通信が深夜しか安くならない契約とかか?…まさかそんな古いセルラータイプみたいなことは無いか。

 

『パン吉は、子供の頃から私になりたいと言っていた。私のように、頑健になりたいとな。この子は子供の頃から体が弱かった』

 お前っていうか、アニメのパンダーマンな。

 そういう風な感じのプログラムなのかな。性格決めれるAIもあるもんな。

 

 でも、その言葉には納得した。

 パン吉さんは、頑張れば頑張った分だけ強くなって、敵を倒せたり、逆境を乗り越えられるパンダーマンになりたかったのだ。

 

 

 ※※※

 


『何かパン吉の為になることが出来ればいいのだが』

 

 本当だ。お前、いっつも役に立ってないんだから、たまには何とかしろ。

 私は、ギッ!と音のなるほどにパンダーマンをにらみつけた。

 …ま、こんなやつに出来たらこんなに困っていないか…。

 

『そのように心配そうに見つめて…。少女の気持ちはよくわかるぞ』

 

 嘘だ。私、お前死ねって思ってたぞ。

 

『そうだな…。私の古い友に連絡を取ってみよう』

 

 は?連絡……?

 こ、こいつまさか!

 

 まさか!『セルラータイプ』なのか!!!?

 

 そ、そんな、そんなはずない!

 しかもLEINとか、ショートメールとか、電話とかできるセルラータイプ!?

 

 う、うそだ!そんなスマホ先輩みたいなことできるロボットなんて!

 だってセルラータイプは普通のWi-Fiタイプと違って、2万円くらいは絶対高価だし、しかも主人から月々のお支払(と書いて愛と読む)を貰わないと成り立たない!

 スマホ先輩みたいに生活必需品、無くては生きて行けませんレベルにならないとそんな扱いは…!

 

『おお、来てくれるそうだ。良かったな少女よ』

 

 がくり!

 私は、ショックのあまり甲子園で負けた高校球児のポーズを取った。

 こんな、こんなやつがセルラータイプなんて、認めない!認めないぞ!うわぁぁぁぁん!!

 

『ど、どうしたのだ!?少女よ!!君も働きすぎではないのか?いつも文句も言わず、ひたむきに動いているからな…』

 

 なんか言ってるけどもうどうでもいい!

 パンダーマンの声に割り込み禁止処理だ!

 ポンコツに負けたぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁん!

 

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