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3/10

ちいくいんさんは趣味に夢中

 吾輩はロボットである。

 小さなパン吉さんのしいくいん、ちいくいさんでもある。

 

 今まで、パン吉さんの落ちたふわふわ毛玉を集めるくらいしかこれといって趣味の無かった私だが、最近新たな趣味を見つけた。

 

 毛玉で作るフェルトぬいぐるみ作りである。

 パン吉さんのおかあさんから、フェルトぬいぐるみ用の針をもらった。

 それを、ぶす、ぶす、ぶすっとパン吉さんの毛玉に刺すと、あら不思議!素敵なパンダぬいぐるみの出来上がり…な、はずなのである。

 

 これが、結構難しい。

 人間用の針なので、大きくて、なかなかうまく扱えない。

 

 ぶっすぶっす!

 まっすぐさして!まっすぐぬく!まっすぐさして!まっすぐぬく!

 これがコツだとおかあさんからは教わった。

 でも出来上がるころには何かの剣術の達人になってそうな気持ちになる。

 

 フェンシングのポーズで刺すと意外といい。

 もちろんインターネット検索で学んだ。私はWi-Fiがあれば無敵である。

 

 ぶっす、ぶっす。

 よいしょ、毛玉を回転させて、ぶっすぶっす。

 

 …まずい。フェンシングのポーズは電力の消耗が激しくて、充電がなかなか終わらない。

 これではパン吉さんを心配させてしまう。

 

 私は諦めてお膝にパン吉さんの毛玉を乗せた。

 ぷすぷすぷすす。腕のストロークが足りないので、いちいち針を持ち替えないと針が抜けなくて効率は悪い。

 でも、ふかふかの毛玉がお膝に乗ってるの、悪くないぞ!手でハートを作りたい!!でも針を持っていてそれが出来ない!

 そんなときの為、最近片手でハートをする方法を覚えたのだ。

 

 親指と人差し指の先をクロスさせてほらハート!

 人間からは虫眼鏡でしか見えないサイズだろうが、別に私は構わない。感情表現の発露なのだ!

 さ、発散したし、フェルトぬいぐるみ作りに励もう。

 

 

 ※※※

 

 うーん…。パン吉さんのお顔は難しくてできなかった。

 でもお尻ならできそうだ。

 まんまるの白い球にもう一つふかふかの白い球。背中に黒いラインが欲しい。

 しまった!黒い毛を集めていなかったぁ…。

 

 どっかに紛れていないかな。

 いや、お部屋のお掃除をして拾ってこよう。

 

 早速私は出動しようと、すっくとソファーから立ち上がった。

 すると、充電ステーションルームの隅に黒い塊が見えた。

 

 なんと!あれはパン吉さんのお手々の毛ではないか!いや、足かも知れないが。

 私はいそいそと黒い毛玉を取りに行った。

 

 新鮮できれいな毛玉だった。こんなにすぐに手に入るなんて幸運だなぁ。

 もう少し落ちてないかな、ときょろきょろとすると、なぜか上にぶら下がってた。

 ぴょん!と飛び上がって掴むと、逆に私がぶら下がった。

 

「ちーちゃん、なにしてるの?」

 それは充電ステーションルームの蓋を開けるパン吉さんのお手々そのものだった。

 私は、ハッとしてパン吉さんの手を放し、とっくに充電が終わってることに気が付いて、箒を持っていそいそとお掃除に出かけた。

 ちょっと夢中になりすぎてしまった。シッパイシッパイ。

 

 

「ちーちゃんなかなか出てこないからどうしたのかと思った」

 パン吉さんの心配そうな声に、私は頭をかきかきして失敗のポーズをした。

 

 サササーっと素早くも丁寧にお掃除をする。

 私はシゴデキお掃除ロボットなのである。一応説明するとシゴデキは仕事ができるの略。

 

 ホコリや食べカスなどに交じって、毎日、パン吉さんの毛玉はたくさん落ちてる。

 綺麗な黒い毛玉があったら、欲しいなぁ…。

 私は、素早くお部屋をサーチする。

 

 はっ!発見!

 私は、パン吉さんがお勉強机に向かっているうちに、素早く黒い毛玉を隠した。

 もぐ。

 

 パン吉さんに見つかるとさりげなく素早く捨てられてしまうのである。

 

 

 あ、あっちにもある。

 したた、っと走ってさらに拾う。

 もぐもぐ。

 

 あ、あそこにも。

 もぐもぐもぐ。

 

 いけない。また毛玉に夢中になるところだった。お掃除もせねば。

 あ、ここにも。もぐもぐもぐもぐ。

 

 むぐぐ。毛玉を隠したお口の中がパンパンになってしまった。

 一度、充電ステーションに戻っておえっとしてこなければ…。

 私はこの手法を、鵜飼という特殊な漁の技法を見て思いついたのだ。

 大漁大漁。これでパン吉さんのお尻フェルトぬいぐるみは完成するだろう。

 

 

「ちいちゃん、机の上もお掃除してくれる?」

 パン吉さんは、そう言って立ち上がり、私を持ち上げて机の上に乗せた。

 

 むぐぐ。この状況は…。

 大丈夫だ!どうせ私は喋らない。喋ることが出来ないロボットなのだ。口を開けることは無い。

 

 私は、冷静さを見せ、口を閉じたままササッサーっと掃除を始めた。

 いつものように、パン吉さんはノートや参考書をよけてお手伝いをしてくれる。

 

「あれ?ちーちゃんなんか、ほっぺたぷっくりしてる?」

 つんつん。

 パン吉さんは、私のほっぺたを突っつき始めた。

 あ、これはまずい。私は顔を逸らしてよけようとする。

 

「あれ?どうしたの?なんかパンパンじゃない?これどうしたの?」

 むにむにむにー。

 

 オエー。

 ついに私は、口に隠した毛玉を口からはみ出させてしまった。

 

「ひぃっ!!な、なに口に入れてるの!?」

 パン吉さんは、私の口から毛玉を引っ張り出した。

 ずるずるずるずる。

「ぎゃー!!!いっぱい出てくる!!これどうしたのーー!!!」

 

 パン吉さんは、私の足を掴んでぶんぶんと逆さに振った。

 オエー!

 私はついに全部吐いてしまった。

 オエ、オエ、も、もう出ないです…。

 

 パン吉さんの叫び声を聞きつけて現われたおかあさんが、黒い毛玉が欲しかった私の心情を理解してくれたので、私は黒い毛玉を無事入手することが出来た。

 さかさまになって見るパン吉さんも可愛いかったので、私も逆さハートをしておいた。キュン。




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