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パン吉くんとちいくいんさん。と、その毛玉。

「人間の国の大学に行くなんて、無理なんじゃない?一人暮らしになるのよ?」

 母親にパン吉はそう言われていた。

「大丈夫!やってみれば何とかなるよ。最近は一人暮らしに便利な家電もあるしさ」

 パン吉はポジティブな性格から明るく返していた。

 

 だって、『出来ないかもしれない』って思って行動しないでいたら、ほんとは何にもできないから。

 実のところ、何事にも万全の準備でチャレンジできる程、パン吉の体は丈夫じゃなかった。

 

 

 そんな病弱な体を持つパン吉は、一生懸命勉強していたのに大学入試の期間に肺炎になって受験が出来なかった。

 

 母親は、さすがにパン吉をかわいそうに思って誕生日に家電売り場に連れてってくれたのだ。

 

 そこで見つけたのが、『あなたのちいさな飼育員』と書かれたポップ。

 近付いてみるとパン吉の小さい手のひらにも乗るサイズの人型ロボットだった。

 

 人間のお世話係、飼育員さんがついてくれるようなエリート獣人生活は皆が憧れるものだから、それを模してるんだろうな、とパン吉は思った。

 でも、自分が近付くと、こっちを見上げる小さな飼育員さんは少し間が抜けているようにかわいくて、すっと手を差し伸べて抱えてしまった。

 そうして、購入を決めて家に連れて帰ったのである。

 

 

 家に帰ってセットアップするとWi-Fiでネットワークとリンクさせたり、充電ステーションの設定をしたりとパン吉はかなりいろんなことをしなければならないのがわかった。

「結構、高級な掃除機なのかなぁ。9割引きって書いてあったもんね」

 でもWi-Fiセットアップした後の設定は『ちいくいんさん』が自分でやり始めて、パン吉はほっとした。

 説明書を見ると、『高度なAIを搭載しています』と書いてあった。

 

「すごい!ちいくいんさん賢いんだねぇ」

 褒めるとこっちを見上げる顔がやっぱり少し間抜けで可愛いかった。

 

 それからは気が付くとお部屋の中を綺麗にしてくれていて、本当に助かってる。

 今、パン吉は予備校に通いながら、勉強したり、ゲームしたり、マンガ読んだり、寝込んだり。そういう毎日だ。

 

 

 ちいくいんさんはUSBでも充電できるけど、急速充電したいなら充電ステーションが必要だ。

 一緒に割引きで売っていた充電ステーションは、手のひらサイズのちいくいんさんに対して30cm×30cmくらいの結構大きい物だった。

 掃除機型のお掃除ロボットが充電ドックに入ったのと同じくらいのサイズ感がある。

 

 ちいくいんさんは疲れる(充電が切れそうになる)と充電ステーションにトコトコと歩いて入っていくのだ。

 パン吉はある時、充電ステーションの中に何があるのか気になって、ちいくいんさんの充電中に充電ステーションの上蓋を開けてみた。

 

 すると、その中には小さなベットとソファがあり、ちいくいんさんはソファに座ってくつろいでいた。

「え…ほんとに休憩してる。かわいいー!」

 その声にびくっとしてちいくいんさんはパン吉を見上げた。

 呆然としたようにこちらを見上げる顔がいつもよりさらにまぬけな感じがして、パン吉は悪いことをした気分になってそっと蓋を閉じた。

 

 でもたまに開けてみる。この間はベッドで寝ていた。

 

 

 

 ある日のことである。

 

 パン吉は勉強中に気分転換に「うーん!」と伸びをした。

 ふと、床を見るとゴミが集められて一塊になっていた。

 

「ちいくいんさん、お掃除終わったの?ちりとりする?」

 しかし、ちいくいんさんはゴミから離れて充電ステーションに向かっている。

 その手には何かを抱えているようだ。

 

「ちいくいんさん?」

 何を持っているんだろうか?

 パン吉は気になって椅子をたふり、と降り、充電ステーションに入っていくちいくいんさんを観察して、そのまま充電ステーションの蓋を開けた。

 すると、ちいくいんさんは真っ白いふわふわした何かを抱えていた。

 

「え!?それ、パン吉の抜け毛じゃん!汚いよ!なにしてるの!?」

 ちいくいんさんは驚いた顔でパン吉を見上げていたが、さっ、と後ろ手に素早く白い毛玉を隠した。

「え?そんなの集めてたの?まさか…」

 充電ステーションという名の小さい部屋にあるクローゼットがパン吉には目についた。

 小さい小さい取っ手を持って、ぱかり、と空けてみると、たっぷりの白い毛玉が雪崩のように出てきた。

 

「なにしてるのー!!!」

 パン吉はショックで頬を押さえて叫んだ。

 ちいくいんさんはパン吉の抜け毛をいつの間にかにこんなに集めていたのだ。

 

 しかしちいくいんさんは全身で毛玉を守るように雪崩れた毛玉の中にダイブして、ふかふかの毛玉布団の中に埋まった。

 

 パン吉は、ちいくいんさんの横からはみ出ている毛玉をつまみ、そっと除去しようとした。もちろん捨てるのだ。

 

 しかし、それに気が付いたちいくいんさんは、パン吉が掴んだ毛玉を掴んで、イヤイヤと顔を振った。

 パン吉が毛玉を持ち上げるとそのままちいくいんさんはぶら下がった。

「汚いからダメだよぉ…」

 なんで抜け毛なんて欲しいの!?パン吉は理解できずに混乱した。

 

「どうしたの?パン吉ちゃん大きな声出して」

 そこに、パン吉の母親が現れた。

「あ、お母さん。ちいくいんさんが、パン吉の毛玉集めてたみたいで…」

「あら、白くてフワフワなきれいなのばっかりね。パン吉ちゃんの毛並みはとってもいいものね」

 コクコク!ぶら下がりながら一生懸命ちいくいんさんは頷いている。

 

「ちいくいんちゃんはパン吉の毛玉が好きなのね…。じゃあ、洗ってあげるわ。私も生まれたばっかりの時のパン吉の毛玉取ってあるのよ~」

 ちいくいんさんはその言葉にパァッ!と顔を明るくした、…気がした。

「…え?どういうこと?」

「ふわふわの毛って気持ちいいものね~」

 ちいくいんさんはコクコクと頷いた。パン吉にはちっとも理解できない趣味だが、母親には理解できるらしい。

 

 

 ちいくいんさんは、イソイソと毛玉を集め、パン吉の母親と毛玉を洗いに行った。

 パン吉はとっても複雑な気持ちだった。

 

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