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1:9

作者: はやはや

 僕は自分でいうのも何だが親孝行だ。

 二十八年間、実家で暮らしていた。親と一緒に住んでいる時は、ありがたさなんてほとんど感じたことはなく、どちらかというとその存在が鬱陶しかった。

 特に母は僕と何でも理解し合いたいと思っているふしがあり、仕事のこと、恋愛のこと、友達のこと、何でも聞いてきた。

 それらの質問を適当にかわすこともできたのだろうけれど、真面目で正直な僕は、包み隠さず話してきたように思う。

 三十代を迎えるにあたって、このままでいいのかと思った。結婚の予定はおろか、恋人すらいない。そんな男がずっと実家暮らしなんて、気持ち悪くないか?

 そこで一念発起し、僕は一人暮らしをすることにした。僕が引っ越したのは、実家から特急電車で一時間程かかる街だった。

 一人暮らしを始めて、時々、親のありがたさが身に沁みてわかるようになった。食事や洗濯を毎日してくれていた母。仕事の話を聴いてくれた父。なんだかんだで助けられていたのだと気づく。

 両親の誕生日や父の日、母の日には何かしらプレゼントを贈るようになった。

 誕生日にはお肉や果物といった、ちょっと高級な食材を。父の日には冷感Tシャツや普段履きのスニーカーを。母の日はフラワーアレンジメントやレースのついたハンカチを。

 それらの贈り物に対して、父は特に反応を示さないが、母は漫画に出てくる少女のように、目をキラキラと輝かせて喜ぶ。

 そんな寡黙な父が、唯一、喜ぶものがある。それは、ロールケーキ。ロールケーキが好きだとわかったのは、最近のことだ。

 なので、父の誕生日や父の日には、必ずロールケーキを贈るようにしている。父が好むのは、フルーツがあしらわれていたり、凝ったデザインのロールケーキではなく、これぞロールケーキ! という定番のものだ。


 うちの近所にあるケーキ屋さんの、はちみつクリームロールが一番のお気に入りらしい。

 いくつかの店のロールケーキをプレゼントしてみて、中でも一番反応がよかったのが、それだった。だから、それ以来、父への贈り物は、はちみつクリームロールを贈るようにしている。


 今日は父の誕生日だ。それに合わせて僕は、はちみつクリームロールを贈った。

 そしてついさっき、母からお礼のメッセージと写真が届いた。


【ロールケーキありがとう。お父さんといただいています】

 写真には切り分けたロールケーキを前に、すました顔の父が写っていた。

 ありふれた光景の写真のはずなのに、違和感を覚える。一体何なのか。僕はじっくり写真を見た。そして、気づく。

 割合がおかしいのだと。ロールケーキの切り方の割合が。

 母の前に置かれたお皿の上には、かまぼこのように薄く切ったロールケーキが乗っている。そして、父の前にあるお皿の上には……


 その十倍近くの、どでかいロールケーキが乗っている。割合でいえば1:9といったところだ。

 いくらロールケーキが好きとはいえ、一気にそれだけの量を食べるのは、どうかと思う。

 まぁでも、好きなようにしたらいいか。

 贈りがいもある。また来年の父の誕生日と父の日には、はちみつクリームロールを送ろう。僕は微笑みながら写真を閉じた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
タイトル、そういう意味だったのですね……笑。 そして読み終えた今、ロールケーキが食べたくなっちゃいました(*´ω`*) はやはやさん、ありがとうございました。
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