僕と進化2
よし、決めた!
レッサーデビルローチにする!
後戻り出来ない感はすごくある、決めた今も少し揺らぐくらいだが、見たことのない魔法世界で生き抜くために魔法の耐性はきっと必須だ。
走攻守に秀でているなら、多少禍々しくなってもいい!
…人類の敵になる様な感じがする。物凄くする。
考えてもみてほしい。ただでさえ嫌われ者のゴキブリだ。それが、叩いても潰れず、殺虫剤も効かない、しかも攻撃してくるだなんて悪魔だ。
多分デビルの由来もその辺りからなのだろう。
サイズは普通のゴキブリだが、凶悪すぎる。
嫌われても、100%の殺意を向けられても、もう一度死ぬよりもマシだ。
それに…何よりも、まだ進化を残しているという事が僕の虫に対する知的好奇心をくすぐって仕方なかったのだ。
だから、神様!僕はレッサーデビルローチに進化します!
ーーー進化先のリクエストを受諾しました。幼体〈タイニーデスローチ〉から脱皮を経て進化しますーーー
…どうやら僕は既に物々しい名前がついていたらしい。
この世界のゴキブリは随分と物騒だ…。
ーーー尚、一旦進化すると取り消すことが出来ませんーーー
それはそうだよね。皮を被り直してなんてことは出来ない。
大丈夫だ。これでいい。
ーーー変更しないという意思を確認。進化を開始しますーーー
すると、一瞬僕の体が強く発光した。
一気に体の中がミキサーでかき混ぜられて、頭も脚もなくドロドロにされた様な感覚。
僕の頭は?目は?と、色々わからなくなり恐怖に震える。
そう考えている間に、体は新たに作り替えられていた。関節各部にトゲトゲとした突起と、ドス黒いというのが似つかわしい黒色、長い触覚が尖り、背中に禍々しい赤黒い色の魔法陣の様なものが浮かんだ姿へと進化したのだった。
おおー!これは何だかクロゴキブリを恐ろしげにした様な感じだな!
しかし、脱皮後にふにゃふにゃになる期間がないのはありがたい。
と、ふと横を見ると、僕の抜け殻があった。
今の僕より二回りほど小さい抜け殻。感慨深い思いもあるが、ゴキブリの諸先輩たちに習い、背中にドクロマークがうっすらと浮かぶ抜け殻を食べた。
小さな体で頑張ってくれてありがとう。ここから先は一皮剥けた僕が頑張るよ。
…ちなみに味はエビフライの尻尾の様だった。
離れたところにいた兄弟たちは、僕の変化にびくびくとしており、ちょっとずつ後ずさっていた。
突然現れた敵に、僕が食われたとでも思っているのかもしれない。
「きゅきゅ!」
大丈夫だよということが伝わる様に、鳴きながら進化したことを身振り手振りで示してみると、伝わったのか、それとも襲われないことが分かったからか、皆食事を再開し始めた。
ひとまずよかった。ここまで苦楽を共にして、兄弟たちには更なる愛着が湧いていたからだ。
進化して、より強くなったのであれば、いずれハダカデバネズミを倒せるかもしれないな。
きっと彼らも外の世界では圧倒的弱者なのだろう。
それを倒してこそ、日の目を浴びることが出来るというものだ。そのためにも、もっと強くなろう。
こうして僕は新たな姿と、当面の目標を手に入れたのであった。