僕と決死の逃避行
目の前の火もようやく消えて、このまま人間が立ち去ってくれればーーーと、思っていると、
顔を溶かされた一体のスケルトンが、近くにいたモンクの男の足を掴むと、ドス黒いオーラを注ぎ込んだ。
火球の直撃を受けても尚消滅しなかったのは致命傷では無かったということだろうか…驚愕しながらも、生き抜くために情報はなるべく多い方がいいと、必死に考える。
「ぐぅううう!」
先ほどまでの余裕そうな、狂気が見え隠れする様な笑みから、強烈な苦痛に歪む表情。
どさり、とその場に膝を付いてうずくまっている。
そして、モンクに注がれたオーラがより濃いものとなってスケルトンへ戻っていくと、モンクの様子とは反対に、力を増し、放つ威圧感が急激に上がった。
「くそっ、すまない。」
シーフが謝りながら、巻かれた紙を広げると、魔法陣が空中に浮かび、モンクの姿が光りながら消えて、神官の後ろへと現れる。
神官が素早く「ハイ・ヒール!」と、唱えるとぽわっとした柔らかい光がモンクを包む。
苦悶に歪んでいた表情が徐々に落ち着いていく。
「ごめんね、油断した。」と、口を開く余裕まで出ている。
すごい…じゃない!
今度こそ巻き込まれる!
早く逃げよう!
窪みを飛び出し、兄弟たちと全力で走る。
「ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!」と、魔法使いが放った火球が、先ほどまで僕らの居た窪みを吹き飛ばし、逃げる僕たちの近くを掠めて、スケルトンの足元と、胴体、頭に激突し、激しく炎上させる。
あっっぶない!
本当に死んでしまう!
もっと速度を上げて、元いた穴倉へ進む。
「ファイアボール!」
ちらりと後ろを見ると、スケルトンは燃やされながらも、その手から黒いオーラを撒き散らして攻撃を仕掛けるところだった。
そのオーラにより軌道を変えられた火球がこちらへ飛んでくる。
ハダカデバネズミも不味いが、アレの方がもっとまずい。
当たったら塵ひとつ残らない!
何とか穴倉の奥へ逃げ込むことに成功したところで、穴倉の前を火球が通過していき、通路の、先ほどいたところよりも少し奥で爆発の様な音が響いた。
振動でパラパラと小さな瓦礫が降ってくる。
その後のことはわからない。
人間たちが生き延びていれば、そして僕らが見つかれば、運良く気持ち悪がられて潰されるか、悪くて全力で排除される。
流石に見に戻る気は起きなかったし、今は生の喜びを一旦噛みしめていたかった。
こうして初めての魔法の見学は、片方の触覚の先端を縮れさせる代償を払って行い、この世界における危険を僕に教えてくれる結果となった。